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41歳からの〝ひろがる転職(チェンジ)!〟 ~転職は、プリキュアだ。~ ②

早くも「おしごと系ホラー」「IT残酷物語」として好評を博しております、『転プリ』。今回は、会社による再びの裏切りが私の心身を蝕みます。

こころの花は萎れ、プシュケーは黒く染まり、FUKOのエナジー、バッドエナジー、ジャネジー、闇キラキラル、トゲパワワ、歪んだイマジネーションなど様々なドス黒い気を放出し、やる気パワーもレシピッピも奪われました。

最初に言っておきますが、今回もまだ救いはありませんし、地獄のピークもこの回ではありません。お覚悟はよろしくて?


前回までのあらすじ


Webエンジニアとして働いていた祥太。同僚エンジニアが次々と会社を去る中で、ひとり逃げ遅れてしまう。

そんな中、直属の上司・A課長からとんでもない地雷案件を押し付けられてしまう。それは中身を一切考慮せずに見た目だけ勝手に新しくしようとしてキメラになったWebサイトの改造手術だった。その対応に追われ、3月だけで200時間もの残業を強いられてしまう。

そしてA課長のやらかしで検収不可となり、結局やった仕事はすべて無意味に。しかも翌々月になっても給与に残業代が反映されない。何故か知らない間に管理職にされていて、ゆえに残業代を支払わないとのことだった……。



第2話「大ピンチ! 悪夢の200%稼働」


ハリボテ新事業は嵐の予感!

ある日、F取締役が突然何かに目覚め、ローコード開発(プログラムを書く=コーディング作業を最低限に、視覚的にシステムを構築する開発手法および技術)で社運を賭けた新規事業を始めると言い出しました。確かに世の中の潮流として大きな動きが出来つつありますが、それまでの社業であるWeb開発とは全く畑違いもいいとこで、何より社内にノウハウが全くありません。

しかも話を聞いてみると、どうやらF取締役は、
「ローコード開発=コードを書かない=素人でも開発ができる」
という致命的な思い違いをしているようでした。

もちろん、そんなうまい話が存在するはずがありません。

そもそもローコード開発とは、日々変化を繰り返す業務に迅速に対応すべく、最小限の手間で動く業務アプリを開発・保守するための手法です。そのため通常のシステム開発と同じく業務知識と業務要件の把握、そして多くの場合は一定以上のデータベース設計スキルが必須となります。

要するに、直接プログラムは書かないけど、「システム開発の基本的な考え方やスキル」が必須なのは変わらないということです。むしろ動かすのが手よりも頭だという点で、かえって未経験の素人では太刀打ちできないとさえ言えます。

しかもローコード開発の主なターゲットは業務部門での内製化によるコスト削減であり、システム開発ベンダーによる受託開発では相応の強みがなければ勝負になりません。

また、あくまでコードを書ける箇所が最小限にされているというだけであって、実際にコードを書く場所では自由度が一気に凝縮されてしまいがちで、たまにあるコード自体は通常より複雑怪奇になりがちな傾向があります。

そんなことは露知らず「今後はエンジニア以外も開発に投入できる」と、上層部はお祭り騒ぎです。こうなるともう、エンジニアの意見など聞く耳を持ちません。

ローコード勝負! 君こそリーダーだ!!

わけもわからないまま、全社員が通常業務を圧迫されながら一斉にオンラインセミナーを受けさせられ、数百万円のソフトウェアライセンスを購入し、ローコード開発のチームが急造されました。

そして何故か、リーダーは私です。もちろんエンジニアが他にいないので、今までの仕事も引き続き全部私がやることになっています。

F取締役の目論見としては、まずパートナー会社から案件を融通してもらい、私を含めた何人かを出向させてスキルを獲得するついでに実績を積もうという算段のようです。

いや、そんな上手くいくわけないでしょ。誰がわざわざ素人集団に大金を払って業務アプリを作らせるのよ……。

まあ実際、大失敗に終わって私の退職と相前後して半年で撤退することになるんですけどね。

二人が消える? 苦しみのAとF

どうにかこうにかパートナー会社から超大手企業のシステム子会社が一次請けの大手メーカー社内業務システムリプレースの案件を融通してもらえることになり、社内から3人で面接に向かいます。

