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バターケーキの味を私は未だに知らない。

フレーズプラスで今日のテーマを決めようと思ったものの、中々良いフレーズに出会わない。
そこで久しぶりにガムトークを使用してみる。
すると「ケーキの話」というお題が出た。

ある。確かに忘れられないエピソードが一つだけある。
表題にもある通りバターケーキについての話だ。

もう20年以上前の話になるだろうか。
私は当時小学生だった。
歳の離れた姉がペコちゃんでお馴染み不二家で働いていたため、今年の誕生日ケーキは何がいいかとカタログを見せてきたのが発端だった。

小学生と不二家のカタログほど食い合わせの良いものはあるだろうか。
これと張り合えるのはトイザらスのカタログぐらいだと思う。
そのぐらいケーキとオモチャは小学生にとって価値のあるものだ。

B4ほどのサイズで綴じられた冊子には、目を輝かせるようなメニューが並んでいた。ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキ、モンブラン、etc….。

どれも宝石のようにキラキラ輝いて見えて、余程自分の中でこれ! というものがない限りどうしても決めあぐねてしまう。
その中で一つ、見慣れも耳慣れもしない商品が一つだけ載っていた。

そう、バターケーキだ。

何?
バターで作ってんの?
生クリームじゃないの?
バターってクリームじゃないの?
クリームってバター?

小学生らしいアホみたいな考えしか浮かばず、味の好みより好奇心が勝ってしまった私は思わず姉に「これがいい!」とカタログに指を差しながら訴える。

すると姉と姉のすぐ側でテレビを見ていた母が同時に口を開いた。

「「バターケーキは胸焼けするよ!!!」」


は?
胸焼けって何?
そんで胸焼けしたらどうなんの?
そもそも母はなんなん? あんた姉弟の言葉に耳も傾けずテレビ見てただけちゃうん? なんで急に話に入ってきとんの?
つーか「どのケーキがいいか」って聞いてきたのは姉ちゃうんか? その時点で決定権は主役である私に握られとる筈やろ?
何をさも貴様にも否定する権利があるように急に振る舞っとんねん。

瞬時に様々な言葉が私の脳裏に浮かぶ。
小学生ながら語彙が豊富だったなと今では思う。

一応、なぜダメなのかを姉と母に問う。
小学生に「胸焼け」なんて概念は存在してないし。
それでも「胸が苦しくなる」みたいな「安っぽい『恋の例え』」みてぇな答えしか返って来なかった。納得がいかない。

しかしまぁ実際に家庭の経済を握っているのは大人の方である。
こちらがどれだけ反論しても、金を出す側が納得しなければ財布の紐が解かれる事はないのだ。

結局、主役である筈の私が折れて元々好物であったモンブランを選ぶ事に落ち着いた。いつもより栗の味が渋く感じ、美味しい筈なのに美味しくなく感じた。そんな誕生日ケーキだった。

今考えると、あいつら自身が「胸焼けしたくない」という理由だけで私に猛反対したんじゃなかろうか。そう思っている。
純真無垢な少年は、大人の身勝手な都合に巻き込まれてただ傷を付けられただけだったのだ。そしてそれは今でも癒えていない。

そんな私も30代前半だが、今でも「胸焼け」という感覚を知らない。たまたま胸焼けするような食べ物に出会っていないのか、体質なのか、幸い健康でいられているかは分からないが。

故に未だにバターケーキを食べた事がない。
今まで食べるタイミングやきっかけがなかったのもそうだが、少年期に受けたあの仕打ちによって、能動的に食べるのが億劫になってしまったというのもある。

誰か、誰かバターケーキの味を教えてくれ。
胸焼けしたっていい。なんならもう胸焼けもさせてくれ。
私は胸焼けも知らないんだ。

いつかその実績を解除出来たなら、またここで感想でも書こうかな。
「大したことねーじゃねーか!!」って思いっきり叫んでやりたいぜ。

おわり。


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