#076 スジの悪い仕事の断捨離 3/3

対処法方1 パッシブアプローチ

さて、これまで人生を食いつぶす「スジの悪い仕事」が発生させる

  1. 停滞社会における成長機会の減少

  2. クソ上司の蔓延

  3. 非主体的で従順な個人の増加

という三つの要因について説明してきました。このような状況を受けて、私たちはどのようにして「スジの悪い仕事」から人生を防御していけばいいのでしょうか?

一番目の「停滞社会における成長機会の減少」は変えようがない事実で、個人が扱う問題としては大きすぎます。また三番目の「非主体的で従順な個人の増加」というのは、難しい面はあるものの自分次第でなんとかすることが可能です。

結局、対処をしっかりと考える必要があるのは「クソ上司の蔓延」という問題だということになります。後ほど「個人」の問題には改めて触れるとして、ここでは「クソ上司」にどう対処すべきか、という問題について考察してみましょう。

「自分でなんとかする」が基本

まず基本的な前提として、クソ上司の問題について本来的に対処すべき経営者や人事の動きが全く鈍いので、自分の人生を取り戻すためには自衛手段を取るしかないと認識すべきです。ではどんな対処法がありうるのか?ここでは

  1. パッシブアプローチ

  2. アクティブアプローチ

  3. ラジカルアプローチ

の三つの基本形を紹介しましょう。

パッシブアプローチ=テキトーにやり過ごす

パッシブアプローチとは、つまり「テキトーにやり過ごす」というアプローチです。クソ上司の下でいくら努力しても、組織内での評価は高まらず、また成長につながる良い経験もできない、ということはすでに指摘しました。

こういう環境条件のもとで、仕事に対して出力を高めるのは人生の無駄遣いでしかありません。自分のエンジンをエコモードに切り替えて、徹底的な低燃費を図るというのがこのアプローチです。そこで浮いたエネルギーを余暇活動に充てることで将来の肥やし=「正味現在価値の高い人的資本」に転換するにするというのもいいでしょう。

パッシブアプローチで大事なのは「徹底して受け流す」ということです。クソ上司は頭が悪いのにそれを認めようとしないため、他人とのコミュニケーションで「カチン」とくることを乱発する傾向があるのですが、そのたびにいちいち反論しているのは、それこそ「スジの悪い仕事」ということになってしまいます。

ということで、クソ上司が無意味と思える仕事を振ってきても、「その仕事になんの意味があるんですか?」と聞き返したい気持ちはグッとこらえて、「ああまたサルが思いつきで妄言をほざいているな・・・論破してあげてもいいけど面倒くさいから午前中にサクッと済ませて、午後は外出先から直帰しよう」と考えて受け流した方がいい。人生にはメリハリが必要です。

クソ上司の下でも延々と頑張り続けると全く報われず、下手をするとメンタルをやってしまう可能性もある。人生には「こう言う時もあるよね」とさらりと受け流す時期も必要です。これは拙著「外資系コンサルの知的生産術」でも指摘したことですが、頑張っているのに評価されないと愚痴をこぼす人には「いつも80点を取ってます」という人が多い。

これは全然ダメな戦略で、どうでもいい打席では60点だけど、ここぞというときに120点を取る、というのが人生では重要です。日本プロ野球の歴史において最も華やかな印象を残したプレイヤーと言えば、まず長嶋茂雄ということになりますが、長嶋茂雄の通算の打撃成績は、打率にしても本塁打数にしても歴代のトップ10にランクインしていません。いかに「記録」と「記憶」は異なるかということを示すわかりやすい例ですが、企業組織においてもまた、人の評価は「記録」ではなく、ここぞという場面での印象に残る仕事、つまり「記憶」が大事だということを忘れてはなりません。

クソ上司の元でいつも80点を取ろうと頑張っていても、徒労感が募るばかりで、いざ120点を取らなければいけない、というときにアクセルを全開できない恐れがある。クソ上司の元ではアクセルを緩めて、徹底的な低燃費運転を心がける、というのが一つ目の対処法=パッシブアプローチです。

パッシブアプローチのデメリット

クソ上司に振り廻されてアクセクと受け身で働くのが「スジの悪い仕事」であることは間違いありません。しかし、だからと言ってパッシブアプローチを長期間にわたって採用するのもそれはそれでデメリットが大きいので注意が必要です。

パッシブアプローチでは、仕事の出力は最低限度に抑えながら、そこで浮いたエネルギーを余暇の充実や健康促進に充てることになります。「スジの悪い仕事」にエネルギーを吸い取られると、仕事からはストレス以外の何も得られず、余暇はストレスと疲れで何をやる気も起きず、ということで、そのクソ上司の下にいる期間が「人生の暗黒時代」になってしまいます。

したがって、仕事の出力は最低限に抑えながら、余暇の活動を充実させることで中長期的に自分の人生の豊かさにつながる活動、それはとりもなおさず「教養を磨く」ということなのですが、に時間を使うということは確かに合理的でしょう。