しかしエンジニアは私1人だけで、あとの2人は本格的なシステム開発が全くの未経験です。お世辞にも、適任とは言えません。

案の定、先方からオファーが来たのは私1人だけでした。当然です。「経験はありませんが頑張ります」なんて、学生バイトの面接じゃないんですから通用するはずがありません。先方もプロフェッショナルの要員提案を依頼したらズブの素人をお出しされ、内心「ナメてんの?」と思ったことでしょう。

ところが、F取締役はまたしてもわけのわからないことを言い出します。私の稼働工数を1.0人月から0.5人月に下げて、残りの0.5人月を他の2人でシェアできないか交渉するというのです。言うまでもなく先方からは却下されます。

ひとまず私が普通に1.0人月フルで出向先に常駐して仕事をすることになりました。どうしたものかF取締役はこれが本当に見込み違いだったらしく、後に彼の意味不明な思い付きに散々振り回されて苦しめられます。

これじゃない! なんかちがう毎日

出向先は超大手企業の子会社だけあって、良いオフィスでした。社員食堂も安くて美味しかったです。セキュリティや勤怠のシステムも行き届いていましたし、何よりA課長やF取締役のような変な人がいませんでした。

しかし、肝心の作業内容が全然開発じゃないのです。いや、とても簡単な仕事をゆっくりやれば事足りたので本当にラクをさせてもらえて有り難かったんですけど、フル出向してこんなことで大丈夫なんだろうかと思いました。

Excelでマスキングデータを作ったり、Excelでサーバ一覧を作成したり、Excelでテスト仕様書を作ったり、Excelでスクショを貼りながらテスト報告書を書いたり、結局は半年間ずっとExcelを触っているだけでした。

技術的なことといえば、AWSコンソールにログインしてインスタンスを起動したり、WindowsServerのタスクスケジューラを設定したり、あとは3日間かけて数百のサーバに手動でping打ってまとめるように指示されたサーバ一覧をバッチファイル書いて吐かせて3分で終わらせたり、といったことくらいでした。

とはいえお客さんから直接相談を受けながら自分のスキルを活かして役に立てるというのは、とてもやりがいがあるものです。ありがたいことにお客さんから高い評価も信頼もいただき、仕事という意味では毎日それなりに充実していました。

しかしある日、気付いちゃいました。

これ……ローコード開発……微塵も関係ねえじゃん。俺、何しに来た?

結局、出向中にローコード開発のスキルを獲得することも、何らかの実績を積むことも、一切ありませんでした。個人的には、大きな会社の良いところと悪いところを肌で感じられてとても貴重な経験となりましたが。

会社がやったことと言えば、エンジニアがみんな辞めてタスクが集中していた私を、特に何のメリットもないまま社外のそこそこヒマな現場に放り込んだだけです。正直、今でも何がしたかったのかわかりません。

さて、現場に入ってしばらくすると出向先端末とクライアント先端末を貸与され、自宅で作業をするように指示されました。テレワークが進んでいるのも、超大手企業グループらしいところです。

それからはしばらく、自宅にいながらまったりゆったりと特に忙しくもない作業をこなすという平和な毎日を過ごしました。

しかしその平穏は、またも何も考えていないA課長によってブチ壊されます。

俺には内緒! ドッキドキの地雷案件!

A課長がトップに君臨する自部署の担当業務の中に、一次請けである大手企業系のシステム子会社から来ていた、通販サイト構築パッケージEC-CUBEを使用したとある食品メーカーの通販サイトの保守開発案件がありました。

その通販サイトがリニューアルを予定しているということで弊社にもRFP(リクエストフォープロポーザル:提案依頼書。目的およびやりたいことが記述されていて、ベンダーはこれをもとに提案や見積もりを作成する。)が来ていたのですが、自分で提案も見積もできないA課長は、これをただ長期間放置していました。うち……Web開発の会社じゃありませんでしたっけ?

