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近江商人の理念:三方よし

 三方よしとは、江戸時代から明治時代にかけて活躍していた近江商人が持っていた経営理念のことだ。近江商人は大坂商人や伊勢商人と並んで日本三大商人と呼ばれ、非常に繁栄していた。そのため、現在も多くの経営者が、近江商人の「三方よし」こそが経営における重要な考え方であるとし、自社の企業理念に組み込んでいるのだ。三方よしとは、「売り手、買い手、世間の3つすべてにとって良い商売を心掛けるべし」という意味を持つ言葉のことで、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」と表記される。

 企業にとっての最大の目的は利益を出すことであり、多くの経営者はまず「売り手よし」を目指して経営を行う。しかしながら、商売というのはそれほど単純なものではなく「売り手よし」だけで業績を伸ばすことはできない。現代の言葉で「WIN-WIN」という言葉がるが、これは売り手と買い手がどちらも得をできる関係性のことを言う。WIN-WINの関係を築こうとせずに自社の利益だけを追求してしまうと、一時的には利益率が上がってもリピーターが増えないため、だんだん利益が出せなくなる。多くの企業が「WIN-WINの関係」、すなわち「売り手よし」と「買い手よし」の両立を目指して経営をしているのだ。

 近江商人たちの素晴らしいのは、「売り手よし」と「買い手よし」だけではまだ足りないと考えていたところだ。「売り手よし」「買い手よし」に加えて、「世間よし」を入れ、「三方よし」としたのだ。つまり、取引をしている両人だけでなく、社会そのものも豊かになるようにしようという思いがあったのだ。

 「三方よし」のルーツとされる近江商人は、琵琶湖の周辺の出身者たちだ。地元産の麻布などを全国に売り歩く一方、現地でこんぶや魚などを仕入れて商売をした。見知らぬ土地で信頼を築くうえで、土地の人々を大事にしたとされる。近江商人の研究者は「世間」を大切にしたのが近江商人の特徴だった」と話す。

 「世間よし」は世間様に対して貢献することなのだが、近江商人は利益が貯まると無償で橋や学校を建てたりしたのだ。つまり三方よしとは「商いは自らの利益のみならず、買い手である顧客はもちろん、世の中にとっても良いものであるべきだ」という現代の経営哲学にも通じる素晴らしい考え方なのだ。

 「三方よし」という表現のルーツは伊藤忠商事の初代伊藤忠兵衛が近江商人の先達に対する尊敬の思いを込めて発した『商売は菩薩の業(行)、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの』という言葉にあると考えられる。自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、現代のCSRにつながるものとして、伊藤忠をはじめ、多くの企業の経営理念の根幹となっている。

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