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RIZIN 33 : 浜崎朱加選手について

 遂に全てのカードが揃いましたね。
 普段は格闘技を観ない老若男女を楽しませる。それが地上波の目指すところでもあると思うんです。
 日本の大晦日のお茶の間に、4、5時間も長々と流せるだけのコンテンツを作る。
 UFCのように、好きな人、興味のある人、元々スポーツが好きな人たちが自らお金を使い観にくるためのコンテンツ作りとは、かなり異なるマッチメーキングが求められます。
 コロナ禍のお陰で海外からの選手も呼べない中、初めて格闘技を見る人からコアなMMAファンまで、ここまでいろんな角度から楽しめるカードを組んだのは、さすがだと思うんですよね。
 そしてクリスマスイブに、那須川天心選手対武尊選手を正式発表をしたことにより、盛り上がってきている日本の格闘技界の人気にさらに拍車を掛け、来年に向けてファンの期待度も全体的に一気に高まったと思うんで、大晦日へ向けてのトータル演出という点では、百点満点に近いといえるのではないでしょうか。

 そんなジャパンの格闘技の玉手箱のような今回のカード編成の中で、わたしが最も注目しているのは、バンタム級GPと浜崎朱加選手VS伊澤星花選手の試合なんです。
 バンタム級GPの方は、マネジメントさせて貰っている井上直樹選手が出ているんで、今回は、浜崎選手について書きたいと思います。

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 浜崎選手を語るときに、わたしの中では外せない要素が2つあります。彼女の師匠である藤井恵選手とInvicta Fighting Championship(以下「インヴィクタFC」)です。
 これを抜きに「世界のアヤカ・ハマサキ」を語ることをできません。
 という訳で、まずインヴィクタFCについて書きたいと思います。

 UFC、International Fight League (以下「IFL」)、ストライクフォースなどで働いてきたシャノン・ナップと女子MMAが大好きな資産家のジャネット・マーティンの2人が、2012年にカンサス・シティを拠点に設立したオール女子MMAの団体がインヴィクタFCです。
 1年ちょいでジャネットは抜けて、そのあとはシャノンが舵取りをし、彼女の片腕アンジー・リンドランド(UFCミドル級ではタイトルマッチ経験もあるレスリング五輪銀メダリストのマット・リンドランド選手の奥さんです)が現場を仕切る体制になったんですけど、スタート当初から世界各国からトップ女子ファイターをガンガン入れて、あっという間に女子MMAの世界では唯一無二の存在になったんですね。
 他にオール女子の団体がなかったから成功したという人もいますけど、わたしはそうではないと思っているんです。
 インヴィクタFCの凄いところは、初めからゲート収入を全くアテにしてない経営スタイルでやってきたことだと思うんです。
 カンサス・シティーの、キャパが2000席あるかないかぐらいの会場で、世界各国から選手を連れてきて大会を開催して、チケットの売り上げに頼ってビジネスが成り立つ訳ないんですよね。
 あくまでも団体側が負担する様々の経費の一つですけど、例えば海外から選手を呼ぶとなると、まずP-1ビザという就労ビザを取らないといけません。これが申請料や弁護士費用などトータルで最低でも日本円にして60万円ぐらいかかります。*
 そしてファイトマネーはもちろん、選手とセコンド1人分の渡航費、宿泊費、食費、現地での交通手段などは全部団体側が負担する訳なんで、例えば1大会12試合組んで、半分を海外勢にするだけで、かなりの出費になるんですよね。(タイトルマッチ、メインイベントの選手のセコンドは、2人分まで団体側が負担します)
 国内から呼ぶ選手だって、都合よくカンサ・スシティまで車でこれる選手なんて数えるほどですから、ほとんどの選手とセコンドには飛行機を手配しないといけません。
 1試合ごとにコミッションに支払わないといけないフィーや、かけないといけない保険料なども馬鹿にならない額ですから、アメリカで大会を開くのって、かなりの経費がかかるんです。
 そこでシャノンが収益の大黒柱にしたのが、世界各国での配信から入るフィーとスポンサー・フィー。そして長期にコミットしてくれる数人の投資家。これで確実に年6大会ぐらいで回して長期やっていける体制でスタートしたんです。
 これだけではないです。
 インヴィクタFCがある意味、MMAの世界で物凄く画期的だったのは、非公式ではあるんですけど、UFCとガッチリの関係を長期に渡り築けていた唯一の団体だった、ということだと思うんです。