その結果、デザインおよびコーディングは失注(そもそも提案すらできてないので失注でも何でもなく、ただただ弊社の知らないところで弊社の知らないイベントが発生しただけですが)。組み込み作業だけがシステム全般を担当していた弊社に自動的に降りてきます。

とにかくA課長は「止める」「溜める」「何もしない」ことに関しては社内で並ぶ者のいないプロフェッショナルで、ある時などは私が一次請けとの会議中に見積を終えて決裁書を作りA課長に回付していたにもかかわらず、彼が謎に19日間滞留させたなんてこともありました。これを一次請けサイドから見ると、あたかも私が「できてますので打ち合わせ後すぐに発行しますね」と言っておきながら3週間何もしていないように見えるわけです。クソが。お客さんに急かされるのも怒られるのも懇願されるのも、全部私です。自分の仕事は秒で終えてとっくに上にあげてるのに。

なお、一次請けの会社でも信頼できる優秀なエンジニアが退職し、自分では頭も手も動かさないのにやたら横柄なタイプの新人がアサインされていました。彼は、ここから地獄の協奏曲のタクトを存分に振るうことになります。

さて、デザイン、コーディング、組み込み、A課長。ここまで読んできた方は、イヤな予感を覚えたと思います。その予感は的中します。

超オドロキ! AとFの学習能力!!

EC-CUBEは非常に洗練されたパッケージで、デザインを変更したい場合にやることは原則「使用するテンプレートを変更する」だけです。

システムの知識がない店舗オーナーやビジネス側メンバーも、ごく直感的で簡単な操作でテンプレートをベンダーから購入したりサイトに適用したりできます。ほとんど感覚は「着せ替え」です。

ただし、それはテンプレート開発者がEC-CUBEのデザインパターンを熟知しルールを遵守しているからこそ可能になります。

さてA課長が安請け合いして持って帰ってきた地雷案件では、A課長が打ち合わせで「しゃべりかけると返事をする置物」と化している間に、一次請けの使えない新人担当者が当てずっぽうでEC-CUBEのデザインルールを一切無視したコーディングを発注し、私が事態を察知した時には既にEC-CUBEにはどう考えても適用不可能なコーディングを完成させてしまっていたのです。

すなわちA課長は、3月に自分がやらかしたのと同じ類の失敗を一次請け新人担当者が目の前でやっているのを横目に見ておきながら、それを諫めも止めもしなかったわけです。

しかも最悪なことに、自社が提示した見積工数はテンプレートだけを差し替えて最小限の調整だけで使えるようになる前提での工数でした。非常識な改造手術込みとなると、大赤字確定の出血大サービスです。

こんなクソクソ and クソ of the クソ by the クソ for the クソのクソ地雷案件、一体誰がやるんですの?

ええい、みなまで言うな! もうオチはわかってるんだ。クソがよ。

稼働の単位は何? AとFの世迷い言

クソ地雷案件、A課長はさも当然のように私に振ってきます。どうやら私が外の現場に1.0人月フルで出向していることを、この期に及んでもまだ理解できていなかったようです。

ようやくどうにもならないことを理解して親分のF取締役に泣きついた結果、F取締役が「出向先の作業を半分の時間にして、残りの時間と残業・休日出勤をしつつ通販サイトの対応をすればいい」という意味不明な絵空事を言い出しました。

当然ながら3月のタダ働きの件は記憶に新しいところで、私が了承するはずありません。もちろん出向先も寝耳に水で、困惑しています。最悪、他から人は融通できるので私から減らした0.5人月の分で弊社の素人を寄越すのだけはやめてほしいとのこと。ごもっともです。

窮したA課長はある日、F取締役からの伝聞として「致し方ないので報酬を出すことも考えているらしい」と伝えてきました。

ちょうどプリキュア20周年も佳境が迫り、映画『F』、ひろプリライブ、全プ展横浜、20周年ライブ、感謝祭……と今後さらなる多額の出費が予想されたことから、念を押して残業代の支払いだけはちゃんとしろと念を押し、気は進まないながらも通販サイトのクソコーディング適合手術の対応をすることにしました。

この口約束を正式な文書として取り交わさなかったことを、後悔します。

障害爆増! ズブの素人のお手伝い

この案件は私が経験した中でも最悪のもので、最初から誤った方向性で作られた中間成果物を誤った「もったいない」精神でゴリ押しし続け、また顧客の要望を精査せずに次から次へと100%呑み続けた結果、もともと問題のなかった元のシステムのあちこちに軋みや歪みが生まれていきました。

