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ヒュッゲとブリコラージュ 〜堀部安嗣氏が提唱する新しい和の住まいと暮らし〜

昨日、和の住まい推進シンポジュウム in兵庫なるイベントを私が理事を務める京阪神木造住宅協議会の主催で開催しました。日本人のアイデンティティーとしての和の住まい、また、日本が保有する豊かな森林資源の活用、CO2削減の省エネ目標達成の一環としても和の住まいと暮らしを見直し、推進するために建築設計事務所、地域工務店の立場で出来ること、やるべきこと等のあり方を模索すべく、文化庁、農林水産省、林野庁、経済産業省、国土交通省、観光庁により構成された和の住まい推進関係省庁連絡会議の主導のもと、10年、延べ56カ所にも上って開催されてきた日本列島縦断の一大キャンペーンです。主催側の一員としては手前味噌ではありますが、非常に良いシンポジュウムになったのではないかと思っています。以下にそのダイジェストをお届けします。

和の住まい、住まい方の再認識

基調講演は建築家の堀部安嗣氏を迎え「私のパッシブデザイン」とのテーマで講演を頂きました。その後のパネルディスカッションでは堀部氏とダイシンビルドの清水社長をパネラーに迎え、私がモデレーターを務めて、和の住まい、暮らし方についての再認識すべく深堀をしてみました。冒頭に堀部氏がスライドに映し出されたのは〜幸せについて〜の問いでした。雪が降り積もる真冬の山を歩いていて見つけた小さな山小屋に灯るあかり、そこに入るだけでそれまでの厳しい環境は一変し、暖を取ったり、食事をしたり、人同士が語らったりと幸福感に満ちて、心身が楽ですこやかな暮らしがそこに生まれる。それこそが建築の目的ではないのか?との問いでした。堀部氏の講演の前に各省庁の担当者からのお話があり、国交相の高梨氏からは「和の住まい、住まい方の再認識で家づくりの目的が見出されると」の仮説が示されていましたが、それに呼応する形で初めに目的についての堀部氏としての見解を示された形です。

ヒュッゲ=建築の目的

その目的を端的に示すこ言葉として、堀部氏は「ヒュッゲ」という聞き慣れないデンマークの言葉(概念)を示されました。デンマークといえば国民の幸福度ランキングで世界トップの国なのはつとに有名ですが、皆が幸せだと思っている根底にあるのがヒュッゲという概念を国民が広く認知して享受しているからではないか、とのことでした。Wikipediaで引いてみるとその定義は以下の通りでこの体験を得るためには建築で出来ることは数多くあるし、同時に責任も負っているということにもなります。

ヒュッゲ
ウエルネスかつ満足な感情がもたらされ、居心地がよく快適で陽気な気分であることを表現するデンマーク語およびノルウェー語である。
「毎日の一体感」、「安全、平等、個人の全体性、自発的な社会的フローからもたらされる、快適で高く評価された毎日の体験」を指す

ちなみに、堀部氏がもっとわかりやすく噛み砕いて独自の言葉で示されたヒュッゲの定義はこちら、現代人が忘てしまった、もしくは留意できていないものがたくさんあるのではないか?との問いかけは胸に響きました。

1,家族や友人との時間を大切にする
2,時間の流れを意識する
3,無理をしない 見栄をはらない
4,自然を身近に感じる
5,物を大切にする
6,心地いい空間作りを心掛ける
7,ミニマムに暮らす
8,手作りのぬくもりを感じる
9,仕事に縛られない
10,今あるものに感謝する

堀部安嗣氏講演資料より引用
堀部安嗣氏講演資料より引用

ブリコラージュ=和

和の住まいシンポジュウムでの基調講演ということで、和の住まい、和の暮らしについても言及を頂きました。国の機関である和の住まい推進関係省庁連絡会議の方々が示されるいわゆる和風、和物、日本の伝統的な習慣ではなく、独自の視点で和の再定義をされました。堀江氏が和を体現した代表的なものとして示されたのは海苔がのったたらこスパゲティーでした。
無いものねだりをするのではなく、そこにあるものを生かし、掛け合わせることで創意工夫をして独自性のあるものを生み出す事(ブリコラージュ)こどが和ではないか?との提言でした。確かに、算数で足し算のことを和と言いますし、国の官僚が定め、目指している意図とは少しニュアンスが違うように感じられましたが、和の定義として決して間違っていません。それどころか、そのあるものを生かし、掛け合わせる考え方こそ、堀部氏の建築作品に底通している概念であり、その結果、斬新で先進的であるにもかかわらず、新築で建てられたとは思えないほど立地に馴染んでいたり、今までもずっとそこにあったかのように風景に溶け込んでいる堀部建築の醍醐味を言い表していると感じました。

ブリコラージュ

ブリコラージュとは、理論設計図に基づいて物を作る「設計」とは対照的なもので、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ることである。
ブリコラージュする職人などの人物を「ブリコルール」(bricoleur)という。ブリコルールは既にある物を寄せ集めて物を作る人であり、創造性と機智が必要とされる。

Wikipediaより

堀部建築で感じる哲学

パネルディスカッションで堀部氏の講演内容から重要なワードを拾い出して、議論を深めつつ、これからの建築業界が考えるべきこと、行うべきことを模索しました。堀部氏が設計者として和の住まいを考える上で欠かせないのが進化と循環の二つの時間軸を同時に意識すべきと言われたのに対して、清水社長が最高クラスの断熱性能を持たせて、高級素材を惜しみなく使った新築物件を見学に行って、これじゃ高性能の単なる箱で家ではないとがっかりした例を持ち出されました。清水社長は堀部氏の建築作品に数多く足を運ばれており、つい先日も讃岐緑想なる香川の民泊に社員メンバーと研修旅行に行かれていたと耳にしていたこともあり、体感としての堀部建築を清水社長及び会場に参加されていた社員の方に話してもらいました。ダイシンビルド社の皆さんが口にされたのは建築デザインの素晴らしさだけではなく、一見無駄だと思えるような余白のスペースの絶妙さでした。まさに直線的な進化とは真逆の循環を感じさせる哲学がそこにあったとのこと、私も是非とも近いうちに一度、讃岐緑想を訪れて見たいと思いました。

土地は子孫からの借り物

日本に洋式の暮らしが定着し始めて150年、長い歳月の中で随分と生活様式にも変化があり、今では純和風建築は全体の1%も建てれれていないと言います。それでも、どこか日本人の志向の根っこに和の暮らし方の原体験、記憶のかけらが残っていて、木造住宅、木をふんだんに使った内外装や畳の部屋に対する愛着のようなものが残っているように思います。堀部氏が提唱された、豊かな体験を示唆するヒュッゲや、無いものねだりではなく、そこにあるものや人をうまくかけ合わせて新たな価値を生み出すブリコラージュは昔ながらの和風とは違う、新しい概念としてこれからの住宅に取り込んでいくべき考え方では無いかと考えさせられました。堀部氏が最後の締めくくりに使われた「土地は先祖から受け継いだものではなく、子孫から借りているもの」との言葉通り、建築の事業に限らず今だけ、金だけ、自分だけの価値観を捨てて、未来思考でより良い世界を次世代に継ぐ意図を明確に持たなければと思った次第です。堀部さん、素晴らしい御講演をありがとうございました。学びをこれからのモノづくり、人づくりに生かしていきたいと思います。

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次世代に継げる価値あるモノづくりを自社設計、自社大工で行っています。


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