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頭が良くなった気がする栞

 40を過ぎて初めて知能検査を受けに行った。

「なぜIQテストを受けたいと思ったのですか?」

 初めて訪れたカウンセリングルームで、青いスーツを着た、まだ若い男性心理士にそう聞かれた。
 学生時代に成績の良くなかったこと、働いても長続きしないこと、人と話していてスレ違いの多い気がすること、職場での振る舞いがわからないこと、もしや知能や発達に問題があるのかもしれないと疑問を抱いたこと。
 感じてきたことを素直に伝えた。

「うん。それなら個人で知りたいということですから、問題はなさそうですね。というのもね、テストの結果を悪用する者が居るので、聞いておく必要があるんです」
 
 私が不思議そうにしていた表情を読み取ったのだろう。そう説明してくれた。
「悪用って何をするんです?結婚するかどうかとか、優性遺伝がどうとか、就職とか、そんなやつですか?」
 興味本位で深掘りしてみた。
「色々あります。もともとIQテストは戦争をするときに有能な兵士を集めるために使われた物ですから」
 諸説あるようだが、この時は馬鹿みたいに呆けた声しか出てこなかった。
「へぇ」
「さて、それでね。私は沢山の人と話してるのでわかりますが、貴女はIQ100はありますよ。100は人類の平均値です。平均以上はあります」
 来て15分で断言されてしまった。
「検査の必要はないでしょう」
 用事が終わってしまった。
 アセスメントにテスト代も含めて2万も用意してきているのに。

「働いても長続きしないというのが気になりますね。原因を探るなら他の検査をしてみますか?ソーシャルスキルを身に着ける講座も案内できますよ」  
 なんだか話についていけない。
 当初の予定と随分流れが変わってしまった。色々と相談して後日また心理検査を受けることにして、この日は帰宅した。

 その後、簡易検査でもIQ100以上あることが確認できたので、もうこの心理士には会っていない。
 私に足りないのは能力ではなく、勉強時間や、社会性スキル。忍耐やお金だとハッキリわかった。
 足りないものはこれから足していけば良い。

「別に働かなくてもいいと思いますけどね」
 身も蓋もないことをサラっと言う、面白い先生だったなあ。

 私は、この経験と記憶に栞をした。
 思い出したいときにいつでも思い出せるように。

(完)


このお話は、2022年2月4日開始の栞展で販売される商品「頭の良くなった気がする栞」の中に封入した、私の実話、エッセイです。
お買い上げいただいた上で、こちらを訪問下さったあなた様には、厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。

お読みいただいた皆様に感謝を込めて。

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