*複数試合契約の選手の場合、1度P-1ビザを取得するとその契約期間中は有効になるので、2試合目、3試合目のときは新たにビザの申請をする必要はないんです。

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 世界中のトップ女子MMAファイターを世に紹介するプラットフォームになる。女子MMAファイターにチャンスを与える。
 そう設立時から宣言していたインヴィクタFCは、UFCが欲しいと言ってきた選手を躊躇なく送り出していくことで、UFC女子部門の基盤を、UFCと二人三脚で作る役割を担う団体になったんですね。

 女子部門を設立するぞ!
 UFCが2013年に決め、組んだ記念すべき1試合目は、あのロンダ・ラウジー選手とインヴィクタFCが送り出したリズ・カムーシュ選手でした。
 今年、ベラトールで日本の渡辺華奈選手と対戦したファイターです。
 UFCが2つ目に組んだ女子の試合も、インヴィクタFCから入った元レスリング五輪金メダリストのサラ・マクマン選手対シーラ・ガフ選手。
 3試合目も、UFCが契約したミーシャ・テイト選手とインヴィクタFCからきたキャット・ジンガーノ選手でした。
 UFC初代女子ストロー級王者を作った2014年のThe Ultimate Fighterも、インヴィクタFCのストロー級が移管される形で成立。
 UFCは他にも、バンタム級ならアマンダ・ヌネス選手、アレクシス・デイビス選手、レズリー・スミス選手、サラ・カフマン選手、ローレン・マーフィー選手に、そしてストロー級なら、当時インヴィクタFCと契約したばかりでまだ1試合もしていなったヨアナ・イェンジェイチック選手や、今や日本のファンの間では「井上直樹の姉」と言った方が伝わりそうな魅津希選手にオファーを出したんです。
 インヴィクタFCはそれに応じる形でどんどんと選手をリリースしたことにより、UFCはバンタムとストローの選手を補強していきました。

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 余談ですが、この時、唯一UFCからのオファーを断ったのが、魅津希選手でした。
 2014年のUFC日本大会でオクタゴン・デビューさせたいというのがUFCの希望だったんですけど、当時まだ18歳だった彼女の師匠・空手道白心会の山口定則会長の意向が「もう少しインイヴィクタで経験を積ませたい」でした。
 翌年の日本大会の時もその次の日本大会の時もUFCはオファーを出してきましたけど、残念なことに、魅津希選手は、膝の怪我・手術が理由で受けることができなかったんです。

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 UFCが女子のバンタムとストロー級を始動した後も、インヴィクタFCとの友好関係は続きました。
 アトム、ストロー、フライ、バンタム、フェザーと5つの階級のうち2つの階級の選手を根こそぎ持っていかれただけでなく、その後も、あっちの都合でどんどん選手を持っていかれたら、それって大変なことじゃね?と思われるでしょうが、インヴィクタFCにとっては痛くも痒くもなかったんです。
 当時、シャノンがよく言ってました。
 「ものすごい数の選手がウエイトリストにいるのよ。その選手たちの試合を組んであげたいから、一旦全員UFCが引き上げてくれてよかったの」
 バンタムとストローに限らず、フライとアトムもわんさかいるから、早くフライ級も作って欲しいぐらいだわ、と言っていたのも覚えています。
 これ、2014年ですから、そろそろ8年前の話です。
 この時点で、既に世界レベルの女子MMAファイターの数は、年間6大会ぐらいしかやれないオール女子のMMA団体にとっては、対応できないぐらいになっていたということなんですよね。