しかも会社はそれを支援するどころか、「人を追加すればうまくいくだろう」という安易な考えで業務知識、案件知識のない人をどんどん寄越し、そのたびに私が教育と指導とレビューとコード修正で時間を取られるという最悪のスパイラルに巻き込まれていきました。

「ブルックスの法則」という、プロジェクトマネジメントの有名な法則があります。炎上プロジェクトに人だけ突っ込んでも余計に炎上するだけでかえって遅れは嵩む、というものです。

A課長もF課長もそんなプロジェクトマネジメントのイロハのイも知らずに、ずっとPMごっこをやってきたのです。ほんと、とことん迷惑な話です。

9・10月は、3月に輪を掛けて地獄のような毎日でした。それでも何とか耐えて頑張りました。だって、今度はちゃんとお金を払うって明言してたんですから。

もしあれすら嘘だったら、A課長もF取締役も、さすがに人間のクズでしょ。

でも蓋を開けてみたら実際、正真正銘、あいつら人間のクズでした。

口座確認! 奪われた残業の手当!

11月の給与支給日。9月分の残業代が一切入ってきません。

ひょっとしたら忘れてるかもしれないよね。こうなりそうな気もしてたし。それに、いくら何でも2回も騙し討ちをするなんて人としてどうかしてるし、私も2回も騙されてバカみたいじゃん。そんなことあるわけが……

怒りを抑えながらA課長に確認すると、小声でモゴモゴと何か発声しています。かろうじて「やっぱり出さないことにした」と聴き取れました。

ん? 何を言ってる? 「出さないことにし」ようとして、できるものなんですの? それって。

さすがにブチ切れてA課長を問い詰めますが、「出さないことになったので」の一点張り。理由を聞いても「わからない」しか言わない。

え、マジなの? 何なの?

最初からそうとわかっていれば、こっちも「対応しないことになったので」って言えたんですけどね。ちょっと卑劣がすぎるんじゃありませんかね?

さすがにそこまでする必要はないと思って覚書とか作らなかったの、大失敗だったかしら。だって、上司がガチのクズだなんて知らなかったんだもん。

おっどろきの虐待! ふたりは何者なの!?

それからは毎日のようにA課長に、F取締役に、会社に問い合わせを続けますが、いずれものらりくらりと誤魔化されました。

しかも最悪なことに、都合の悪いことには一切耳を貸さない一方で、自分達が言いたいことだけは大声・早口で捲し立ててきます。

通販サイトの件で技術的な質問があったらしく私が出向先での勤務をしている最中に突然A課長やF取締役を含めた6人くらいのグループチャットを作られ色々矢継ぎ早に質問が飛んできたなんてこともありました。

私が一言だけ「残業代が今日も振り込まれていませんが、どうなってますか?」と書いた瞬間に全員がピタッと止まり、ルームが消滅しました。

ここまで来ると疑心暗鬼も頂点に達します。

社内にも大阪営業所の取締役統括部長など、親身に相談に乗ってくださる方もいました。しかし諸悪の根源であるF取締役が私に関する全てを仕切っている以上、彼が私を助けようにも限度がありました。

そんな怒りと憎しみと絶望の日々を2週間ほど過ごしたある日、一筋の光が差します。


次回予告 (第3話…5/4土曜 あさ11:00公開)


絶望に苛まれた祥太のもとに突然かかってきた、一本の電話。

それは、かつてプリキュアの製作元・東映アニメーションのエンジニア求人が気になって興味本位で登録した転職エージェントからの営業電話だった。

奇跡的なタイミングでプリキュアが導いてくれた出会いは、祥太に人生を変える転機をもたらすのか。

『41歳からの〝ひろがる転職(チェンジ)!〟』、
「祥太の道! 私、転職します!!」

転職は、プリキュアだ。


サブタイトル元ネタ…『Yes! プリキュア5』(2007) 第23話

小見出し元ネタ…『ふたりはプリキュアSplash☆Star』(2006) 第2、3、44、43、26、22、19、25、48、1話


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