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❹「ホールド・オン・タイト!」

3・最終回)
メジャーリーグには、人種の壁を破って活躍したジャッキー・ロビンソンという黒人の英雄がいて、毎シーズンに一日、全選手がロビンソンの背番号であった「42」を付けてプレイする日がある。

ここに「ロデオ界のジャッキー・ロビンソン」とも喩えられる黒人のカウボーイがいる。名を、マーティス・ダイトマンという。

今から五十年前のまだ人種差別意識が色濃かったアメリカで、ダイトマンは黒人ブルライダーとして奮闘した。偏見とも戦ったし、貧しさとも戦った。
ブルライディングは採点で決まる種目であるため、彼は白人ジャッジからの「手がハットに触れた」だの、「バランスが悪かった」だのといった難癖に入り込む余地を与えないよう、誰よりも片手を高く掲げ、美しい姿勢で乗ろうとした。
ナショナル・ファイナルズ・ロデオには三回出場したが、残念ながら最高順位は三位までで、ついに優勝には至らなかった。
消沈したダイトマンが、親友であった名選手のワレン・フレックルズ・ブラウン(白人)に「世界チャンピオンになるには、俺はどうしたらいいんだろう」と尋ねた際の、ブラウンの答えが哀しいユーモアをたたえている。

「今まで通り乗ったらいいんだよ。そして、白くなれ」

この日、ロデオ大会が開催されるクロケットは、ダイトマンの出身地で、彼を記念したものだった。ただし、一九三五年生まれのマーティス・ダイトマンは健在である。
僕が会場の前に建てられたダイトマンの胸像を写真に収めていると、似たような黒人の紳士がこちらへ歩いてきた。
「ミスター・ダイトマンですか?」
「そうだよ」
僕は断ってから、彼の写真を撮らせてもらった。

銅像を撮ってから、次にその本人を撮るというのは、はじめての経験だ。

会場の裏手では、ランディーがタイトに向かって熱心に話していた。
「とにかく、脚だ。ちゃんとスパーをブルの腹に食い込ませるようにホールドし、握ったロープに腰を引きつけることを意識しろ。いいか、今日はそれだけやれ」

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