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見た目はオトナ、中身はコドモ!? スーパーヒーロー『シャザム』の魅力とは?

2022年3月に映画第二作目『シャザム!~神々の怒り~』が公開され、話題を呼んでいるDCコミックスのヒーロー“シャザム”。今回は邦訳版『シャザム!』シリーズの翻訳、そして最新作となる『シャザム!:ビリー・バットソンと7つの魔法世界』では本編アートも一部手がけている、翻訳家の内藤真代さんにシャザムの魅力についてご紹介していただきました。

※この記事は映画『シャザム!』の内容に一部触れています。

文:内藤 真代(翻訳家)

見た目はオトナ、中身はコドモのヒーロー『シャザム』

『シャザム!:魔法の守護者』を楽しんでくれた皆様、長らくお待たせしました。個人誌としては原著でも前作から6年ぶりの続編となる、『シャザム!:ビリー・バットソンと7つの魔法世界』がついに邦訳されました。2019年に『シャザム!:魔法の守護者』を原作とした映画『シャザム!』が公開され、その続編の『シャザム!~神々の怒り~』が公開されたばかり(2023年3月現在)の今、絶好のタイミングと言えるでしょう。映画から入った人もそうでない人も楽しめる、本書とシャザムの魅力について紹介します。

シャザムは、ごく普通の少年ビリー・バットソンが魔法の言葉「シャザム!」と叫ぶことで超人的な力を持つ大人に変身するスーパーヒーロー。かつてはキャプテン・マーベルというヒーロー名で呼ばれていましたが、2011年にNew52!のラベルのもとDCユニバースが大きく改変されたのを機に、ヒーロー名もシャザムに改名しました。

1945年に刊行された『Mighty Marvel Family Joins Forces vs. Black Adam!』では、
“キャプテン・マーベル”の名前で呼ばれている。
邦訳版は2022年11月発売の『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』に収録

シャザム(SHAZAM)の名は神話の神々や英雄たちの頭文字を繋げたもので、それぞれからソロモンの知恵(S)、ヘラクレスの剛力(H)、アトラスのスタミナ(A)、ゼウスの全能(Z)、アキレスの勇気(A)、マーキュリーの神速(M)がもたらされます。スーパーマンとも肩を並べるパワーを持つシャザムは「地上最強の人間」の二つ名を持ち、1940年に誕生してから今日まで愛されてきました。特にヒーローコミックの黄金期と言われる40年代において、最強のスーパーヒーローでありながら正体は10代の少年というユニークな設定は当時のメイン読者層であった同年代の子供たちの心を掴み、コミックの売上でスーパーマンをも上回るほどの絶大な人気を呼びました。

1941年にスーパーマンに先駆けて実写化し、70年代にはテレビドラマが、80年代にはテレビアニメも放映され、ポップカルチャーにも大きな影響を与えました。昨年公開された映画『エルヴィス』でも描かれていたように、エルヴィス・プレスリーがシャザム(キャプテン・マーベル)の相棒にあたるキャプテン・マーベルJr.に憧れていたのも有名な話です。

映画の下敷きにもなった『シャザム!:魔法の守護者』

このようにシャザムは80年を越える長い歴史を持つキャラクターなので、時代に合わせてそのオリジンも何度か改変されてきました。2012年に連載開始した前作『シャザム!:魔法の守護者』はNew52!以降の最新のオリジンです。ここであらすじを紹介しましょう。

主人公のビリー・バットソンは、フィラデルフィアに住む10代半ばのどこにでもいる少年。幼い頃に両親が消息不明になり、里親の家をいくつもたらい回しにされる問題児でした。新たに引き取られたバスケス家でもビリーの態度は頑なで、マリー、フレディ、ダーラ、ペドロ、ユージンの5人の義兄弟たちによる暖かい歓迎にも心を閉ざしたまま。しかし学校でいじめっ子の標的になっている義兄弟たちを無条件で助ける、善良な心を隠し持ってもいました。そんなビリーが、ある日地下鉄に乗ったはずが魔術師シャザムが住む不思議な砦にたどり着きます。魔術師にヒーローの資質を見出され、迫り来る脅威に対抗するため魔法の守護者に任命されたビリーは、そこで初めてシャザムの名を唱えスーパーヒーローへと変身します。

▲『シャザム!:魔法の守護者』の1シーン。シャザムに変身するビリー

最初は手に入れた能力を使って義兄弟の一人フレディと悪ふざけをするばかりだったビリーですが、そこに彼の力を狙う先代の守護者ブラックアダムが現れ、命を狙われます。義兄弟たちや街の住民が危険に晒される中、ヒーローの自覚もないビリーはどうやってブラックアダムを倒すのか……?

