「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」問題

落語家になると、若い時は、特に飲食店から

「勉強の場を提供してあげます!」

という言葉とともに、「ギャラは無いです」という言葉を食らいます(笑)

これは「落語会で携帯が鳴る」問題と同じくらい発生する「噺家あるある」です。

ということで、本日の記事は、

・「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」はなぜ起きるのか?
・この問題は、東京なら真打昇進ぐらいまでは頻繁に起きる。
・落語ファンの常識は、一般的ではない
・この問題の解決策と未来への期待

です。

この「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」に似た事例としては、

飲食店から安いギャラだけ設定されて、「お客様はアンタら噺家が集めないとアカンで!」と叱責される

というのがあります(笑) あるいは、

チケット売上の何%が噺家で、それ以外の売上を飲食店がもらい、
「お客様をもっと集めろ!頑張りが足らない!」と店主が怒って、
逆に噺家が「お前らが集めろよ!」となって揉める

というのもあります(笑)
まあ、飲食店とのトラブルである「上記2パターン」は、噺家側も飲食店側も「見込み違いによる判断ミス」でしかないのですが、、、こういうのは私が入門した当初からよくある光景です。
ちなみに、マッチングが成立している時は、飲食店と上記のような契約でも揉めません(笑) 上手な商売として成立します。つまり、飲食店での落語会で集客が出来ていて噺家も納得のいくギャラ設定なら問題ないのです。本日はそこらについても踏み込んで書きます(笑)

ちなみに私は、この頃「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」のセリフを聞かなくなりました。
それは単純に「芸歴的にこのセリフを食らわなくなった」のか、「今やこのセリフを言う素人さんを私が周りから駆逐した」のか、どちらか不明です(笑)
しかし、この「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」のセリフを極力聞かなくてよい方法はあります。それが良いことかは不明ですが(笑)

それでは本日も、わかっていない噺家さんにとっては有料級の情報ですが、
一般人からすれば雑談でしかない情報です。噺家からお金を取れないので、結局「無料」になるという記事ですが、いくばくかでも、噺家の幸福につながれば・・・ということで、本日もどうぞ!

「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」はなぜ起きるのか?

①物理的問題

そもそも「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」と言われても、噺家が怒らない場合があります。

例えばその噺家が好きなアーティストのコンサートで落語をさせてもらえるなら、「ノーギャラ」と言われても、ほぼほぼ問題ないでしょう(笑)

・・・そんなものです。ここに、この問題の核心があります。

実は、この問題は、「ノーギャラ」の部分に問題があるのではなく、その報酬に対応する仕事内容や条件がマッチしていないという話です。

つまり、「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」で行きたくない場合は、単純に「条件が合わないのでお受けできません」と言えば済む物理的な問題でしかないのです。

落語家が落語を口演するということは、「落語1席がいくら」という単純な話では無いのです。落語家が落語をするのは、「大工さんがこの部分を作る・修繕する」というのと一緒で、「どうのような環境で、どのような観客の前で落語をするのか」という条件によって値段が変わるのです。
ですからたまに「●●さんは落語1席いくら」というのは、ほぼ最低価格の定価の提示だということです。そしてある意味、条件がマッチすれば「ノーギャラで出演することもある」ということです。

しかし、多くの落語家は、自分自身、上記のような理屈を理解できていません(笑) ですから「勉強の場を与えてやろう!ノーギャラで!」と言われて噺家が腹立つ場合は、

「ノーギャラで行くこともある」+「その条件でノーギャラではいけない」

という2つの事実をうまく理解できない時です。理解できていないので、シドロモドロになって、モヤモヤした挙句、「お金やない!気持ちの問題や!」と怒ってしまうのです(笑)

私がこの問題に関して「腹が立ってしまう噺家さん」に言いたいのは、そもそも「条件として、その仕事が引き受けられるかどうか」という単純な物理的問題でしかないと、まずは理解すべきだということです。

