ホラーと知らずに『ミッドサマー』を観た

2020年は心身ともに調子を崩したりしていたけれど、だいぶ復調してきたので映画でも観ようかなということで掲題のとおり『ミッドサマー』を観ました。ただでさえ出不精で映画館に行くことを億劫がる性格な上にコロナでの外出自粛などもあり、いつも話題作を観る時は周回遅れです。タイトルと宣材写真?以外の前情報は持たずに観ましたが、途中でホラーということに気づいて驚くなどしました。以下、感想を書いていきますがネタバレ注意です。(今更この作品の感想ノートでネタバレを気にされるかは分かりませんが……。)あまりまとまっていない文章で申し訳ないです。

異界としてのホルガ

序盤からオーケストラの狂ったチューニングの音みたいな不協和音と冒頭の主人公ダニーにとってのトラウマシーンから、なるほど単なる華やかな物語ではないらしいというか、不気味な物語だなと察しました。
ダニーたちがスウェーデンのホルガに向かう時、運転中の車から映している風景が上下反転するのですが、そこでなるほど異界に入る物語らしいということも分かります。反転する視界の先にある、異なる言語と服装、そして宗教を持つコミュニティはグローバル化した現代でも一種の「異界」と言えるでしょう。
解説サイトから物語の背景であったり伏線であったりが説明されているのですが、おそらく基本的すぎて説明がなかったのだろう要素で自分が引っかかったのが主人公の恋人「クリスチャン」の名前。クリスチャンといえば「キリスト教徒」の意味を持っているかと思いますが、やはりそういう文脈での名前かそれとも一般的な名前なのか。僕がアメリカ文化に疎すぎて分かりませんが、前者ならキリスト教圏から非キリスト教圏の異界への旅であること、クリスチャン達は異なる宗教圏から現れた異物であることが強調されるように思います。ケルト文化にも明るくないので分かりませんが、キリスト教にとってケルトの多神教は異教ですし、異教的世界の不気味さをかなり強調して演出しているように思えます。

ホルガとアメリカの視覚的な対比

美しい色彩が特徴的と言われる作品だけあって、確かにそれぞれの場面は色鮮やかで華やかでした。その華やかさが浮世離れしているが故に不気味なのだとも思います。ホルガの人々は白い民族衣装にカラフルな花を身につけていたけれど、「外の血」であるクリスチャン一行は常にアメリカで着ていたままの服装で、視覚的に明らかに異物です。キャラクターの役割的にはダニーがアメリカからホルガに取り込まれる存在、ペレは案内人(黒幕とか犯人とも呼べる存在)、クリスチャンは異物であるアメリカの象徴でしょうか。
彼らはホルガ側の事情もあり表向きでは歓迎されますが、基本的に最初から最後まで異分子(外の存在)のままです。最終的に女王として受け入れられたダニーはアメリカの服ではなくホルガの白い衣装にカラフルな花を身につけ、一方のクリスチャンはマヤとの行為まではアメリカの服、行為の前後は儀式的意味合いを持つためホルガの衣装、その後どこにも属すことができず裸になり生贄になるときには邪悪なものの象徴として熊の剥製を着ています。どこにも属すことができず、というよりはもはや人間として扱われなくなってしまっているが故に裸なのかもしれません。クリスチャンの「邪悪」は儀式的な生贄というだけでなく、ダニーがクリスチャンに対して感じて失望もまた「邪悪」であり、それを焼き払うことができたから最後のダニーは笑顔なのでしょう。クリスチャンを個人ではなく「邪悪」として焼いてしまう様はグロテスクで、僕個人としてはカタルシスというよりも薄寒さが残る結末でした。

Midsummer繋がりで思ったこと


後から思ったことですが、不気味で華やかな世界観、キリスト教圏から見た異教感はMidsummer Night Dream(真夏の夜の夢)の文脈の上にあるのかもしれません。夏至(midsummer)自体は一般的な単語ですが、シェイクスピアの影響力を考えると全く影響がないとも思い難いです。
無理矢理こじつければ物語序盤でのトリップはMidsummer Night Dreamの惚れ薬でのトリップのオマージュと言えなくもない。いや、流石にそれは薬を使って認知を歪めていることしか合っていないので、やっぱりこじつけですね。ただMidsummer Night Dreamもケルト的異教の世界の物語ですし、迷い込む男女のモチーフ、終盤のクリスチャンの正気を失っているであろう(もっと言えばトリップしているような状態であろう)中での行為も惚れ薬での酩酊状態に近いかもしれない。喜劇ではない、という決定的な違いがありますが、読み返して映画と比較してみたら新たな発見がありそうです。


まあ、僕はリアルな「痛み」の描写が苦手なので映画の方を観直すのはずっと先になりそうです。成人して数年経ってもホラーは苦手です。

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