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呉服店と着物文化

着物のリセール販路について考える


2021年夏、私は状況打破のヒントに、知り合いのイタリア人に連絡することにしました。ミラノで80年以上、生地卸と仕立てをしている老舗テーラードの二代目である彼から、何か良いアイデアを得られるかもしれないと思ったのです。

イタリア

「KIMONOは難しいよ」彼の返信はシンプルでした。

いわく、世界のあらゆる国のファッションには長い歴史と起源があり、中でも着物の丁寧な仕事にリスペクトはあるが、例えるならアフリカの民族衣装と変わらず「異文化の珍しさ」でセールスすることになるだろう。ジャパンフェアなどの催しで出品すれば数着売れるかもしれないが、常用服として定着させるのは難しい。着物を美しい生地としてシャツのアクセントやジャケットの裏地などに使うには布本来の相場に比して高価だし、日本から海外への送料だけで競争力は削がれてしまうことになるね。

海外販路開拓もなかなか難しそう。私は頭を抱えました。


ここ数年、日本における外出自粛の影響は、特に中高齢のお客様をメインターゲットとしてきた呉服業界にも大きな打撃を与えています。
「お店の終活」でも老舗呉服店さまからのお問合せが多く寄せられているのですが、我々の在庫処分(リセール)の取り組みにあって、あらゆる業種の中でもっとも「売り手」と「買い手」に価値観のギャップの大きさを感じるのが、この着物マーケット。
着物は高級品、という供給側の意識とは裏腹に、日本国内のフリマサイトなどをみてもまさに投げ売り相場となっていて、需要がないので値崩れ、という状況が見て取れます。

呉服店

余談ですが、「着物の高価買い取り」をされている事業者様に問合せをすると、必ず自宅へのご訪問を希望されます。これは古物商のルール上、買取場所が限定されることもあるのですが、着物フックは「着物を愉しむゆとりがあった、世帯所得の高そうな中高年層のご自宅へ訪問する理由」づくりで、その他の調度品や宝飾品の買い取りを目的に本丸に乗り込む仕組みなのです。ターゲット抽出そして営業活動として、とても秀逸なアプローチだと感心させられますが、着物そのものの評価は申し訳程度、いわゆる営業経費なのですね。

呉服店2000年の歴史

着物の起源は弥生時代、およそ2000年前までさかのぼることができるそうで、呉服店の商いも古くから存在していました。
今も銀座通りに並ぶ三越、松坂屋、松屋、高島屋はもちろんのこと、伊勢丹、大丸、東急といった百貨店の源流が呉服屋さんだったことはご存じの方も多いかもしれませんが、伊藤忠商事といった総合商社、珍しいところでは消費者金融大手アコムも創業時は呉服商です。
呉服商から変貌を遂げた企業たちが現代においても活躍の場を広げているといえますが、今も呉服を生業とする「呉服・服地小売業」の現状はかなり厳しいと言わざるを得ません。

経産省の商業統計を紐解くと、ピークの1982年には2兆270億円の市場を誇った「呉服・服地小売業」ですが、その後は2003年に6,270 億円、2014年に3,090 億円と、急激に規模を縮小させ続けてきています。

呉服・服地小売業市場規模推移

市場縮小の大きな要因はもちろん洋装の浸透なのですが、繊維業界大手の東レが持つ研究機関の論文によれば、市場縮小による売り上げ減をカバーするために取った「高単価・高付加価値」戦略が着物離れをさらに加速させたという見解もあるようです。

近年では業界大手によるレンタルの拡大・SPA化といった様々な取り組み模索が功を奏し、市場規模は横ばいもしくは微増という状況ですが、新しい取り組みを行う余力もない中小企業の倒産は後を絶たない状況です。
帝国データバンクの調査によると、老舗企業(創業100年以上)に限定した倒産・休廃業・解散件数においては、2000年からの19年間で呉服・服地小売は実に251件が倒産・休廃業・解散しています。これは1位ホテル・旅館283件、2位酒小売263件に続いての全業種中3位という数字で、老舗企業が消え続けてきた業界でもあります。
株式会社帝国データバンク「特別企画: 「老舗企業」倒産・休廃業・解散動向調査(2019 年)」


上得意のお座敷需要も消えた


「静岡の店を閉めることにしたよ」
呉服店のご主人が語ってくれたのは、温泉街の昔の活況。上得意様が季節ごとに装いを新調されるため出店した支店が全く機能しなくなって久しく、このたび決断されたそう。

一般のお客様からの着物需要が減り続ける中、上得意として呉服店の売上を支えていたのが芸舞妓・芸者さん。
仕事着として着物を必要とする芸舞妓・芸者さんは割賦でも着物をお求めになる優良なお客様だったのですが、この2年間でお座敷遊び・宴会自体が激減したことにより収入が激減、廃業や転職をされる方が増えています。お茶屋さん自体は飲食店なので感染対策協力金を受け取れるのですが、芸妓に対しては補償がないのが現状。個人事業主である芸妓は特に大きな影響を受けており、宴席の激減により収入は例年の10分の1に落ち込んでいると話す方もいます。

キャプチャ

日本文化の象徴ともいうべき呉服店さんのキャリアチェンジや再販戦略については、弊社でもまだ確たる答えを見つけきれていません。まだまだ呉服店さまからのお問合せは増えていくと考えられますが、これからも一緒にお取組みの形を模索していきます。

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今日も「お店の終活」やってます。


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