話はそこからです。もちろん、この物理的な部分を理解したところでこの問題はまだ解決しません。なぜなら、上記のように噺家側が物理的問題だと理解し、その旨を率直に相手に説明して断ると、相手が怒り出してしまうからです(笑) この問題は第1段階では「噺家が腹立つ問題」なのですが、それを解決しようとすると「相手が腹立ち出すという問題」に変ってしまうのです。

この問題の核心は結局のところ「気持ちの問題」なのです。
では、「なぜ噺家が腹立つのか」「なぜ率直に断ると、相手が腹立つのか」という心理的原因を考察してみましょう。

②心理的問題

まず、噺家がノーギャラで行く場合について再度話します。
事務的に言えば、ノーギャラであっても、その出演によって自分の活動にとって大きな利益を生む場合はOKです。
例えば、出演することで大きな評価を生み、その後のギャラ単価がアップしたり、自分の顧客が莫大に増えたりすると予想される状況とかなら問題ないはずです(落語会の告知でメディアに出演するようなもの)。またその出演した経験が自分の芸人人生にとって大きなプラスになると考えられる場合も問題ないです。
おそらく、これについては、相手側も芸人側も異論はないのです。
問題はここからです。

そもそも「勉強の場を与えてやろう!」と言うて来る素人さんは、いわば「善意の塊」であり、「悪意がない」のです・・・無知なだけで(笑)
このコメントを芸人に言うて来る素人さんは、「応援してやろう」という気持ちです。しかし、この「応援」という言葉が物語っているように、その気持ちの根底には、

「お前は大したことないので…」

という意識が含まれています(笑) これが問題になるのですが・・・。

では、なぜこんなことを言うてくるのでしょうか?

これを言うて来る素人さん(特に飲食店)は、落語界のことは全く知らない人が多いです。ほぼほぼメディアの有名芸能人以外の噺家のことは知らず、メディアの有名人以外の噺家は「全員売れてない大したことない芸人」だと認識しています。
(まあメディアの有名人の噺家さんもそういう意識の人がいますので、それが世間の多数派の感覚とも私は理解しています)

落語ファンなら、こんな事を言いません。もしも、日常、自分が入場料を払って落語会に見に行っているなら、そこに出演している芸人を「無価値・無料」だとは思いませんので。自分が価値を見出してるからこそ、入場料を払っているのです。
しかし、世間一般の多くの人は落語会に来たことがないのです。自分でお金や時間を使って見ていないのですから、その対象物はその人にとって「価値が無い・価値が少ない」と思いやすいです。当然、自分がそうなのですから「他の人も・・・」という意識になりやすいです。
自分がお金を払ったことのない芸人で、しかも世間的に認知されていない芸人に依頼するのですから、「まさか有料だとは思わない」可能性は高いです(笑) 

つまり、根底に「大したことない芸人」という前提があるから、
「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」と言うてくるのです。

価値をわかっている人間なら「勉強の場を提供する+有料で」か、「何とかして来て頂きたい(リスペクトした言い方)+ノーギャラで」になるはずです。つまり、この「上から目線+ノーギャラ」という状況にならないのです。

一方で、落語家側は、それこそ、よっぽど特殊な状況でない限り、ギャラをもらって活動しています(当たり前ですが)。噺家が主催の場合でも、ゲスト出演はギャラが確実に発生しますし、自分が主催の場合は「たとえその日が赤字でも、トータルで見れば長期的な黒字になる」ような運営を目指しています。そうなると、素人さんから出演をオファーされる場合は、確実に「定価及びそれに準じたギャラ」が発生すると、今の多くの若い噺家は認識しています。

この認識のズレこそがこの問題の根本原因なのです。
そしてこの問題は、さらに「気持ちの問題」が絡むだけに厄介なのです。

これを提案してくる素人さんは、そもそも提案する噺家を無意識に選別しているのです。
まず「東京の真打」に、「ギャラは安いけど、勉強になったらええやん!」とは、ほぼ言いません。もし言うんであれば、かなりのバカです(笑) 
「真打」=「師匠と呼ぶべき立派な落語家」という資格ですから、その人に「勉強する場が必要=お前は大したことない」と発言するのは、かなり物知らずになります。その意味で、東京では、真打になれば、このコメントを食らう確率はグッと減ると思います。