ここまででわかる通り、映画『シャザム!』の大部分の設定と展開は『シャザム!:魔法の守護者』を下敷きにしています。ただしメイン・ヴィランがブラックアダムであったり、ビリーとフレディの関係性が少し違っていたり、ビリーがヒーローの資質を発揮する場面もより丁寧に描かれているので、映画を既に観ている人もぜひご一読をおすすめします。映画『ブラックアダム』のオリジンも本作を下敷きにしているため、ブラックアダムのファンにもおすすめです。

『魔法の守護者』の1年後を描く邦訳最新刊『7つの魔法世界』

今回新たに邦訳された続編の『シャザム!:ビリー・バットソンと7つの魔法世界』では、ビリーがバスケス家の里子になった前作のちょうど1年後から話がはじまります。

ビリーもすっかりバスケス家に落ち着き、兄弟たちと高校に通いながら、時に事件に遭遇すればシャザムへと変身して解決する日々。そしてその傍ら、多くを語らずに死んでしまったウィザードの真意を探るため、魔法の砦である”永遠の岩”ロック・オブ・エタニティを探索します。

▲バスケス家の子供たちと食卓を囲むビリー

ある日そこで見つけた7つの路線が集まる駅を見つけたことから、7つの魔法世界“マジックランド”の存在を知ったビリーたち。子供たちだけが遊び暮らす遊園地のような世界、ファンランドに辿りつき、統治者のキング・キッドから豪勢な歓待を受けます。しかしあることをきっかけにキング・キッドの怒りを買い、マリーは囚われ、ダーラ、フレディ、ユージン、ペドロも別の世界に送られシャザム・ファミリーはバラバラに。動物たちの世界ワイルドランドや、ビデオゲームに入り込んだような世界ゲームランド、おとぎ話のようなウォズンダーランドなど多種多様な世界を訪れながら、人間界”アースランド”も巻き込む巨大な陰謀を食い止めることになります。

本作のメインヴィランはMr.マインド。前作のラストで登場し、魔法の影響により肉体と精神がボロボロになったDr.シヴァナに共闘を持ちかけた謎の芋虫が、すべてのマジックランドを支配すべく暗躍していることが明らかになります。映画『シャザム!』でも、刑務所に入れられたシヴァナに声を掛けていたのを覚えている方もいるでしょう。

▲『シャザム!:ビリー・バットソンと7つの魔法世界』に登場するMr.マインド

キャラクターの歴史を簡単に紹介すると、歴史的初登場は「キャプテン・マーベル・アドベンチャーズ」#22(1943年3月)になります。第二次世界大戦中に枢軸国と手を組み、世界中のモンスターやスーパーヴィランを集めてモンスター・ソサエティ・オブ・イービルを結成。自らの正体は隠したまま、アドルフ・ヒトラーやベニート・ムッソリーニ、東條英機までも自らの手駒として組織を操り、世界中を混乱に陥れました。一連のストーリーは「キャプテン・マーベル・アドベンチャーズ」誌上で1943年から1945年までの2年間に渡って連載され、アメリカのコミックブック史上初の長期連載とされています。見ての通りユーモラスな姿の持ち主ですが、名実ともにDr.シヴァナやブラックアダムにも引けを取らない格の持ち主。そんなMr.マインドが、New52以降はじめての暗躍を見せるのが本作の見どころのひとつです。

ライターは前作に引き続き、映画『シャザム!』『シャザム!~神々の怒り~』でもエグゼクティブ・プロデューサーを勤めているジェフ・ジョーンズが担当。ジョーンズと「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ」などでも組んでいたメイン・アーティストのデール・イーグルシャムが、躍動感溢れる絵柄で子供たちを生き生きと描いています。アートにはさらに、『フラッシュ』などジョーンズ作品の常連スコット・コリンズや、マルコ・サントゥッチも参加し、手前味噌ながら、本記事を執筆しており、本書の訳者でもある内藤真代/SENもアーティストとしてマリーの前日譚など一部の作画を手がけています。バラエティ豊かな絵柄で描かれた、驚きと魔法に満ちた物語をぜひお楽しみください。

内藤 真代
翻訳家。『シャザム!:魔法の守護者』『ゴッサム・アカデミー』『グレイソン』『JSA:欲望と希望の狂宴』『ブラックアダム/JSA:ブラックレイン』などを手がける。邦訳最新作『シャザム!:ビリー・バットソンと7つの魔法世界』では一部本編のアートも担当している。

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