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映画「マダム・ウェブ」で広がるスパイダーマンの世界

今月の2/23から、マーベル初の本格ミステリー・サスペンスとして、映画『マダム・ウェブ』が絶賛公開されています。皆さんはもうご覧になりましたか? スパイダーマンシリーズに新たな1ページが刻まれる重要な本作ですが、劇中に登場する女性キャラクターたちについて、「彼女たちが何者なのか正直よくわからない」という声もあるかと思います。そこで今回は、マダム・ウェブをはじめとするスパイダー・ヒーローたちについて、翻訳者・ライターの光岡三ツ子さんに解説していただきました! 映画をもう観た方も、これからご覧になる方も、必見です!

文:光岡三ツ子(アメコミ翻訳者)


映画「マダム・ウェブ」は、「ヴェノム」シリーズ、「モービウス」に続くソニー・ピクチャーズによるスパイダーマン・ユニバース(SSUとも(*1))の一環として展開される作品です。前3作に比べると、本作はMCUのようなユニバース展開に、より深く踏み込んだ内容と言えるでしょう。

スパイダーマンの物語世界には、もともとピーター・パーカーただ一人しかいませんでした。しかし時代が進むにつれて、さまざまな由来でクモのような能力を得たキャラクターがどんどん増えていきました。さらに未来や別次元版といったバリエーションなども続々増えて、その集大成が超大作コミック「スパイダーバース」となり、同じテーマの映画となったことはもう皆さんご存知ですね。

映画とコミックでは設定がだいぶ違いますが、このようなスケール感を実写映画で再現しようとしているのが、映画のスパイダーマン・ユニバースなのです。

映画「マダム・ウェブ」は、死の淵で予知能力を開花させた救命士、キャシー・ウェブが、偶然知り合ったジュリア・コーンウォールアーニャ・コラソンマティ・フランクリンという3人の少女を狙う謎の男エゼキエルの存在を知り、予知能力を駆使して少女たちを救おうとするというストーリー。キャシーと3人の少女、そしてヴィランのエゼキエルは、クモ糸のように張り巡らされた運命によって惹かれ合い、命を懸けた戦いに身を投じることになります。

作中では「現在」において普通の3人の少女が、「未来」でスパイダー・ヒーローとなる姿も登場するので、次作以降の展開に期待が高まりますね。

*1―ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(Sony's Spider-Man Universe、SSU)は、コロンビア・ピクチャーズがマーベル・エンターテインメントと共同で製作するスーパーヒーロー映画を中心としたメディア・フランチャイズおよびシェアード・ユニバースである。
Wikipedia

魅力あふれる女性スパイダー・ヒーローたちを紹介!

前置きが長くなりましたが、この映画の公開を記念して、今回はShoPro Booksで読めるコミックを中心に、マダム・ウェブをはじめ、女性スパイダー・ヒーローたちを紹介していきたいと思います。映画とコミックは異なりますが、魅力あるキャラクターたちを通じて、現在スパイダーマンというフランチャイズが展開しようとしている大宇宙を、映画に先駆けて感じることができるはずです!

●マダム・ウェブ(本名:カサンドラ・ウェブ)

千里眼(予知能力・透視)を持つ老女として、1980年に初登場しました。重症筋無力症という難病に侵された彼女は、椅子型の生命維持装置から離れては生きられず、目も不自由でしたが、その結果として宿った未来を見通す能力はスパイダーマンたちをしばしば救ってきました。しかしこの能力の悪用を狙うヴィランに誘拐される事件も多く、ついには命を落とします。

『スパイダーマン・キャラクター事典』より

この時、カサンドラは傍にいたヒーロー、アラクネ(ジュリア・カーペンター)に自分の能力を譲り、第二のマダム・ウェブが生まれることとなりました。ジュリアはこの時、新たな能力を得る代わりに視力を失うという対価を払います。

映画版の主役キャシー(キャシーはカサンドラの愛称です)は、この初代マダム・ウェブと、ハードボイルドな雰囲気をまとう若い女性である2代目マダム・ウェブのイメージを組み合わせたキャラクターとなっています。