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 UFCからしてもインヴィクタFCは価値のある団体でした。
 2013年からスタートしたUFC Fight Passの中でも、ダントツの視聴者数を弾き出していたインヴィクタFCは欠かせない優良コンテンツでしたし、バンタムとストローの2階級に関しては二次リーグ的な存在でしたから、UFCにとってもインヴィクタFCは大切なパートナー的な立場だったと思うんです。
 例えば試合まで数週間を切ってるのに選手が怪我した。けど試合を飛ばす訳にいかない。選手を探さないと。
 そんな時、UFCのマッチメーカーからしたら、興味のある選手のマネジメントがどこなのかを調べて、連絡して他の団体と契約してないか?と確認する必要がなくなったんです。
 インヴィクタFCのリストを上から見てオファーしていくだけ。
 しかもアメリカ人選手だけでなく、海外の選手も全員ビザを持っている訳ですから、これが男子ならもうビザの申請に間に合わないからとアメリカ人選手だけという選択肢になるところが、チョイスできる選手の数も増えたんです。
 ただ単に作業という観点から見ても、UFCのマッチメーカーの仕事を軽くしてくれてたのがイヴィクタFCの存在だったんです。
 アトム級でもストロー級でやれそうな選手、フライでもバンタムでもやれそうな選手がピックアップされることもありました。
 アトム級タイトルマッチでエリカ・タブリシオ選手に負けた後だったのに、すぐにUFCが契約したミッシェル・ウォーターソン選手などは、その最たる例だと思います。

 2017年に追加したUFCのフライ級もインヴィクタFCが基盤を築いたようなものですし、何と言ってもUFCとインヴィクタFCがどれだけ昵懇なのかを証明したのは、クリスチャン・サイボーグ選手の扱い方だと思うんです。
 サイボーグ選手がインヴィクタFCに参戦していた時の彼女のファイトマネー。これはUFCが出していたんです。
 関係者の間では、周知の事実でした。
 要は、女子フェザーという階級を2017年にスタートさせるまで、他団体に持っていかれないようにインヴィクタFCという団体を使い、それなりのファイトマネーをサイボーグ選手に支払い、引き止めておいたんです。
 これって、巷でよく聞く「提携」なんかより、かなり親密な関係だったと言えると思うんですよね。

 そうなると必然的に世界中の女子ファイターや関係者たちがインヴィクタFCに着目し、世界中からトップの選手が一気に集結。
 アトム、フライ、フェザーの3階級は、2012年から2017年までの間UFCの女子部門には存在しない階級だったんで、誰もが認める女子MMAの世界最高峰の舞台となったんです。

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 そんなインヴィクタFCの第1次ピークと言える2015年。
 UFCのエクスポが行われた週に、UFCのフル協力のもと、インヴィクタFCが満を喫してラスベガスに進出。
 この大会のトリプルメインの1つとして行われた世界アトム級タイトルマッチで、タブリシオ選手をスプリット判定で破り、ベルトを奪取したのが浜崎選手なんです。
 ケージサイドにUFCのマッチメーカーを含む首脳陣、スター選手らがずら〜っと陣取ったラスベガスの大会で、世界最高峰のタイトルを獲る。
 これって、世界の女子MMA史に残る偉業をだと思うんですよね。
 宇野薫選手、桜井速人選手、岡見勇信選手、堀口恭司選手、藤井恵選手、水垣偉弥選手と、当時の「実質上世界最高峰」も含め、世界タイトル戦を経験してきた日本人選手は今までいましたけど、浜崎選手だけが、唯一ベルトを腰に巻いた選手なんです。
 日本人選手たちは、これまであと一歩のところで悔しい思いをしてきた。
 それを知っていたUFCマッチメーカーのショーン・シェルビーを含む多くの関係者たちが、試合後、ケージサイドにきて「おめでとう、ほんとによかった」と言ってきてくれたのを覚えてます。
 他の選手たちはもちろん、メディアの人たちも、遂にジャパニーズ・ファイターが世界チャンピオンになった!といった具合に、あれだけ現場一丸の祝福モードになったのも珍しいぐらいでした。

