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児童福祉は人がなすべき最高の善~稲盛和夫氏の福祉観~

 2014年のことだっただろうか。京都で開催された全国児童養護施設長研究協議会において、京セラやKDDIの創業者で、日本航空の会長でもあった稲森和夫氏の記念講演『人は何のために生きるのか~児童福祉の視点から~』を拝聴する好機に恵まれた。

 稲森氏は、京セラ・KDDI代表取締役を退任された後の2000年頃、マスコミ報道にて児童虐待を耳にし、京都府や京都市の児童福祉担当者から話を聴き、児童福祉施設を見学し、社会的養護の現状を学ばれた。厳しい境遇にある子どもたちを支援したいという強い思いから、児童養護施設と乳児院の建設を決断し、『京都大和(だいわ)の家』を創設。さらに京都の施設出身の18歳以上の自立を支援すべく、公益財団法人稲森福祉財団を設立し、20歳までの若者に毎月2万円を支給している。ちなみに、稲森氏は
臨済宗妙心寺派円福寺で得度し僧籍を得て、戒名(僧名)を大和(だいわ)とされており、建設した施設の名称はここに由来しているものと思われる。
 
 講演の中で、稲森氏は児童福祉について次のように語った。
 
 児童福祉は、人としてなすべき最高の善である。児童福祉に携わる職員の心構えとして、子どもたちに「優しい心」、自分への見返りを期待しない「無償の愛(仏教の慈悲、キリスト教の愛)」で接することが大切である。そして、職員のその心がやがて子どもたちの心に届くのを、時間をかけて待つことが重要である。

 人生は「運命」という縦糸と「因果の法則」という横糸によって織りなされる。私は人生とはどうなっているのだろうかと、ずっと考えていた。人生というものは、我々個人が生まれたときから死ぬまでのあいだに、どういう道を辿っていくのか、もうすでに決まっているのではないだろうか。すなわち、人にはそれぞれ決められた運命があるのではないか。その結果、人は運命というものに翻弄されながら、その過程で、善きことを思い、善きことを為せば、人生にはよい結果が生まれ、悪いことを思い、悪いことをすれば、人生には悪い結果が生まれるという「因果の法則」があるということを思い始めるようになった。そして、この因果の法則の「横糸」と運命という「縦糸」で織られた布が、それぞれの人生を形づくっているのではないかと、考えるようになった。善きことを思い、善きことを実行する人生を送ることは、運命を好転させるだけでなく、人生の目的でもある。そして、生まれ持った心を、人生の荒波の中で洗い、磨き、より美しいものへと変えていく。そういう意味でも、善きことを思い、善きことを行ない、子どもの運命をも好転させる児童福祉は、人生の究極の目的を実現する天職である。

 昨年、稲盛和夫氏が天国へと旅立たれた。経営者としても福祉人としても立派な活動を続けて来られた稲盛和夫氏は、明治・大正期に経営者として、また福祉人として活躍した渋澤栄一氏のような存在であった。
 稲盛和夫氏の講演を生で聴く機会に恵まれ、ためになるお言葉を伝えていただいたことは一生忘れられない貴重な時間であった。稲盛和夫氏に感謝の気持ちでいっぱいだ。

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