●アラクネ/スパイダーウーマン(本名:ジュリア・カーペンター)

小さな娘を抱えた若きシングルマザーである彼女は、政府の極秘計画に巻き込まれ、謎の薬品を投与されてクモのような力を得てヒーローになります。政府主導のチームに所属し、2代目スパイダーウーマンとなったものの、その計画の悪どさに気づき、アベンジャーズ側につきました。のちに初代のスパイダーウーマン(ジェシカ・ドリュー)の復帰に伴い、アラクネと改名。念動力で空気中の分子をクモ糸に変える「サイ・ウェブ」という特殊能力を使いこなします。

『スパイダーマン:スパイダーアイランド』より
向かって左側の女性がジュリア・カーペンター

現在は前項に書いた通り、2代目マダム・ウェブとして活躍中。コミック『スパイダーバース』以来、マルチバースに存在するクモのパワーを持つ者すべてが「生命と運命のウェブ」で繋がっていることが明らかになってからは、このウェブにコネクトできる能力を持つマダム・ウェブの存在感はさらに重要性を増しています。
ちなみに、映画では「ジュリア・コーンウォール」という名前ですが、これは彼女の結婚前の旧姓です。

●アラニャ/スパイダーガール(本名:アーニャ・コラソン)

900年超の歴史を持つスペイン系の秘密結社「スパイダーソサエティ」のハンターの血筋を引く少女アラニャは、運命的にソサエティのメンバーに出会い、その相棒に任命されます。死んだ母親の旧姓である「アラニャ(スペイン語でクモの意味)」を名乗る彼女は、右手のクモのタトゥーから出現する昆虫のような青色の外骨格で体を覆う能力を獲得し、黄色のレンズのゴーグルやカジュアルなTシャツのコスチュームをまとい、クモ型のグリップがついたワイヤーを使いこなして戦いました。

『スパイダーマン・キャラクター事典』より

その後、外骨格の能力は失ったものの、アラクネから2代目スパイダーウーマンの白黒のコスチュームを譲り受け、スパイダーガールとして活動。 
そして現在は昔のものに近いコスチュームをまとい、再びアラニャと名乗っています。10代で活動を始め、溌剌とした彼女は多くのヒーローたちの後輩的存在で、キャプテン・マーベル(キャロル・ダンバース)など何人ものメンターがいます。

●スパイダーウーマン(本名:マティ・フランクリン)

マティはデイリー・ビューグル編集長、J・ジョナ・ジェイムソン。グリーンゴブリンことノーマン・オズボーンが神秘的な力を得るため行った儀式に参列した10代の彼女は、偶然にパワーを獲得してしまいます。この頃ピーター・パーカーが一時的に引退していたため、マティはコスチュームをまとい、代役となることを決意。しかし、下手な闘いぶりでピーターをやきもきさせます。

『スパイダーマン・キャラクター事典』より

スパイダーマン復帰後は3代目のスパイダーウーマンとして活動しますが、この時、勝手に「スパイダーウーマン」を名乗るヴィラン、シャーロット・ウィッターに襲われる事件が発生。シャーロットはマダム・ウェブの孫であり、ドクター・オクトパスによってクモのパワーを吸収するヴィランに改造されてしまった女性。彼女は洗脳され、初代、2代目、3代目のスパイダーウーマンたちを襲いました。マダム・ウェブは孫を阻止するため、パワーを奪われたスパイダーウーマンたちを支援し、戦いを勝利に導きます。スパイダーウーマンが一堂に会するこのエピソードは映画にインスピレーションを与えたかもしれません。この戦いでマティはシャーロットからパワーを逆吸収し、背中から出る4本の巨大なクモ足を獲得しました。

90年代に華々しくデビューした彼女ですが、00年代以降はマイナーな活動のみでほぼ忘れ去られたあげく、ヴィランに殺されたため「スパイダーバース」にも出演できなかった不憫なキャラクター。今回の映画登場はとても喜ばしい出来事なんです。

推薦図書
〜もっと深くスパイダーバースの女性戦士たちを知りたい人に!~


ここからは、スパイダーバースに登場する女性キャラクターについて、その魅力や知られざる設定・ストーリーをさらに詳しく描いた書籍を紹介します。気になる方は、要チェックです!