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 けど悲しいことに、日本ではそれがしっかりと伝わらなかったと思うんですよね。
 ですから、くどいようですけど、ここでもう一度書きます。
 簡単な言い方をしちゃえば、UFCでタイトルを獲るのと同じぐらいの偉業を成し遂げたファイター。
 それが浜崎朱加選手なんです。
 少し酒が入ったら、国民栄誉賞あげろや、と総理大臣に絡みたいぐらいです。
 (絡める立場でないのは重々に認識してますし、UFCでも国民に認知されてないのに、客観的に見たらアメリカのど田舎のタイトル獲ったぐらいであり得ないだろ、というのも承知しております)
 それぐらい凄いのが、アヤカ・ハマサキというファイターなんです。

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 さて、これも日本ではあまり話題にならなかったようですけど、今年、インヴィクタFCがカナダのメディア会社Anthem Sports & Entertainment(以下「ASE」)に買収され、シャノンもASEの役員に就任。
 あれだけ親密な関係だったUFCと袂をわかったんです。

 これって、実を言うと、女子MMAファイターたちとっては、衝撃的と言ってもいいぐらいの大事なんです。
 APE傘下となったインヴィクタFCと契約中の選手には、契約が終わるまでオファーすることはない。
 UFCからマネジメントに、そう告知されたんです。
 ということは、これからは、インヴィクタFCでタイトルを獲ったり、いい戦績を残しても、契約が終わるまで、UFCからのオファーを受けるということはできない。

 こうなると、状況は大きく変わってきます。
インヴィクタFCの契約下にいる選手たちからしたら、いつUFCから試合のオファーが来てもおかしくないと、ある意味、ワクワクできる部分もあったのに、これが無くなったんですよね。
 全ての選手が複数試合契約のはずですから、みんな、契約を満了しないとUFCからのオファーを受けることができなくなったということなんです。
 特に現チャンピオンたちは、それこそ、明日にでもUFCからのオファーが来てもおかしくないと考えていたと思いますけど、ベルトを獲った時点で発生しているチャンピオン規約で約束されている試合数、または期間を消化しないとUFCからのオファーは受けられない。
 自分たちのキャリア・プランを、やや修正しないといけないことになったんですよね。

 インヴィクタFCからしても、アトム以外はUFCにも同じ階級があるんで、もっといい条件を出さないと、世界トップレベルの選手を押さえていくのが難しくなってくるかもしれません。
 ベラトールにもONEにもRIZINにも女子部門がありますし。
 噂によると、APEの資本があるインヴィクタFCは来年から大会数も倍以上に増やし、契約の条件も良くなるらしいんで、来年に備えて色々と動いていると思うんです。

 UFCにとっても、大事な女子のファームシステムを失った訳なんで、これからは、ベラトール、ONE、RIZIN、そしてインヴィクタFCと女子選手の争奪戦をしないといけない。
 その対策として、UFC Fight Passで配信されているLegend Fighting Alliance(以下「LFA」)に、毎大会女子の試合を組めないか?と打診したと聞いてますけど、LFAのファイトマネーや条件では、ベラトール、ONE、インヴィクタFC、RIZINには到底対抗できないんで、なかなかこれもうまくいっていないのが現状なんです。

 といった具合に、世界的に見ても女子MMAファイターの人口も増えていますから、来年は女子MMAも興味深い展開になってくると思うんです。
 そんな世界の女子MMAで、浜崎選手のことを知らないファイターや関係者はいない。
 そう断言できます。

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 けど選手や関係者の間で、一番有名な女子ファイターは、今も昔も藤井恵選手なんです。
 今は元選手で、RIZINファンからしたら解説者、浜崎選手の師匠みたいに見られていると思いますけど、彼女は、世界MMAの真のレジェンドなんです。

 インヴィクタFCのような現場にいくと、ほとんど全員の選手が藤井選手と記念撮影を求めてきます。
 決して誇張している訳ではありません。
 藤井選手が計量会場とかにくると、マジに、全員寄ってくるんですよ。
 たまたま知り合いのバンドを見にライブハウスに行ったら、永ちゃんがきた!?みたいな感じになるんです。
 とにかく同じ業界人からのリスペクトがあれだけあるファイターも、なかなかいないと思います。