しかし、これはせいぜい一年程度であって、それ以上の期間にわたってパッシブアプローチを採用するのは危険だろうと私は思っています。なぜかというと、最終的に人は仕事を通じてしか成長できないからです。

この点については後ほど触れますが、これまでの研究から、人の成長の7割は仕事の体験によっており、自助的な勉強はせいぜい1割程度しか寄与しないことがわかっています。つまり「スジの悪い仕事」を減らして、それを余暇における勉強で埋め合わそうとしても限界があるということです。

これは筆者自身の実感とも一致しています。実は私自身も、二十代の後半にパッシブアプローチを採用した時期があるのですが、これをやって充実感を得られるのはせいぜい一年程度で、二年目に入る頃には「これは、なんかヤバいんじゃないの?」と思い始め、その後いろいろと社内で画策したのですが、結果的にはそれで転職してしまったということがあります。

なので、あのままパッシブアプローチを続けていたらどうなっていたか、実証的なことは言えないのですが、おそらく頭でっかちで弁は立つけど肝心カナメの仕事はイマイチ・・・という、どの会社にもよくいる評論家型の残念な人材になっていただろうと思います。

つまり、パッシブアプローチは一時的な対応策であって、これをあまりに長期間にわたって続けるのは、自分自身をクソ上司予備軍にしてしまう可能性があるということです。

このように考えてくると、クソ上司の下に配属された場合、そのクソ上司の下にどれくらいの期間いることになるか、という見極めが必要になります。人事異動の期間や頻繁さは会社によってまちまちなので、それぞれの置かれた立場で考えてもらうしかありません。

連続してクソ上司に当たる比率は結構低い

異動するまでの辛抱だから、という話をすると「異動したらまたクソ上司だった」というリスクを考えるかもしれません。が、これはそれほど確率的には高くありません。先ほど、クソ上司の比率はだいたい五割程度だという指摘をしました。

これはつまり現場のスタッフからしてみれば、五割のカードがジョーカーというババ抜きをやっているようなもので、なかなか厳しいゲームだということになるわけですが、これを確率で考えてみると、二回連続でクソ上司に当たる確率は0.5の二乗で25%に、三回連続でクソ上司に当たる確率は同様にして一割強程度ということになります。

これはつまり、二回以上連続でクソ上司に当たる確率は実はかなり低いということですから、たとえクソ上司の下に配属されたとしても、まずは「運がなかった」と諦め、この人の下にいる期間を一年と限定した上で、余暇で勉強したいテーマ、経験したいテーマを設定してそれに邁進するということでいいと思います。

ここでポイントになるのは「中途半端にしない」ということです。期間を一年と決めて、それ以上に長引くようであれば状況を改善させるための計画を立て、これを断じて実行する。一方で、その期間までは徹底的に省力化を図り、浮いたエネルギーは中長期的に肥やしになるような領域の勉強について(肥やしにならないスジの悪い勉強については、後ほど書こうと思っている「スジの悪い勉強」で詳述します)使うということです。 

対処方法2 アクティブアプローチ

さて、クソ上司から自分の人生を守るための二つ目の方策が、アクティブアプローチです。これは、自分がクソ上司の役割を奪って、実質的にその上の上司の直属の部下、場合によっては社長の直轄領として動くということです。パッシブが「やり過ごし」なら、こちらは「あたま越し」ということになります。

先述した通り、クソ上司はアジェンダ設定能力がムチャクチャに低いので、会社にとって意味のある「お題」を設定できません。そこで、自分のチームの仕事の優先順位を、クソ上司に成り代わって設定する、進捗管理も自分でする、というのがこのアクティブアプローチです。

このアプローチは、一見すると、クソ上司を激昂させるのではないかと思われるかもしれませんが、私の経験からするとそういうことはあまりなく、逆にクソ上司に喜ばれることも少なくありません。というのも、クソ上司に成り代わって設定したアジェンダによって周囲が驚くような成果が出ると、クソ上司の評価も一時的に高まるからです。

チームの出した成果について、ある程度はクソ上司に華を持たせるようにしながら、裏側では排除のための政治活動を行うというのが基本的な考え方で、こういう状況ではクソ上司の上司や組織のキーマンとはきっちりとコミュニケーションをとり、仕事の成果があくまで自分のものであって、クソ上司は相変わらず撹乱要因でしかない、ということはしっかりとアピールしておく必要があります。

対処方法3 ラジカルアプローチ

最後に、クソ上司から自分の人生を守るための三つ目の方策がラジカルアプローチです。これは転職や異動などによって、そのクソ上司から逃れるというアプローチです。ラジカルと名付けているくらいなので最も過激なのですが、運悪くクソ上司に当たってしまった、ババを引いてしまったという人は短兵急にこのオプションに飛びつきやすい。しかし、いうまでもなく転職には大きなリスクがつきまといます。クソ上司のためにそこまでのリスクを背負うのは如何なものか、というのが私の率直な考えです。

