#081 いま欲しいのは「マジメな不良」

「マジメさ」には二種類ある

先日、いくらやっても自分の人生の豊かさにつながらない「スジの悪い仕事の断捨離」というテーマで記事を三連発挙げました。

ざっくり言えば「クソ上司からの仕事は適当に受け流せ。自分の成長や評判につながる仕事を強かに見抜いて、その比率を高める時間ポートフォリオを作ろう」というアドバイスをしたわけですが、多くの人は「そんな不マジメなことはできない」と直感的に思ったのではないかと思います。

で、私がどのように思うかというと、このような考え方はまったく不マジメだとは思っておらず、むしろ、とても貴重な人生を無為に食い潰していくスジの悪い仕事にダラダラと取り組んでいることの方が、よほど不マジメだと考えています。

いい機会なので、ここで私が考えている「マジメさ」について、説明してみたいと思います。

まず「マジメさ」には二種類あります。それは「自分の人生に対するマジメさ」と「所属する組織に対するマジメさ」です。

東芝による粉飾決算や三菱自動車による組織ぐるみのリコール隠しなどの陰湿で悪意に満ちたコンプライアンス違反を犯すのは後者、つまり「組織に対してマジメな人」です。よく「こういった人たちも、組織を背負わない個人として会ってみると、良識に満ちたごく普通の人であることが多い」と言ったことが言われます。

しかし僕は経験的にこの意見には反対なんですね。コンサルティングの仕事を通じて、こういったコンプライアンス違反を犯した当事者の人たちと接すると「組織に対してマジメな人」は自分自身の中に善悪や価値観の基準を持っていないことが多い。技術的なエラーがあることを承知しながら組織ぐるみでそれを隠し続けたところ、そのエラーが最終的に死亡事故につながることになった某自動車メーカーの組織診断をしたことがあるのですが、内部の人たちの感情にほとんど反省の色はなく、存在していたのはあくまで「社会やマスコミから叩かれた」ことへの怨嗟でした。「救いようがないな、この組織は」と感じたのを昨日のことのようによく覚えています。

「マジメさ」とは何か

あの人はマジメですね、という時、私たちは「組織や社会のルールに誠実に実直に従いながら、責任を果たすために努力している人」といったイメージを思い浮かべます。しかし、そういうステレオタイプな「マジメな人」が、社会的に犯罪とした言いようがないようなコンプライアンス違反を主導してきたのだという事実を、私たちはどのように受け止めたらいいのか。

ここで改めて考えなければならないのが、私たちにとって「マジメさ」とはいったい何か?という問題です。

先述した通り、一般に「あの人はマジメだ」という表現をする時、私たちは「組織のルールに実直に従い、規律を守りながら誠実に仕事に打ち込んでいる人物」を思い浮かべます。しかし、先述した通り、日本の管理職の4割は経営課題の設定はおろか、自部門の課題の優先順位さえクリアに定義できないクソ上司ですから、与えられる仕事そのものに意味が見出せないという事態がよく発生します。

こういう状況で、そのクソ上司の指示に従うことが無意味であることを理解しながら、それでも実直に従って仕事に取り組む人がいたとしましょう。仮にこれをAさんとすると、このAさんは本当に「マジメ」だと言えるのでしょうか?思考を整理するために対照的な人物を想定してみましょう。

仮に同じ状況で、クソ上司の指示に従っても会社にとっても自分にとっても意味がないと判断し、クソ上司の指示を無視して自分なりの考えで勝手に動く人がいたとして、仮にこれをBさんとすると、BさんとAさんとでは、どちらが「マジメ」なのでしょうか?

端から見ていれば、毎日誠実にクソ上司から言われた仕事をこなしているAさんは「マジメ」に見える一方で、いつもクソ上司から「オレの言うことを聞けー!」と叱責されながら、いかにも馬耳東風という表情で鼻クソでもホジりながら聞き流しているBさんは「不マジメ」に見えるでしょう。

しかし、問題意識のレベルまで踏み込んで考えてみればどうでしょうか。Aさんは「言われたことだけをこなしていればいい」と考えて、会社や自分の成長について考えていない一方で、Bさんは「この人の指示に従ったところで、部署のパフォーマンスも自分のパフォーマンスも上がらない」と考えているわけで、組織や自分の課題に誠実に向き合っているのは、明らかにBさんの方なのです。

このように考えていくと、やはりAさんを「マジメだ」とするのは、やはり不適切なのではないかと思います。Aさんは確かに「優等生」ではあります。ただし「マジメ」ではない。なぜならば、問題意識を持とうとしていない、あるいは持っていたとしても、それに対して誠実ではないからです。一方のBさんは、確かに「優等生」」ではなく、むしろ「不良」というべきでしょう。ただし「マジメ」に問題意識には向き合っている。

「あのランボオという人は、一体どんな人間だったんですかねえ」と尋ねたら、ひるんだ顔で一瞬目を閉じ、「そうだな、とにかく真面目な、真面目な人だったんだよな」と答えてくれた。

石原慎太郎「小林秀雄の思い出」

「マジメな不良」と「不マジメな優等生」

私は、この問題を考えるにあたって

「マジメな不良」と「不マジメな優等生」

という対比構造で整理するといいのではないかと思っています。

先述した思考実験に当てはめれば「不マジメな優等生」がAさんであり、「マジメな不良」がBさんです。そして、時間のポートフォリオのバランスが崩れているのは、間違いなく「不マジメな優等生」であるBさんの方です。なぜならば、Bさんの不マジメさはとりもなおさず「スジの悪い仕事を排除する」というミッションに対して向き合おうとしないことによるからです。 

東芝による大規模な粉飾決算は記憶に新しいですよね。昨今の日本ではコンプライアンス違反が続出していますが、わたしはこう言ったコンプライアンス違反の増加は、「不マジメな優等生」によって引き起こされていると考えています。

与えられた目標に対して、その達成に向けて大いに努力すること。こう書けば、おそらく100%の人が、これをポジティブな行為として捉えるとおもいます。この努力の度合いは、個人が「与えられた目標が達成できると気持ちいい」と思う度合いによって変わってくることが、これまでの研究から分かっています。

「仕事上の動き」を決める三つの社会性動機

人が持つ根源的な「動機」が、どのように仕事上のパフォーマンスに影響を与えるのか?この問題についてキャリアを通じて考え続けたのがハーバード大学の行動心理学者であるデイビッド・マクレランドでした。

マクレランドは、仕事上のパフォーマンスに影響を与える動機を「達成」「親和」「パワー」の三つであることを突き止め、それぞれの高低によって仕事上の思考・行動様式にどのような影響が出るのかを分析しました。

ちなみに三つの動機は次のように定義されます。

ここから先は

2,244字
この記事のみ ¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?