●「スパイダーマン・キャラクター事典」

豊富な図版とわかりやすい解説で、スパイダーマンの広大な世界を彩るキャラクターを一望できる図鑑の最新刊。いまやビッグファミリーとなったスパイダーヒーローだけでなく、アベンジャーズなど交流があるヒーロー、もちろんヴィランも網羅しています。映画に登場するキャラクターたちも含めて、紹介されているのは総勢200以上。次の映画では誰が活躍するか、図鑑をめくりながら考えるのもきっと楽しいはずです。

●「スパイダーマン:スパイダーアイランド」

突然、全ニューヨーク市民がクモの能力を身につけた! 謎のウィルスに感染した大勢の人々が壁を登り、スパイダースウィングで宙を舞う。スパイダーマンたちはその結果巻き起こる騒動に翻弄されるが、このパンデミックには恐ろしい陰謀が隠されていた……。クロスオーバー・コミックである本作では、スパイダー・ヒーローたちが集結しています。カンフーを身につけたマダム・ウェブ(ジュリア・カーペンター)が狂言回しとして活躍するほか、アラクネも登場。ポップな絵とスリリングな展開が人気のコミックで、日本語コミックでスパイダー・ヒーローたちの活躍を見てみたい方にはこちらがおすすめ。

●「スパイダーグウェン」シリーズ

ここからは映画「マダム・ウェブ」には登場していない女性キャラクターのコミックをご紹介。映画「スパイダーバース」シリーズでおなじみ、今もっとも人気あるスパイダーヒーローの一人である「スパイダーグウェン」が主人公のシリーズです。別次元のスパイダーマンであるグウェンは、ロックバンドのドラマーとして活動しながら街を守る女性。キュートな外見が魅力の彼女ですが、最大の魅力は、読者の共感を呼ぶ、等身大の悩みに葛藤しながらヒーロー業をつとめる姿と言えるでしょう。

●「シルク」

まだ映像作品には未登場ですが、コミックにおいてはスパイダーマン物語の中心部分にいる存在で、彼女が主役のドラマが作られる計画もあるため、ぜひチェックしておきたいキャラクター。韓国系アメリカ人である彼女は、ピーター・パーカーを噛んだのと同じクモに噛まれて能力を獲得しました。しかし、エゼキエル(コミックでは彼の設定はとても複雑なのです!)がスパイダー能力者を襲う敵から守る目的で彼女を閉じ込め、それから7年あまりも監禁されていました。その後、スパイダーマンが救出してくれたおかげで解放され、やがてヒーローとなった彼女は、周囲の人々のサポートを得て外界に少しずつ馴染み、真の自由と自尊心を取り戻していきます。日本語版のコミックはこの過程の一場面を描いたエピソードです。

●「スパイダーウィメン」

スパイダーグウェン」シリーズのスピンオフ。初代スパイダーウーマン(ジェシカ・ドリュー)、スパイダーグウェン、シルクがチームアップ。スパイダーグウェンは(孤立気味だった映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」とは違って)、メンターのジェシカや、同世代のシルクと心を通わせて共闘しています。将来的にはスクリーンでこの3人も含めた女性チームの活躍が見れるかも……と夢が膨らみますね。


ここまで、映画『マダム・ウェブ』に登場する、女性スパイダー・ヒーローたちとそのキャラクター背景などについて解説しましたが、いかがだったでしょうか? ビジュアルも、出自も、能力も異なる彼女たちですが、本家スパイダーマンにも見劣りしない魅力があると思います。

映画もまだまだ絶賛公開中ですので、これから観に行かれる方は、ぜひお見逃しなく! また、キャラクターをより知りたくなったら、先に紹介したShoPro Booksの書籍も参考にしてみてくださいね。

◆筆者プロフィール
光岡三ツ子(@mitsumitz
翻訳家、ライター。主な訳書に『スパイダーグウェン』
シリーズ、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ:プ
レリュード』『ドクター・ストレンジ:プレリュード』(い
ずれも小社刊)などがある。

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