北欧流「ヒュッゲな暮らし」で冬の時間を楽しく豊かに <前編>

最近よく耳にする「ヒュッゲ」という言葉。
これはデンマーク語で、Hyggeと書き、「幸福な時間」「心地よい場所や雰囲気」を意味します。

家族や親しい仲間とゆっくり語りあったり、キャンドルの灯りのもとで読書を楽しむなど、「温かでほっこりとした時間を共有する」過ごし方のこと。
この肩肘はらない暮らし方が欧米諸国でブームとなり、日本でも注目を集め、生活に取り入れる人が少しずつ増えてきました。

今回、お話をうかがう芳子ビューエルさんは、デンマークを中心とした北欧家具やインテリア雑貨の輸入・販売を手がけ、「ヒュッゲ」についての著書もある、北欧流ワークライフデザイナー。

ヒュッゲの文化を日本にいち早く紹介した草分け的存在でもあります。
そんなビューエルさんに本場のヒュッゲのことや、日本の生活に取り入れるヒントについて、前編、後編に分けてうかがいます。

幸福度ナンバーワンの国、デンマーク生まれのヒュッゲ

お話は、芳子ビューエルさんのご自宅と、オーナーを務めるインテリアショップ「アルト」でうかがいました。
ビューエルさんとデンマークとの出会いは、今から約20年前のこと。群馬県高崎市で輸入商社を経営していたビューエルさんは、JETRO(日本貿易振興機構)のライフスタイル・スペシャリストとして北米に続き、北欧を担当することになりました。
当時はデンマークのことも北欧についての知識も、ほとんどなかったそうです。

「当時、北欧製品の中心といえば照明器具と寝具に関するもの。そのほかの家具や雑貨類もとてもシンプルで、アメリカのカラフルでキュートな雑貨や、イギリスの伝統的で優雅なアンティーク家具などと比べると、正直、少し物足りなく感じました」と、ビューエルさんは当時を振り返ります。

ビューエルさんが、最初にデンマークの首都、コペンハーゲンを訪れたのは1月。デンマークは冬の日照時間がとても短く、寒く、暗い季節が長く続きます。税金が高いために物価も高く、人々の普段の生活はとても質素。
住環境も日本に比べて特に恵まれているわけではなく、内装はシンプルで装飾品も少なく、どちらかといえば地味な印象でした。

デンマークは、国際連合が発表する「世界幸福度報告書」で何度も第1位に輝いた「幸福度ランキング世界一」の国ですが、その理由も、最初はピンとこなかったそうです。

「でも、何度もデンマークに足を運び、デンマークの人々とつきあい、その暮らしぶりを知るうちに納得がいきました。そして、人々が“暮らしやすい” “自分は幸せ”だと感じるのには、ヒュッゲという文化が関連している、ということに気がついたのです」
「ヒュッゲを、ひと言で言い表すのはとても難しいのですが」とビューエルさんは続けます。

「私の理解では、“大切な家族や親しい友人、知人とほっこりした時間を過ごす”という意味です。たとえば、寒くて暗い冬の夜、キャンドルの灯りをともし、親しい人たちと丸テーブルを囲み、おしゃべりを楽しみながら、温かいスープにホームメイドのパンを浸して食べる、そんな時間の心地よさ、といったところでしょうか」

ヒュッゲには「巣ごもり」という意味もあるそうで、デンマークの人々は「巣=わが家」が大好き。家で過ごす時間をとても大切にしています。それには理由がある、とビューエルさんは話します。

世界に名だたる福祉国家であるデンマークは、消費税や所得税が高額。税金が高ければ、当然物価も高くなり、老後の生活の不安がない分、現役世代の生活は楽ではありません。
外食やショッピング、映画鑑賞などへの出費にも慎重になります。
そのため、多くのデンマーク人は、仕事を終えると、まっすぐ家に帰ります。

そして、秋から春にかけては日の出が遅く、午後4時には日が落ちてしまうため、冬は、長い夜を家で過ごすことになります。
さまざまな制限のある生活環境のなかで、いかに心地よく、暖かく、必要最低限のものだけで快適に暮らすためにはどうすればよいか、というところから、ヒュッゲという概念は生み出された、とビューエルさんは考えます
「長く厳しい北欧の冬を快適に過ごすための、デンマーク特有の生活スタイルが、ヒュッゲ。そのヒュッゲな時間を演出するための小道具として磨き上げられてきたのが、家具や照明器具をはじめとする、インテリア・デザインなのでしょう」

「デンマークの首都、コペンハーゲンでは、多くの人々がアパートメント暮らし。決して広いわけではなく、日本の東京や大阪と住宅事情は変わりませんし、収納も多くありません。そのため、必要なものを厳選して所有するミニマリストになります。物価も高いので、衝動的な欲にかられて、という消費はしません。何か買うにも、本当に必要かどうかをしっかり見極め、熟考します。そこで求められたのが、飽きのこないシンプルなデザインでありながら美しく、機能的で、何世代にもわたって使える耐久性にもすぐれた家具類だったのはないでしょうか」

北欧家具の中でも、デンマーク製の照明器具や椅子は、特にデザインの美しさと使いやすさを兼ね備えることで知られます。
インタビュー後編では、デンマークの人々の照明器具と椅子に対するこだわりや、住まいへの植物の取り入れ方を通して、日本で「ヒュッゲな暮らし」を楽しむためのヒントを紹介します。

文・取材/植物生活編集部
写真/小林写函

話をうかがった人

芳子ビューエル
Yoshiko Buell
株式会社アペックス取締役社長、株式会社アルト代表取締役、北欧流ワークライフデザイナー、通販コンサルタント。
高校卒業後にカナダに留学、カナダ人男性と結婚。現地の企業に勤務し、帰国後、1989年、群馬県高崎市に輸入商社株式会社アペックスを設立。98年、J ETROよりライフスタイルのスペシャリストとして北欧に派遣され、99年からアペックスにてデンマーク寝具の輸入販売をスタート。現在は北欧ブランド7社の日本代理店代表を務め、多くの北欧雑貨を日本に紹介した実績から、「北欧輸入の第一人者」と称される。
2006年、同市に輸入雑貨・インテリア販売を手がける株式会社アルトを設立、北欧家具や照明器具の輸入販売を開始。17年にインテリアショップ「アルト」、カフェ「ヒュッゲ」をオープンし、北欧関連の商品を日本向けにカスタマイズした形で提案している。
著書に『世界一幸せな国、北欧デンマークのシンプルで豊かな暮らし』(大和書房)など。
現在、埼玉県八潮市に建築中のヒュッゲをコンセプトとしたマンション「Brillia八潮」にて、インテリアに関するアドバイザーとしてプロジェクト参加中。
http://yoshiko-buell.com

株式会社アペックス
http://www.apexb1.com

株式会社アルト
https://www.alto-star.com

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