大阪には真打制度が無いので、芸歴20年ぐらいまでは食らいやすいです(芸歴15年ぐらいまでは割と頻繁に起きます)。真打制度が無い大阪でも、芸歴を重ねるとこれを言われなくなりますが、少し意味合いが違います。

例えば、その手の素人さんが芸歴30年以上の噺家に(年齢50歳以上に)「勉強の場にしたらええやん!ノーギャラで!」と言うでしょうか?きっと言わないです。それは「芸歴30年もやっていたら、相手が立派だと思うから」ではありません。これを言う素人さんは有名人以外を無価値だと思うタイプですから、ベテランの噺家のことは「今から応援しても仕方がない年寄り」と認識してるだけです。

実は、この「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」と言う素人さんは、無意識レベルで「応援すべき大したことない芸人と、応援しても仕方ない大したことない芸人」に分けているのです(汗)
ですから若い噺家に対しては、「応援すべき芸人」として選んでやった=声をかけてやったという自負を持っています。
噺家側からすれば、結局どちらも「大したことない」と言われてるに等しいのですが、素人さんからすれば「俺が声をかけてやったんだから感謝しろ!」ぐらいの気持ちが発生してしまうのです。

だから、ここで噺家が物理的理由を理解した上で、普通に断ると、相手側は「何で???せっかくええ話を持って来てやってるのに!アホと違うか?!」という話になってしまいます。
そして理由を説明すればするほど、揉めるのです。飲食店なら特にそうなります(笑)

なぜなら、物理的理由を説明するということは、

「やるなら、ギャラが必要=勉強にならない・あくまでビジネス」
=「ノーギャラでもやりたい場所ではない」
=「素晴らしい条件なら、ノーギャラでもやりたいが、今回はそうではない」
=「あなたの店は大したことない」

というのをひたすら説明することになるからです(笑) 

当然、相手は「失礼な!」みたいな話になって怒り出します(笑)
そもそも「大したことない芸人」と素人さんが思って来たことに起因しているのですが・・・、本人はそこは無意識レベルであり、失礼な前提があったことなど思い出せません。
相手側にすれば、提案のキッカケは善意であり、「感謝されてしかるべき行為」にもかかわらず、「大したことない店」と言われるわけですから、腹が立つのも無理ありません(笑)

ですから、普通に断ってはいけないのです。普通に断ると失礼になりますから・・・。ここは相手の自尊心を傷つけないように、揉めないように上手に断らないといけません。(断る方法の例は後述)

ひょっとすると「説明すれば理解できるのでは?」と思うかもしれませんが、そもそもそんな人はこんな提案をして来ません。どちらかと言えば、私は説明して揉めて来た人間です(笑) その私が言うてるのです。
生の落語会に来たことが無い人は、まず、この認識の違いを理解できません。

そもそも日本の人口のうち、生の落語会に通っている人は何人でしょうか?
割合で言えば極少数だと思います。90%以上の人が生の落語を見たことが無いと思います。ということは、「勉強の場を提供してやろう!ノーギャラで!」の感覚を持つ人の方が実は多数派です(笑)

落語家のSNSやHPを見てる人だからこそ、「落語家にノーギャラで仕事を依頼するとは非常識!」と瞬間的に思えるのであって、そんな人は少数派です(笑) そして、この私のnoteに辿り着いてる人は、さらに少数派です。
ですから、このnoteに書いてる内容を理解してくれる人は、残念ながら、日本国内には、ほぼ皆無です。100人ぐらいでしょうか・・・。
おそらく今後も入門した落語家さん達は、応援したくなる若い時期であればあるほど「ノーギャラで勉強させたる!」と言われていくのだと思います(笑)

