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NFTについてかじった後に考える、紙の本の流通の話

デジタルコンテンツとNFTの流行

昨年あたりから(?)Web3.0という言葉を様々な所で見かけるようになり、にわかにNFTという言葉を耳にするようになった。デジタルアートやメタバース内のコンテンツに現実のモノと同じような唯一性を持たせ、そこに新たな経済需要が生まれる、というやつだ。
その中で気になったのが、NFTが作者から別の人に買われ、更にその先で売買されたとしても、作者に利益をもたらし続けることができるという仕組みだ。
技術的な詳細は追えていないけれど、NFTの売買の際にいくらかのトークンを売った人だけでなく作者も得られる仕組みがあるらしい。

本という薄利多売かつ転売可能なコンテンツ

※これから特に注釈なく「本」と言う場合は電子書籍を含まず、紙の本を示します。

転売後も作者に利益が発生すると聞いて真っ先に思い浮かんだのが中古書店と作者のことだった。特に学生の頃、中古書店にはとてもお世話になっていた。しかし中古書店で本を買っても作者に一銭もお金を入らないので、社会人になって自由に使えるお金が増えてからは新品で本を買うようになった。本を楽しませてもらった分、作家に還元したいと思ったからだ。

一方、学生の時の自分に「作家に還元されないから本は全て新品で買え!」と言っても「いやそんなにお金ないし……」と言われて話が終わるのもまた事実だ。それに一度読んだ本を売ってそのお金で別の本を買い、その本を読みたい人は安く本を手に入れられる、というのは読み手としては有難いサイクルだ。それによって作家や出版社に利益が入らない、というのがネックなのだ。

書籍は薄利多売な商品で、1冊500円の文庫本にも作家ー出版社ー取次ー書店が関わっている。(厳密には印刷所や流通も関わるが、それは出版社や取次の領域。)
500円の売上に対し少なくともその4者が利益を分け合うことになるので、本の単価の安さも相まってかなり実入りの少ない商品と言える。
加えて中古書店や転売で購入された本の利益は上記4者に入らないため、出版業界はマーケットの大きさの割にかなりカツカツな業界だと思う。
最近はメルカリで個人間売買も増えているし、なんなら本を中古で買って中古で売る、ベストセラーを早めに買って読んですぐに売ることを推奨するようなミニマリストもいたりするのが現状だ。

妄想:Web3.0の仕組みで業界は変わるのか?

じゃあ中古書店や個人間売買の売上から少しでも作家に利益が還元されないか、と考えた時、NFTで実現している仕組みが応用できないだろうか。
デジタルコンテンツと比べて本にはどんな特徴があるだろうか、どんな仕組みなら作家に利益が還元され続けるだろうか、その時どんな課題があるだろうか、をこれから考えて(妄想して)みる。

本というメディアの特徴

NFTはいくらでも複製可能だったデジタルコンテンツに希少性を持たせることによって価値を生み出した。一方、本はリアルなモノであるため、既に希少性と唯一性を持っている。どんな本も重版されない限り世の中の流通量は決まっているし、流通や資源のコストが掛かるため無限に複製することもできない。

例えばサインや蔵書印が残されている本には唯一性があるし、部数を限って発行した書籍や絶版された書籍には希少性がある。だから古書やサイン本は元値より高く「中古で」売られていたりする。
中古で、というのがミソで、本には価格維持制度があるので新品の本は定価より高くも安くもならない。そのためどれだけ本の希少価値が上がろうとも作者に還元されることはなく、中古書店や転売する個人が希少価値による利益を受けることができる。(まあ中古書店にも人件費や土地代などのコストが掛かっているので、そこまでの利益は出ないだろうが。)

どんな仕組みなら作家に還元されるだろうか

NFTの仕組みを応用して、新品でも中古でも関係なく本が売れる度に作者に還元できないだろうか。自分はブロックチェーンやNFTに関して少しかじった程度の知識しかないので、技術的に認識が誤っている箇所が多数あるだろうと思う。(もしこの文章を読んでくださった方がいて、その方が優しく誤りを正してくれればとても嬉しいです。)
一応、システムを介して売買される限りは可能だろうと思う。まず書籍にはブロックチェーン上で識別可能なIDを割り当てる。ISBNではなくシリアルナンバーのようなものをイメージしている。
そのIDの書籍がネット通販システムを介して売買される際、そのIDのチェーンに対して売買記録のトランザクションを記録する。それに伴い作家に対してその売買で発生したトークンの一部を還元し、売買した人だけでなく作家に対しても利益が発生する。

