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「もののけ姫」から考える差別 その2

 宮崎駿監督作品「もののけ姫」から学ぶ第2弾。

 今回は「もののけ姫」の中では、サンやアシタカと敵対するエボシについて考えたい。
 
 本編で語られることはなかったが、宮崎駿のメモによると、かつてはタタラ場の娘たちと同様に人身売買されたという辛い過去があり、彼女自身が社会的弱者であったという裏設定があった。「倭寇(海賊)の頭目の妻にされるも、次第に組織を支配するようになった後、頭目を自らの手で殺害し明国の兵器と共に日本へ帰ってきた。」いう壮絶な過去がある。ゴンザはこの組織に属していたが、エボシに惚れ込み付いてきたという。この経験が、社会的弱者、特にかつての自分と同じ境遇の女性たちの救済を目指す原動力や男性を信用しない部分の原因となっていた様である。

 「もののけ姫」に描かれている「たたら場」は、本来女性が働く場所ではないとされるのだが、常識にこだわらないエボシは、身売りされた女性をあちこちから救ってきてこのたたら場で働かせている。また、全身を包帯で巻いた病者が描かれている。これは、当時は不治の病とされたハンセン病に侵された人々である。ハンセン病患者に対する差別の問題を、宮崎駿は「もののけ姫」の中でさりげなく、しかしながら鋭く問題提起しているのだ。ハンセン病患者が生活し、新型の石火矢を製作する小屋の長(おさ)は、エボシが自分たちにとって特別な存在だとアシタカに訴える。エボシだけが自分たちの汚れた身体を拭き、腐った肉を洗い流し、包帯を変えて下さるのだと訴える。自分たちを「人」として扱ってくれた唯一の存在なのだと。エボシ御前のその姿は、光明皇后(聖武天皇の皇后)がハンセン病患者の身体の膿を口で吸い出してまで救済にあたったという逸話を彷彿とさせる。「もののけ姫」の中でエボシは悪役のポジションにいるのだが、エボシは癩病者も女性も差別することなく仕事も与え、人として生きられる社会・環境を提供しているのだ。

 「もののけ姫」に登場するのは、蝦夷(えみし)、サンカ、遊女、ハンセン病患者、牛飼い、石火矢衆、そして一般的に身分が低いとされていた製鉄を生業とする人々・・・すなわち「日本における歴史的な被差別者」だ。

 「もののけ姫」の終盤ではエボシが不在となった「たたら場」に侍が攻めてくる。女も男もハンセン病者も、全員が一丸となってたたら場を死守した。そしてデイダラボッチが倒れ込んで強風が巻き起こった後、全てが吹き飛んだたたら場には緑が戻る。さらには、アシタカが受けた呪いのアザが消えたのと同様に、ハンセン病者も治るのである。包帯がずれてきれいになった自分の手を見て驚く様子がラストシーンに描かれている。

つづく


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