そして、この問題は、提案する素人さん側に「応援する気持ち」があるからこそ起きる不幸な出来事なのです。
もしも素人さん側が「あくまで落語をやってほしい!」という自発的な気持ちからスタートしていれば、単なる資本主義的な商取引として「これで引き受けてくれますでしょうか?」の姿勢になります。たとえそれがノーギャラであっても、それにNGが出ても腹は立ちません。そして噺家側も「商取引としての提案」なら、「こんな劣悪な条件を言うとは腹が立つ!」とはならないです。
「応援してやろうというみくびる気持ち」が、素人さん側にあり、「安く見られたというプライドが傷つけられた気持ち」が噺家側にあることで起きる問題です。日本的と言えば日本的です。外資系企業のやり取りなら、「どうですか?→それは受けられません→OK!」みたいな話だと思います。
日本人の多くは「優しくて」「落語を知らない」からこそ、この悲劇は繰り返されていくのです。

では、どうやって、我々噺家はこの問題に立ち向かえば良いのでしょうか?これの解決方法の例を紹介していきます。
(※まさに、噺家には有料級ですが、お客様にとっては本当に無料にしかならない記事です。ということで、すいません、読み物として面白かったらサポートして下さい)

解決策

噺家が「勉強さしたる!ノーギャラで!」を言われて腹が立つというなら、その問題はさっさと解決すべきです。単に「腹立つ!嫌だ!」と世間に訴えても解決はできません。
この問題は「ゴキブリ」問題と一緒です。
「ゴキブリが出て困る!」という時、普通どうしますか?

①ゴキブリが出たら、アースジェットで退治する

②ゴキブリがいない高層階に住む(あるいはホウ酸ダンゴを置くなど)

みたいな行動を取れば良いだけです。

つまり、

①その提案をしてくる素人さんと会った時の対応を考え、
②その提案をしてくる素人さんと遭遇しないようにする方法を考えればよいのです。

①その提案をしてくる素人さんと会った時の対応

そもそも条件が良いと思えば引き受ければ良いだけですので、
条件が良くないと判断した場合は仕事は断れば良いのです。

ただ、その場合、下記のような物理的な理由を挙げて断るべきです。

※断り方の例
「事務所的な問題で…すいませんが引き受けられません」
「上方落語協会員としての問題で…すいませんが引き受けられません」
「噺家ルールの問題で…すいませんが引き受けられません」

→ このように、他人のせいにしてしまいましょう(笑)

さらに万が一、「●●師匠はそれで来てくれた」とさらに追い打ちをかけられても、「その師匠はベテランだからこそ、そういうことが出来るので、我々には無理なのです…本当にすいません」と言えば良いのです。
そこは「大したことない芸人」という偏見を逆手に取れば良いのです。

ただ、その時の気持ちとしては、

「オファーをして下さったこと=応援の表明に対しては感謝の気持ち」を込め、

「引き受けられない(ご期待に沿えない)ことに対して申し訳ない気持ち」を提示すればよいのです。

断る理由としては「物理的理由」があり、その時の気持ちとしては「感謝とお詫びの気持ち」があるなら、相手の自尊心は傷つきません。
私の記事は「あたかも酷いこと言うてる」ように思うかもしれませんが、落語に興味を持った人たちと落語従事者が、できるだけ心穏やかに過ごす方法を「論理的・具体的」に説明しているだけです。
・・・ただ、多くの人が傷つかないように、論理的具体的に説明すると、どういう訳か、「笑福亭たまは酷い人だ」という傷を私が負うだけです。その理由は自分でも解明できていませんが…。


②その提案をしてくる素人さんと遭遇しないようにする方法

もちろん芸歴を重ねれば、東京なら真打になります。真打になれば、そういう素人さんには、

「すいません、真打なのでその条件では引き受けられません」

と言えます(オファーに対する感謝と引き受けられないお詫びの気持ちを示しながら…)。またその前提があるだけに、相手側も真打には「言いにくい」ので、東京なら真打になることが「その提案をしてくる人と遭遇しない方法」と言えます。

真打制度のない大阪の場合はどうすれば良いでしょうか?
(これは実は、「東京の二つ目の場合はどうすれば良いか」と同じ問題でもあります)