店舗販売の場合はPOSシステム(レジのシステム)で売上を計上する際にトランザクションを記録し、上記と同じようにトークンを発行すれば作家に対しても利益を還元することが可能だろう。バーコードを読み取った時の商品情報に書籍のIDが含まれていて、精算するとそのIDのトランザクションが記録される、というような感じだ。
個人の中古書店でPOSシステムを使わず、手で売上を記録しているような場所での売買では実現不可能だろうが、そもそもリアルなモノの移動を完全にトラッキングすることはできないので仕方ないだろう。当然、友人に本をあげる、図書館や学校に寄贈する、などもシステムを介した売買ではないため、本の移動ではあるがトランザクションとしては記録できない。

こんな感じの仕組みができれば中古書店での売買でも作家に利益が還元できないだろうか、と妄想していたが、どんな課題があるだろうか。

発生すると思われる課題

ぱっと思いつく課題としては、書籍販売が新品だろうと中古だろうと薄利であることだろう。
トランザクション発行はタダではない。最近EthereumがThe Mergeを完了させてトランザクション発行に伴う電力消費量を削減したことが話題だったし、今後もブロックチェーンを使う上でのコストはどんどん下がっていくだろうと思う。
しかし、ただでさえ薄利である書籍の流通において本1冊ずつにトランザクションを発行することは無視できないコストだろう。当然ながら本も刷った分全てが売れるわけではなく、売れずに取次や出版社の在庫となり、そのまま処分されるものもある。そうすると、トランザクションを発行してもその先のチェーンが発生しないままの本が発生することになる。今でも印刷、配本、返本、在庫のリスクを出版は抱えているが、そこにさらなるコストが積まれてしまうのだ。

システム導入コストや、古くからの商習慣がある(らしい)出版業界で新しい流通フローを導入しようとするコストも言わずもがなだ。

中古書店側としても、先述した通り書店の土地代や在庫管理費、人件費が掛かっており、薄利多売であることは新品書店と変わらない。例えば顧客から本を500円で買い取って1000円で売る場合、差し引き500円の利益ではある。そのような金額感で前述のコストをまかなうことになるため、やっぱり薄利多売なのだ。
そこにきて作家に利益を還元する(分配する(ということは、さらに中古書店の利益が減るということだ。それはなかなか許容されないだろうことが予想される。

仮にそのようなシステムが導入されたとしても、居酒屋のチャージのようにサービス料などを取るようにして本の値段を下げるような業態に変わって結局作家に還元されにくい売り方になる気がする。もしくはカフェのように利益率が高い業態を併設し、そちらを利用しないと書籍を買えないようにするなどのやり方も考えられる。(カラオケのワンドリンク制みたいな)
ネット書店の場合はもっと分かりやすく、Amazonで見かけるように書籍代は1円や10円にして送料で利益を出すようになるだろう。そうなると結局、当初考えていた「中古で本を買っても作家に利益が還元される」という仕組みは実現されない。

電子書籍をNFT化しては? と思ったけれど、それによって書籍の価格が跳ね上がっていったりするとむしろコンテンツが先細っていくだろうことを考えると、これもまた一筋縄ではいかない。

妄想を終えて……

せっかく妄想したのに悲しい結末になってしまった。NFTから妄想してみた方向の作家への利益還元は自分の考えでは難しかった。
現実的に新しい仕組みで作家がより多くの利益を得る仕組みとしては、既にいくつかサービスがあるファンエコノミーなのだろう。
作家が発行するトークンを購入し、そのトークン所有者限定でサイン会を開くとか、オンラインでトークライブをやるとか、そういうやつである。

そういう動きはどんどん増えてほしいと思いつつ、いつか中古での購入などでも作家に利益が還元される仕組みが発明されて、広く流通してほしいなと思う。

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