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「待てば空路の日和あり」あらすじ

オーブと呼ばれる世界から大地がなくなってから千年が経っていた。 突然現れた黒い海が大地を飲み込み、人々は逃げるように空に住処を求めていった。英知を集め、大陸を削り国を空に浮かせる。 二つの巨大国家を頂点にして、上空は10階層に分けられ、最下層に住み人は光りの恩恵すら乏しいものとなっていた。 そんな最下層の村で、物吊りと呼ばれる職につくリズという少年がいた。 上から降ってきた物を黒海から引き揚げ、上の階層に売る、貧しくも必死に生きる少年は“上”に対する想いに悩んでいた。 そんな

    • 「待てば空路の日和あり」第3話

       突然の嵐で今日の物吊りが中止になった。 僕は空いた時間を利用して納屋にいた。 そこには大人が3人ほど乗れる細長い僕の小さな空船があった。 昔は一家に一艘空船があったみたいだけど、乗り手がいなくなるうちに無くなっていった。 父さんが使っていた空船をこつこつと仕上げ、いつでも飛べる準備がしてあった。余った浮液と浮木を利用して帆も新しく張り替えていた。 ロープで固定した空船に乗り込み操舵を確認する、そしてエンジンのスイッチを入れた。 ブンッという力強い音を立てながらプロペラが回転

      • 「待てば空路の日和あり」第2話

        盗難にあってから一か月が過ぎ、ようやくみんなの気持ちも治まってきた。 発覚した当初は船長や検品場で働く人を責めたり、手に入ると思っていた物が無くなり落ち込む人、バクさんが住んでいた家を壊す人など、バクさんが戻ってくることを信じている人は誰もいなかった。 恐らくだけど、子供の為に起こした犯行だと思われた。 それでも村の人達を裏切った罪は一生償っても足りないほどこの村の希望は失われてしまっていた・・・。 「船長、少しですけど、取れました」 僕は変わらずに物吊りの仕事を頑張ってい

        • 「待てば空路の日和あり」第1話

           オーブと呼ばれる世界から大地がなくなってから千年が経っていた。 突然現れた黒い海が大地を飲み込み、生物は黒く染まり邪悪な存在となっていく・・・ 人々は大地を削り、英知を集め、大陸を空に浮かせ黒い海から逃げた。 巨大な王国に続くように様々な国も空に逃げる、いつしか国が空を覆い、遅く逃げた国は光りの恩恵を受けられなくなってしまった。 今では天空上階層から下に10階層に分かれ、一番下の最下層には日の光が1時間しか差し込まず、上からは不必要になった物が空に捨てられ降ってきていた。

        「待てば空路の日和あり」あらすじ

          「物ノ国のポッケ」あらすじ

          物ノ国と呼ばれるモノだけが住む不思議な街。見渡す限りの深い森にポツンと取り残されたように存在していた。街には水路が張り巡らされ、淡い街灯が美しく光り、空が暗くなると必ず夜雨が降っていた。 そんな街を動き回る小さきモノがいた。 ポッケと呼ばれる配達者だった。他のモノたちは家から出ることなく自分の役目をしながら暮らしているが、この小さなポッケだけは言紙(ことがみ)と呼ばれる想いを閉じ込めた手紙をみんなの為に届けていた。 家から出ることができないモノの為に想いを繋げる。それがポッケ

          「物ノ国のポッケ」あらすじ

          「物ノ国のポッケ」第3話

           朝の鐘が鳴り、僕は飛び起きた。 すぐにカバンを肩に掛け階段を下りて行った。 僕の塔に住んでいるモノはいないのでどこにも寄らず一気に駆け降りる。 隣の塔に掛かる橋を渡り、いつもと変わらない日常だった。 塔に入り階段を上ってネトおばさんの家のドアノックを鳴らした。 返事はないけど中に入り、僕はカバンから言紙を取り出した。 「おばさん、今日は言紙があるよ」いつもの場所におばさんはいなかった。 「おばさん?」作業棚や天井を見てもおばさんはいなかった。 目に入る場所におばさんは居らず

          「物ノ国のポッケ」第3話

          「物ノ国のポッケ」第2話

           扉のドアノックに手を掛けた瞬間、10回目の鐘が聞こえてきた。 僕は家に入り疲れた声でメラじいちゃんにいつものやつを言った。 「じいちゃん、今日も変わりなしだよ」 「うそつけ」ドアのすぐ近くにじいちゃんが立っていた。 「じいちゃん歩けるの?」 この問いかけに返答することないじいちゃんが僕を抱きしめてきた。 「よかった」じいちゃんの煙の匂いが僕の心を温かく包んでくれた。 「ごめんね」 僕の体は紙という物で出来ているので、みんなと違ってぺらぺらだけど、じいちゃんの温もりが伝わって

          「物ノ国のポッケ」第2話

          「物ノ国のポッケ」第1話

          「急がなきゃ」 僕の住む街では暗くなると必ず夜雨が降ってくる。 空が薄暗くなってきていて、最後の鐘が鳴る前に帰らないと街が夜雨に包まれてしまう。今日は鐘楼塔に住むヤイムさんと話し込んでしまい遅くなっていた。 僕はこの街でみんなの想いを届ける配達者の役目をしている。 この街に住むモノには必ず役目があり、家から出ることができないモノの為に僕がみんなの想いを繋げていた。 空を見てから肩に掛けたカバンを持ち直し、小走りで最後の配達先のメラじいちゃんの家に向かう、最後は必ずメラじいちゃ

          「物ノ国のポッケ」第1話