答えは簡単です。

A:できるだけ周囲の人に「立派な噺家」と思わせる
または
B:最初から「素人さんの知り合い」を減らす
が答えです。

模範解答A:できるだけ周囲の人に「立派な噺家」と思わせる

結局のところ、この問題は落語を知ってる人であれ、「この人はこんなギャラだろう」という偏見が前提です。素人さんの予想ギャラが、言われた噺家の予想定価より低かった場合、噺家は腹が立ち、この問題が起きます。ですから、素人さんが、思わずギャラを高く予想してしまうようにすれば良いのです(笑)

作戦としては、

落語会をやった時にほぼ毎回満員であるとか、
メディアにちょいちょい名前を出してもらうとか

そういうことです。
もちろん、そのためには最低限の実力が必要になります。

落語の実力をつけ、多くのファンを増やしていき、それなりの会場で集客できている実績があれば、そういうことを言うて来る素人さんは減ります。
また「今度はこういう新しい試みを!」みたいな形で、新聞やネットニュースなどに取り上げられていれば、そういう素人さんは減ります。
そういう素人さんは、ほぼ落語を知らなくても、言うていく噺家のことは認知しているのですから、何となく「その噺家がどの程度か」を認識します。そうなると「勉強の場を与えよう!ノーギャラで!」とは言わなくなります。

人間は、誰か知らない人が新聞に1回出ても全く覚えられませんが、自分の知り合いが新聞に出ていたら、1回でも即座に「おっ!出てる!」と認識します。「落語家の活動としてはよく知らないけど、個人のつながりとして知ってる人」だからこそ、「応援しよう」と思ってくれるのです。ですから、できるだけメディアに出るようなことをすれば良いのです。そうすると、素人さんも「メディアに出てる人にノーギャラで!」とは言うて来にくくなります。
大手新聞でも、ちゃんとニュースソースのあるようなイベントを企画すれば取材してくれますから。ただ、そのイベントを開催するだけの「実力」は必要になります。

これが「できるだけ周囲の人に、立派な噺家と思わせる」という方法です。

単純回答B:最初から「素人さんの知り合い」を減らす

そもそも「素人さんの知り合い」が少なければ、「応援しようという素人さん」の母集団は減る訳ですから、「勉強の場を提供しよう!ノーギャラで!」と言う素人さんは発生しにくくなります(笑)

実際、私は入門する時に、「素人時代の付き合いは極力持ち込まないようにしよう」と思っていました。まあ元々友人は少なかったのですが…。
私は、

「噺家になった場合、師匠や先輩を優先しなけらばならないので、そこに友人関係という不確定要素が落語家生活に入り込むと失敗につながり、それがもとで破門になるかもしれない」

という危機意識を持っていました。そういうリスクヘッジの意味でも素人さんとの関係は極力減らしていました。

その意味で、この作戦を取れば、「勉強の場を提供しよう!ノーギャラで!」と言う素人さんと遭遇する確率は減ります。

ただし、この作戦は、

「知り合いやから、ええ仕事を持ってきたよ!」

という人間関係によるオファーも減ります(笑)

ここらも含めて、人間関係の付き合いは、それぞれの「さじ加減」なんやと思います。

「知り合いからオファーされる仕事」というのは、

「交友と無関係に、落語家としての実力があったからこそ来た仕事」なのか、
「落語家としての実力とは無関係に、交友関係によって来た仕事」なのか、
「落語家としての実力と交友が、そこそこ関係した感じの仕事」なのか、

明確に区別できません。

そもそも、どんな仕事も依頼者は「自分の知ってる情報の範囲内で、業者を選定する」ものです。そして依頼者にしてみれば、「情報の選別」にも時間や費用はかかります。ですから噺家側は出来るだけ世間に認知されるように宣伝活動することで、「選ばれやすくなる」というのは当然です。
全ての仕事は、「芸の力と宣伝力が相互に関係して、発注される仕事」ですから、宣伝力も落語家としての実力のうちとも言えます。
「交友を広げる」ことは、宣伝・広報活動の一環とも言えます。
そうなると、「素人さんとの交友を断つ」というのは、自らへの仕事依頼の可能性を減らしてるだけとも言えます。