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 ここで藤井選手が、なぜ「世界のメグミ・フジイ」なのか。サラッと書きます。
 まず、2004年8月にプロMMAデビューから21連勝しただけでなく、その間に撃破してきたファイターのメンツがすごいんです。
 エリカ・モントーヤ選手、アンナ・ミッシェリ・タバレス選手、リサ・エリス(当時はワード)選手、ハム・ソヒ選手、そして時期UFC女子ストロー級の挑戦者カーラ・エスパーザ選手。
 当時の世界トップファイターばかりです。
 しかも対モントーヤ選手なんて、アメリカMMA史上初オール女子の大会Hook N Shoot(以下「フックンシュート」)のメインで行われたんです。
 彼女に対する国外での評価がいかに高かったのかを証明していると思うんですよね。
 しかも初めの21戦のうち、判定に行ったのは3回のみ。
 逆に1ラウンドでフィニッシュしたのが14回。そのうち1分以内に仕留めたのが6回です。
 わたし自身も、この1分以内フィニッシュ6回の試合時間を全部足しても、藤井選手の入場曲より短い、という下らない視点の英語の記事を書いたことがあります。それぐらいメグミ・フジイの名前は、もうその時から世界に轟いていたんです。
 
 ここまですごい戦績を築き上げたファイターって、他にいないと思うんですよね。

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 ちょっと長くなりますけど、もう一つだけ、メグミ・フジイが、どれだけ世界で評価されていたのかがわかるエピソードがあります。
 2008年にスタートしたベラトールが、2010年に女子の階級をスタートさせる際、一番初めにやると発表されたのがフライ級だったんです。
 当時の藤井選手は、多分ストローでもそんなに減量をしなくても良かったと思うんで、フライ級なんて、本来ならばあり得ない階級だったんです。
 それでも藤井選手は、ベラトールと契約。
 当時、国内にはまだ対戦していない辻結花という23勝1敗の選手がいましたけど、様々な理由でやれる感じでもなかったので、多分ベラトールを選択したんだと思います。
 
 そしたらベラトールが、メグミ・フジイと契約できたんだからと、フライ級やめちゃって女子はストローでやると言い出したんです。
 当時の女子MMAで藤井選手の存在はそれぐらい絶対だったんです。
 誰に聞いても、ストローで女子のナンバーワンは?と聞いたら、メグミ・フジイと答えていました。
 
 もちろんUFCのタイトルマッチをやった選手たちも凄いのは間違いないですし、当時は選手の層の厚さが違うという意見もわかるんですけど、そこまで世界で評価された日本人MMAファイターって、やっぱり藤井選手以来、まだ出てきていないと思うんですよね。

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 さて、そんな藤井選手のもとでMMAを学んだのが浜崎選手です。ファイターとしても人間としても、影響を受けてない訳がないんですよね。藤井選手も浜崎選手も柔道出身。MMAを始めたのが20代後半と遅め。サウスポー。
 その他、共通点はたくさんあるんですけど、根本的な人間のタイプは、やや違うと思うんです。
 2人とも気が強いのは間違いないんですけど、藤井選手はクソがつくほど真面目。浜崎選手はどちらかというとヤンチャかと。
 もしも藤井選手が担任の先生だったら、やば、誤魔化しは効かんぞ!とわたしなら考えますけど、浜崎選手が担任だったら、ちょっと仲良くなれそう、で、何とかなるかも?みたいな感じでしょうか。
 それがファイトスタイルにも反映されていると思うんですよね。
 藤井選手はゲームプランを冷静に遂行する感じだったんですけど、浜崎選手には、時折、余裕と遊び心を感じるんです。特に浜崎選手の直近の2試合なんか、あれ、冷静に自分の一番得意な闘い方に持っていけば、フィニッシュできたと思うんですよね。
 けど殴り合ったのは、得意な形に持っていっても良いんだけど、打撃だけでもけちょんけちょんにできますよ、という強気でヤンチャな部分が出たと思っているんです。
 