これは前著「天職は寝て待て」にも書いたことですが、転職には「攻めの転職」と「逃げの転職」があって、「逃げの転職」は結果的にあまりポジティブな結果にならないことが多い。そしてクソ上司から逃れるために転職するというのは、典型的な「逃げの転職」といえます。私としては、パッシブ、アクティブの両アプローチについて模索した上で、本当にどうしようも無い、もう耐えられないという状況になるまでは、このラジカルアプローチは採用すべきでは無いと思います。

生意気上等

さてここまで、クソ上司というババを引いてしまった人のために、対処法として

1:パッシブアプローチ
2:アクティブアプローチ
3:ラジカルアプローチ

の三つのアプローチを説明してきました。ここで、強調しておかなければならないのは、企業組織において頭角をあらわす人の多くは、パッシブアプローチとアクティブアプローチをうまく組み合わせて使っている人が多い、ということです。

さらに、少なくとも確実に言えるのは、パッシブアプローチだけを採用していたのでは、所属する組織で頭角を表すことは絶対にない、ということです。先述した通り、パッシブアプローチというのは期間限定の余暇充実キャンペーンみたいなものですから、これを永続的に続けていたのでは、結局は自分の人生を守ることはできません。大事なのは、パッシブアプローチとアクティブアプローチを、置かれた状況に応じて適切に組み合わせるということです。

たとえば、今や世界的な名声を獲得するに至った建築家の安藤忠雄さんの自伝を読むと、若い時にはとにかく仕事がなく、仕方なく一人旅をよくして世界や日本の問題について思いを巡らせたというエピソード(=パッシブアプローチ)が出てくる一方で、頼まれてもいない建築の仕事を、勝手に土地のオーナーやビルのオーナーに持って行くというエピソード(=アクティブアプローチ)もたくさん出てきます。

あるいは、ソニーの元CEOである出井伸之氏のキャリアを調べてみると、傍流に左遷されてクソ上司の下で不遇を囲った時代には、「こういう時期だからこそ」とばかりにワインやオペラに関する知見を深める(=パッシブアプローチ)一方で、ソニーの経営戦略に関する問題を分析したレポートを誰からも頼まれずに勝手に作成して社長以下の役員に送りつけたりして(=アクティブアプローチ)います。

組織の中で階層の岩盤を突き破ってくるような人材というのは、どこかで上司が設定した仕事の枠組みに収まらないアジェンダを自分で設定して、それを実現させています。これは、構造上必ずそうならねばならない必然性がある。しかし、それだけをやっていて本当にスケールの大きい人材になれるかというと、それはそれで難しい。

視座の高い仕事をやっていくためには、どこかで余暇を充実させて、短期的な成果が求められる仕事からだけでは得られないような刺激やインプットを受けることが必要でしょう。最終的に功なり名を遂げた人物の多くが、人生のどこかで不遇を囲い、その時期に仕事では得られないような刺激を得たことで後の飛躍の糧としているのは私たちに重大な示唆を与えてくれるように思います。

パッシブ+アクティブが基本

さて、話を元に戻せば、レシピはこういうことになります。まず、クソ上司の下に配属されてしまったというときはジタバタせず「運がなかった」と発想を切り替えることが重要です。ここで一番よくないのが、意義が見出せないと思えるようなクソ上司からの仕事にアクセクしながら一生懸命に対応することです。

こういった仕事は、典型的な人生を食いつぶす「スジの悪い仕事」ということになりますから、まずはリラックスして「この上司の仕事はイマイチだな。だったらギリギリの及第点を取れる程度まで手を抜いて、夜は早く帰るようにして何かテーマを決めて勉強しよう」と考えるのがいい。つまり、まずはパッシブアプローチを採用して、リラックスしようということです。

ここでポイントになるのが、会社の中での意識を余暇に100%向けることはせずに、組織の大きなアジェンダを考えてみることです。要するに、自分が部門長あるいは社長だったらこの局面で何をやるか、ということを考えてみるということです。目の前のどうでもいい仕事に忙殺されていると、こういう「視座の高い思考」はなかなか出来ません。こういった時だからこそ、できることなのです。

視座の高い思考を始めると様々な疑問が浮かぶはずです。その疑問に答えるために様々な勉強をしてもいいし、議論するために他部署の人を巻き込むのもいいでしょう。そうこうしているうちに、この部署でやるべきことは○○なんじゃないか、と思えるようなアイデアが生まれてくるはずです。ここまできたら、パッシブアプローチをアクティブアプローチに切り替えてもいいタイミングです。

思いついたアイデアをクソ上司に話しても、大概は理解してもらえず「そんなことを考えている暇があったら、俺の言う通りにやれ」などと言われるのがオチですから、コミュニケーションの相手は、組織の中で見識のありそうな人がいいでしょう。

おそらく、みなさんの周りにも「ああ、あの人は人望があるなあ、出世するだろうな」という人がいると思います。まずは、そういった人にぶつけてみるといいと思います。そうすると次に何が起きるか?おそらく何も起きません。ただし、提案を受けた相手は必ずあなたの名前を覚えます。面白い奴がいるな、ということですね。これを何度も繰り返してごらんなさい。誰もあなたをクソ上司の下で腐らせておこうとは思いません。

職場での「よい経験」が成長のエンジン

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