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昭和きもの愛好会インタビュー7・三代続く染色家の家系(染色作家・岩井雅実さんと祖父・前原利男氏)

1 染色作家であり歌人でもあった前原利男氏


今回2023年の展示企画の際、岩井雅実さんより、祖父にあたられる前原利男氏が、染色のかたわら短歌を詠まれていたということを伺いました。展示準備に際して、お持ちいただいた歌集が、草炎(昭和7年)・「素彩」(昭和41年)・「北欧の詩と随筆など」(昭和59年)の三冊でした。

恐らく自費出版で読まれた歌をまとめられたものと思われます。 歌集の中で、前原氏が工房で友禅を描いておられるお写真がありましたのでご紹介します。

日付は昭和38年5月とあります。

前原利男氏の歌は京都の風景や日常を詠んだものが多く、時には旅に出て詠まれたようです。

室生寺
この谿の楓ひともと彩づけり青淵の水映すくれなゐ
金堂の扉くぐればうす暗いきうちらに古き仏像にほふ

2 岩井さんにとっての前原利男氏

今回、展示にあたって岩井さんより、お祖父様について語っていただきました。
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祖父のこと

私はローケツ友禅染めの仕事の傍ら、ギター弾き語りのシンガーソングライターやってて、「二刀流」とか言われておりますが、母方の祖父「前原利男」は「短歌の歌人」と「ローケツ染め・素描染め」の二刀流でした。

染めの作品は今回展示しております染め額の2点しか、残っていませんが、 祖父の歌人集やエッセイが出版されていて、その中身を見ても当時のかなりの文化人だったことがわかります。 

私が20歳を過ぎ、 本格的にこの仕事をしようと思ったとき、親戚から紹介されたのは、祖父「前原利男」の何人かの弟子の1人「岡野松雄」でした。そういう訳で、私は祖父の孫であり、仕事の面でも「孫弟子」であったわけです。
祖父の時代と、私の時代は、まるで違いますが、 結果的に同じように「唄と染め」をやってるのは、血筋なのかと、思っています。
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3 前原利男氏の書籍

展示にあたり、前原利男氏の歌集もお持ちいただきました。前原利男氏の書籍を拝見すると、染色のかたわら、各地へ旅をし、北欧へも足を延ばされていた様子がうかがえます。

旅行中の前原氏


「素彩」という歌集は、装丁にも凝られたようで、巻末にこのような謝辞がありました。当時の氏の交流の様子が伺えて、興味深い資料です。

歌集 素彩

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 尚、装釘については、畏友田畑喜八、株式会社京都書院と光琳社の諸氏、東京国立博物館技官山辺知行先生の厚意によって、重要文化財である辻ヶ花裂の使用を許されたこと、見返の和紙は古代染色の研究家吉岡常雄氏を煩したことなど、謹んで諸彦に心からの謝意を表したい。
  昭和四十一年七月十九日
歌集 素彩巻末の謝辞より
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岩井さんのお書きになられているように、染色の傍ら、別方面での表現をされ、それも見事な結果になっているところに、「血筋」というものを感じます。

似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
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