 そんな浜崎選手がデビューしてからインヴィクタFCの初防衛戦まで、常に傍にいた藤井選手が、今回久しぶりにセコンドにつく。
 これからキャリアのラストスパートに入ると思われる浜崎選手が、今のこの時点で、新たなアクセルを踏むために、また藤井選手が必要だと考えたのかもしれません。
 それともこの試合は、浜崎選手の中では何らかの節目。そんな風に捉えているのかもしれません。
 そう考えると、何かが起きそうな気もしない訳でもない。
 わたしにとって、今回の浜崎選手の試合はそんな視点で観ちゃう試合なんです。

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 さて、今回浜崎選手と対戦する伊澤選手。
 レスリングと柔道で全国トップレベルに行っていると聞いただけで、ワクワクするじゃないですか。
 だからデビュー戦からグラップリングの試合も含めて全部観てます。
 まだまだ若いですし、手足もまぁまぁ長く打撃の出しやすそうな体型ですから、とても期待している選手の1人なんです。
 グラップリング技術はかなりのものがあると思いますし。
 ただ伊澤選手の打撃って、明らかにタックルに入るため、距離を詰めるための打撃だから、例えば右ストレートを放つとき、ほとんどの場合スタンスの重点が低くなってターゲットが下になりますし、何といっても気になるのは、パンチの展開になると縦の動きばかりで、ほとんど横の動きがないんですよね。
 それに比べると浜崎選手はボクシング技術もかなりありますし、彼女はパンチを被弾しても、左右に動きうまくいなすとか、対処できるんですけど、それが伊澤選手にができるのか?
 これがスタンディングでのポイントの一つになるかな、と思ってます。

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 グラウンドに関しては、伊澤選手の技術だと、スクランブルの展開になって浜崎選手が下になることもあり得るとは思うんですよね。けど、RIZINでの浜崎選手の試合しか観た事ない方なら、いまいちピンとこないと思うんですけど、浜崎選手って、下から腕とるの、めっちゃくちゃ上手いんですよ。
 インヴィクタFCでの初防衛戦の対アンバー・ブラウン選手との試合でも、下からのアームロックでコントロール。しっかりとリバースして、そこからフィニッシュに繋げているんですよね。
 バックを取らせても、昔の桜庭和志選手もみたいに、なんなりとアームロックに決めて展開を支配しちゃいますし。
 スタンディングでも打撃だけではありません。
 浜崎選手ほど、MMAの試合で綺麗に内股投げを決められるファイターって、なかなかいないと思うんです。
 しかも内股一つとっても、一度足入れてひっかけたり、フェイント入れてから、さらにまた一歩入り込んで内股決めるとか、細かい技術が多彩なんですよ。

 だから浜崎選手の牙城を崩すのは、まだまだ困難なのでは?と思う反面、伊澤選手にも期待してますから、グ〜ンと成長して、この試合に臨んでくることもあり得る。みたいなファン感覚で、とても楽しみな試合なんです。

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 ただこの試合の結果がどうであれ、個人的には、伊澤選手には、将来の世界のストロー級を見据えて肉体改造に着手して欲しいですね。
 RIZINにはストローないし、今ストローでほとんど減量がしなくても良いから、となるのもわかりますけど、長期的なことを考慮したら、わたしはストローの方がいいと思うんですよね。
 UFCにアトムはないですし、UFCもベラトールもPFLも近い将来アトムをやる気配はないですし、これからもファイターとして成長していく過程ですから、しっかりと時間をかけてやっていけばストローでも全然世界を狙える才能だと思うんで。

 RIZIN 33は、バンタム級GP決勝を含めとトータルで16試合。
 大晦日にMMAがライブで観れるのは、世界広しといえども、日本だけです。来年への期待度が増すような大会になって欲しいですね。

 わたしの方も、年末年始は鬼のように忙しくなるので、2021年のnoteは、これが最後となります。

 今年もお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 2022年も時間のある限り書きたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。



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