似た電話番号の話

私はこれまで、いろんな町に住んできた。

その中で、子どもの頃に数年住んでた家の電話番号が、その同じ市内にあるスタジアムととても似てた。


引っ越して、新しい家の電話番号を知る。
引っ越しが多い家庭だったから、住所や電話番号が変わるのもよくあることだったし、新しい学校など環境に慣れることに精一杯で、家の電話番号を書く時になかなか新しいのを覚えられないなー、という程度にしかその時も考えてなかった。

神奈川から離れた県でもベルマーレの服を着て、「これが新しい番号ね」と見覚えのない数字列を見せられる。引っ越しのたびに、よくあることだった。


それがある時、サッカー雑誌を読んでたら、その住み始めた町がホームタウンのチームのホームスタジアムの電話番号が、自分の家と似てることに気がついた。
「え?これ、うち?」って、まさかそんなはずはない(笑)


学校で、そのチームのサポーターの子と話す機会もあった。「Nikoってベルマーレサポなんだ?神奈川の子?」と聞かれることもしょっちゅうで、その都度「まだ神奈川に住んだことはないけど、ベルマーレで神奈川と出会って、湘南地域はもうひとつのふるさとなんだ」と答えては、「へぇー!サッカーで地元が増えるっていいね!!」と言ってもらえたり、だいたい好意的に受け入れてもらってた。
中には「神奈川の子でもないのに、なんでベルマーレなの?お前、頭おかしいんじゃないの?」と言われることもあったし、ベルマーレがなかなか勝てない時には「遠くから、なかなか勝てないようなチーム応援してて楽しい?」と笑われることもあったけど、頭はおかしくないとはいえ、自分がサッカーと関わってる人たちの中でも変わってる部類というのはもう自覚してたから、適当にかわしてたと思う。


親が留守で、私が学校から帰って家に一人でいる時、そのスタジアムとよく似た番号の当時の家に、一本の電話がかかってきた。


その日、親に電話がかかってきたら聞いておいてほしいと頼まれてた用事があったから、ちょっと怖いなと思いつつもその電話に出た。

「あの!〇〇スタジアムですか!?」
切羽詰まった声が早口で聞こえてくる。
「今度の△△戦のチケットのことで分からないことがあって!早く知りたいので電話したんですけど!」
きっと急いでチケットを買うつもりなんだろう。そのチームのチケット購入に慣れてないということは、新しくファンになった人かな?それともアウェイサポーターさんかな?と私は思った。

「すみません、うち、〇〇スタジアムじゃないです」
それだけ言って、電話を切ろうと思ったその時、電話口の向こうからものすごく困ったような戸惑うような空気を感じた。

間違えてうちに電話してきてることと、そのスタジアムの正しい番号を教えて電話を切ろうとしたけど、なんとなくよっぽど困ってるんだろうなと考えてたら思わず「これ、間違い電話ですけど、サッカー大好きなのでもしかしたらその質問、答え分かるかもしれないです」と言ってしまってた。

その人は「ほんとですか!?間違い電話なのにすみません」と言って、チケットの買い方を聞いてきた。分かることだったので伝えた。その人は何度もお礼を言って、電話を切った。


人の役に立てたのは嬉しかったけど、これは決して褒められたことではないのも分かってる。
その人はたまたま、本当にごく普通のいいファン、サポーターさんだったから良かったけど、世の中いろんな人がいて、番号も知られてるのに必要以上にあれこれするのは、危険なことでもあるから。
もし将来自分の子どもが同じことをしたら、私だってそれは危ないよとおそらく注意するだろう。


しばらくしてから、実はお母さんの留守中に…と、母親にこの話をしたら「いや、何を間違い電話にサッカーのこと教えてあげてるの?(苦笑)危ないでしょ」と案の定言われてしまったけど、あの人は今でもあのチームを応援してるのかな?と今でも気になったりする。

もし、あの日が初めてサッカーのチケットを買った日で、それをきっかけに今でもそのチームを大好きでいてくれたり、アウェイの時には平塚にも来てくれてたとしたら、それって嬉しいことだなあと思う。


当時通ってた学校の帰り道、その県がホームタウンのそのチームのサポーターの友達Aちゃんと一緒に帰ってた時に「Nikoはベルマーレ以外の試合は応援に行かないの?」と突然聞かれた。
私がベルマーレ以外の所属の選手のことも好意的に話してるのを普段から聞いてて、そう聞いたらしい。
「基本的にはベルマーレの応援ばっかり行くけど、サッカー自体もすごく好きだよ」と私が答えると「Nikoと一緒にサッカー見に行きたいな。夏休み中に。ダメかな?」

私はいつもどこか肩身が狭い気持ちで、転校生活を送ってた気がする。だから、そんなふうに言ってくれる友達がいることが本当に嬉しく感じられた。

ちょうど都合がついて、Aちゃんとそのチームを応援に行った。事前にグッズショップに寄って、私は初めてそのチームのグッズを買った。

といってもユニフォームやTシャツは買えないので、タオルマフラーなど小物をいくつか買って、スタジアムに行って、学校とは全然違う場所でAちゃんと過ごしてることがとても不思議だった覚えがある。

ベルマーレのホームタウンに住みたいけど、Jリーグクラブがあるまちに住むというのはとても幸せなんだなあとその時実感した。
そこに住むひとつ前に住んでた町には、当時Jリーグクラブはなかったので、Jリーグの試合に行くというのは決して身近な日常ではなかったから、転校生活はきついけど、Jリーグがある場所に住めたのは良かったなと思った。


その試合の帰り、私が親に電話してたら、Aちゃんが「Nikoって学校では標準語だけど、親としゃべる時は地元方言なんだね!」とめちゃくちゃびっくりしてた(笑)
標準語というか、関東イントネーションが無理なく出てくるのもきっと、湘南地域がもうひとつのふるさとなおかげだ。

親が途中まで迎えに来てくれて家まで帰った。
「黄緑じゃないNikoはレアだね!写真撮っとかないと!(笑)」って親が笑ってた。


その後、いろんなまちに住んで今は地元に帰ってきて暮らしてる。
生まれてから少しの間は地元にいたけど、久しぶりに地元に帰ってきて、自分の家の電話番号の市外局番が自分の地元の市外局番というのが特別な気がした。


そして、その電話番号が今度は地元のチームの電話番号とかなり似てる!!
見た目ほぼ同じに感じられるくらい。
しかも私のラッキーナンバーもバッチリ入ってて、私は勝手にそのチームの電話番号を気に入ってる(笑)


まだ、そのチームのスタッフさんだと思って間違い電話をかけてきた人はいない。
だけど、もしかかってきて明らかにすぐ答えられることを聞かれたとしたら?

大人になった私は今度こそ、「お電話番号間違えてます。〇〇(地元のチーム)の番号はこれです」と正しい番号だけ案内して電話を切れるだろうか。

さすがにもう大人なんだから、それはするけど、ベルサポでも地元のチームとの密かな共通点は心の奥で嬉しい。


あと、今だから言える話。

学校で鍵をかける時とか、何かの暗証番号とか、私は自分の誕生日の数字が好きなのでその数字にすることも多かったけど、できれば誕生日とか以外の…という場合は決まって「0463」にしてた。


0463。

ピンと来る人は平塚やその近辺に住んでる人、もしくは地元がそのあたりの人だと思う。市外局番の4ケタだ。

いつか湘南に住みたいという願いを込めて、この4ケタを本当によく使ってた。

今も憧れ続けてる。


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