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死なないという安心感 『SISU/シス 不死身の男』

「どうせ、主人公は絶対に死なないし」

アクション映画を好まない人ってコレ言いますよね。
弾雨を生き延びて、逆に一発で敵を仕留めっちゃったり。
絶体絶命の危機一髪で仲間が現れたり。
確かに「どうせ死なないんでしょ?」と冷めてしまう気持ちも理解できますが、それでも手に汗握ってハラハラドキドキできるかどうかが、この手の映画を楽しめるかどうかの分岐点でしょう。

途中で主人公が死んじゃうアクション映画ってありましたかね?
私は思いつかないのですが、あるなら教えていただきたいです。

そんなこんなで『SISU/シス 不死身の男』です。
副題に「不死身の男」と言っちゃってます。予告でもサイトでも「この主人公は絶対に死なないよー」と先に言ってしまうパターン。
そんなこと言わなくても、アクション映画の主人公というものは死なないものですが、それをあえて最初に断言する斬新さ、というか上手な切り口による差別化。


フィンランドの映画です(英語ですけど)。
第二次世界大戦末期のフィンランドの荒野でマッチョなお爺さんが金塊を掘り当てます。換金しようとヘルシンキへ向かう道中、ナチス軍に遭遇して命と金塊を狙われます。ですがこのお爺さんこそが不死身の男。戦争でソビエト軍に家族を奪われ、報復に300人ものソビエト兵を殺害したという伝説のスナイパーなもんだからめっぽう強い、という映画です。

「死なない」って最初に言われていると、さすがに手に汗は握らないものですね。地雷原の真ん中でも、水中でも、首を吊るされていても、ハラハラドキドキはしませんでした。

ということは、これまで私は「アクション映画の主人公は死なない」と肝に銘じていたにも関わらず、それでも多少なりとも「でももしかしたら死んじゃうかも!?」とハラハラドキドキしながら手に汗握っていたってことなんですよね。

可愛い!

真文は意外とピュアでウブな男の子でした。
てへぺろ。

そんなことよりタイトルの『SISU』とはフィンランド語で、勇敢で忍耐強く決して諦めない姿勢を表す概念的な言葉なので、他の言語に翻訳するのが難しく、言うなれば「フィンランド人魂」のようなものだそうです。

今でこそ国民の幸福度が世界一高い国なんて言われて、オシャレな北欧イメージのあるフィンランドですけど、旧ソ連と隣あう土地柄、多くの戦争の歴史がある国なんですよね。SISUという概念もそんな歴史背景から生まれたんじゃないでしょうか。

お爺さんは自分の力を誇示したいわけでも、他人から略奪したいわけでもないんです。ただ自分の大切なもの(金塊)を守るために、それを奪おうとする相手を徹底的に叩きのめすだけなんです。
すでに家族を奪われた経験があるから、もう、何も奪わせやしないとSISUを燃やすのでしょう。

このSISU的な魂を尊重するのはフィンランドだけじゃないですよね。
日本でも良しとされていることだし、たとえばベトナム戦争下のベトナムなんかも同じようなイメージがあります。

今で言えばイスラエルですかね。
もう絶対に迫害はさせまいという決意のもと、土地と民族と宗教を守るために敵を不死身の精神で徹底的に排除するわけです。

ガザ地区のハマスがナチス軍くらい悪い奴らだったらまだ良かったんですけど、あの人たちだってテロはダメだけど、根底には自分たちの土地や家族や宗教を守るという強い意志があって、SISU的な魂を貫いているわけですよね。

パレスチナ問題って、本当は真面目で良い人たち同士が、共にSISU的な魂をぶつけあって傷つけあっているような感じがしていたたまれないです。

ならば、国境をきっちり引いてお互い干渉せずにやっていけば良いようなものなのに、そうはうまくはいかず、お互いが守りたいはずのものが次々と奪われていくという悪循環が、何十年も解決できずにいるという悲劇。

そう考えると、SISU的な魂は立派ではあるけれど、でも、やっぱりこの世には、しても良い暴力とか、平和のための軍事力なんていうものは存在しないんだよなー、と思ったりします。

なーんて、このお爺さんは絶対に死なないという安心感のもと、ふと、世界情勢に思いを馳せてみたり。私好みのちょっと過激なゴア表現や、勇敢な女性の活躍もあって、なかなか面白い映画でした。

死なない、という安心感はやっぱり偉大です。

みなさんも、良かったらぜひ。

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