ですから、「素人さんの知り合いを減らす」というのは、嫌な目に合う確率も減りますが、仕事をもらえる確率も減るということです。
ですから、私のように出来るだけ全部を斬りまくるというのは、良くない気はします(笑) 素人さんとの付き合いはどの程度にするのか、どんな人と付き合うのか、そこらは全て各個人の「さじ加減」とも言えると思います。

将来的に考えると、日本の若い世代はマナーが良いので、「勉強の場を提供しよう!ノーギャラで!」とか言うて来るような人は激減すると思います。ですから、今後は色んな人と知り合いになって、交友を広げる方が、仕事のチャンスは増えるような気もします。わざわざ敢えて「関係を断つ」ということはしなくてええ気はします。
(※と言って、私がそれを出来るかというのは別問題です)

最終的な解決策としては、

できるだけ周囲の人に立派な噺家と思わせ、

それでも悪条件のオファーが来た場合、相手の自尊心を傷つけないように感謝とお詫びの精神で「他人のせいみたいな物理的理由」を言って断る

ということです。
(これ、誰に向けての記事かわからないですね・・・噺家用???)

【類似問題】飲食店が「お客は噺家が集めるべき!」と叱責してくる問題

「ノーギャラで!」問題とよく似た問題で、

飲食店が噺家に安いギャラだけ設定したり、売上を比率で分配したりした上で、お客が集まらず、「お客は噺家がもっと集めなアカン!」と叱責する

という問題がたまに発生します。「あるある」ですが(笑)

ハッキリ言ってこれは契約の問題です。
最初に集客責任はどちらにあるかだけの話です。
ただ、「勉強の場を提供しやろう!ノーギャラで!」問題と一緒です。

最初に噺家が集めると噺家が言うていたのなら、叱責されて当然ですが、そうでないなら、集客責任は主催=店側にありますので、叱責される筋合いはないです。
しかし、これは「応援してやってるのに、頑張らないとは何事や!」と店側が怒っている訳です。つまり、「ノーギャラで!」問題と同様、またもや気持ちの問題になっています。
改めて契約の話を店側としても無駄です。なぜなら、店側は「噺家が集める」前提の意識だからこそ、怒ってるのです。そして店側が集められるなら、噺家に文句を言いません。

ということで、この場合は、相手の自尊心を傷つけないように

「すいません、私の力量ではお客様を集めることができませんので、申し訳ないので継続することは出来ません」

とお断りを入れれば良いと思います。

もちろんその時は「オファーをして下さったこと=応援の表明に対しては感謝の気持ち」を込め、「ご期待に沿えなかったことに対して申し訳ない気持ち」を提示する必要はあります。
「お詫びと感謝」の気持ちを持って、「物理的に集客できない」旨を伝えれば良いのです。解決策もほぼ一緒です。

※誤解のないようにお伝えすると…
飲食店での落語会において、店側が「噺家が集めないような新規客」を集客しているとビジネスとしてマッチングが成立しやすいです。
いわゆる売上の何%が噺家だとか、割安ギャラだかという条件でも、最初にそんな契約を噺家が結ぶ場合は「新規客と遭遇出来る」などのメリットがあるからです。またその会の雰囲気が良い(ウケやすい・主催の方が丁寧)など、そういう要素があると、「気持ちよいので行く」という単純な話になります。まあ全ては気持ちの問題だったりするようです(笑)

【類似問題】歴史ある落語会の世話人さん

「歴史ある地方の落語会で起きる」問題で、「ノーギャラで!」問題と本質が似ている問題があるので、それを紹介します。

日本各地には、何十年も続いた歴史ある落語会がいくつも存在します。
その落語会の過去の出演者を見れば、亡くなった名人上手がいっぱい出演していたりします。

そういう落語会の世話人さんの中には

「我々の落語会は由緒あるので、落語家さんも出演するだけで嬉しかろう!」

という偏見が生まれる場合があります。
もちろん真打を招いて、相場に見合った真打価格を提示しているなら、割と問題は起きません。

しかし、時代とともに値段(物価?)も変わります。
またいくら落語界が封建的な縦社会とはいえ、噺家人口が増えすぎて「過去の名人の権威」をありがたがる若い噺家は、ほぼいません・・・。
東京のシステムで考えれば「真打は同格」なわけですから、過去の名人であっても、「商売という意味においては対等に考えて良い」のです。つまり、過去の名人がいくらの値段で行こうが、自分の値段は自分で決めて良いのです。
ですから、万が一、「出演するだけで嬉しかろう!」のセリフに「だから安いギャラで!」というのが引っ付くと、事実上、これは「勉強の場を提供しよう!ノーギャラで!」と全く同じ問題になります(笑) 

その過去の名人と非常に縁が深い師匠クラスなら逆に何とかなるのかもしれませんが、若者には関係のない話だと思います。
また世話人さんもバカではないので、そういう古い師匠達には真打値段を提示して、「安いギャラで申し訳ないですが、是非とも…」と下手に出るでしょう。だから問題は起きません。問題が起きるのは若手噺家の時です・・・。

古い師匠たちはベンチャラで(東京弁ならヨイショで)

「いやぁ~、こんな歴史のある会に出してもらうだけで嬉しいです。ギャラなんかどうだって良いですよ」

みたいな話をしてしまいます(笑) それを世話人さんは真に受けて、若い噺家に対し、

「この歴史ある会に出れたら嬉しかろう!安いギャラで!」

と言い出してしまうことがあります・・・。もちろん、そこには「我々の由緒ある落語会に出演させてやって、勉強させてやろう!」という世話人さんの優しい気持ちがあるのです。まさに「応援する気持ち」です。
これがあると、揉めるのです(笑) ですから世話人の皆様は、お気を付けください!

実は資本主義的な商取引として「出演して欲しい噺家だけを呼ぶ。単に我々がその人に出演してもらいたいから!」という単純な話なら揉めないのです。落語会の世話人さんは、是非とも「好きな噺家を呼ぶ」という基本のスタンスであって欲しいです。そしてそれはあくまで「ビジネス的な商取引」だと認識しておいてほしいです。
それがシビアですけど、健全な落語会だと思います。この方式だと、揉めにくいということです。←あくまで落語会の世話人さんへのご注意です。

ただ、落語家の中には「応援してもらう」商法というのを採用する噺家もいてたりするのでややこしいですが(笑) 「僕なんかまだまだなんで、応援して下さい!」と上手に祝儀やギャラをもらっていく「可愛げ商法」の人もいます。こっちの噺家は揉めないです。その代わり、こういう噺家と出会った素人さんは、他の噺家さんと接触した時に揉めます(笑) それまでの常識と違いますから(笑) また「私はメディアに出てないし、仰るように大したことない芸人なのでノーギャラで結構です!(でもその代わり別に祝儀を下さいね)」みたいな人も揉めないです。

・・・ということで何が正解かはわかりません。結局、落語家も落語会もお客様も千差万別です。それぞれが自分の好きに暮らしていけば良いだけかもしれません。

あくまで今回は「勉強の場を提供しよう!ノーギャラで!」で”揉める場合”にスポットを当てた記事です。揉めない人には、そもそも全く心に響かない無関係な記事だと思います。ただ、この記事で、誰かのモヤモヤがスッキリしてくれることを祈っております。

ちなみに、、、、
「飲食店と落語家が揉めやすい」みたいな話をこんだけ書いておいてなんですが、

「今後、飲食店での落語会は増加する」
=「飲食店での落語会が噺家の主戦場の1つになっていく」

という予想をしています。
※誤解のないようにしてほしいのですが、「ノーギャラで!」を言うてくるのは飲食店に多いというだけで、飲食店での落語会が商売としてマッチするというケースも非常に多いのです。飲食店全部が失礼という話では決してないので、誤解のないようにしてくださいませ。

てなことで、今回の記事の核心部分は終わりました。
核心部分は無料記事にしておきましたので、よろしければ、次の【おまけ】部分を有料でご購入下さいませ。あるいは、サポートして下さればありがたいです。

【おまけ】未来予想:飲食店の落語会が増加する理由

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