「顧客におもねる」から「顧客を鍛える」へ

研修は多くの場合、自社の従業員や経営者に対して行われます。

僕も数多くの企業の研修の設計・実施にこれまで携わってきましたが、ほぼ100%のケースが、自社の従業員・経営者を対象にしたものでした。

しかし、ずっと思っているのは、本当にそれでいいのだろうか?ということなんですね。

企業は、顧客を中心としたステークホルダーと連携することで社会に価値を生み出しています。

つまり、自社だけでなく、ステークホルダー全体が一つのシステムになって価値創出をしている、ということですが、自社の従業員・経営者のみを対象に研修を行うということは、このシステムの一部だけを取り出して、パーツとしてバージョンアップしてる、ということになります。

しかし、システムのパフォーマンスや通常、パーツの一部だけを変えるだけではあまり向上しないため、大きな変化を生み出すためには、ボトルネックとなっている複数の箇所を特定し、それらに同時並行的に改変しなければなりません。

このように考えると、特にB2Bの企業においては、当該企業の内部の従業員・経営者のみならず、これらの人々の提案を受け入れる立場である顧客や取引先企業の人々の能力も同時に高めていくことが重要になります。

特に、この点が際立って重要になってくるのが、B2Bの中でも、プロフェッショナルサービスと呼ばれる産業です。

たとえば、デザイナーの能力を高めることで、社会に生み出される商品やサービスの水準は高まるでしょうか?

もちろん、デザイナーの能力が一定以上の水準にあることは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。

十分条件となるのは、能力の高いデザイナーの提案から、優れた案を選び出す顧客企業側の選択眼・審美眼です。

いくら能力の高いデザイナーが優れた提案を出したとしても、顧客企業の意思決定者にまったく成熟した選択眼・審美眼がないというケースでは、デザイナーの能力が価値に転換されないのです。

だからこそ、僕は以前から、電通や博報堂の人たちに、御社の社員や経営者の能力を高めるのも大事なことだけれども、もっと大事なのは顧客企業の意思決定者の選択眼・審美眼を鍛えることだ、と言い続けているのです。

プロフェッショナルというのは医師や弁護士と同じで、顧客との関係は対等・・・あるいは場合によってこちらが上(だから先生と呼ばれますね)なわけですが、これはどうも欧米的な概念のようで、日本ではどうしても顧客が上で、こちらが下という上下関係になってしまう。

だから「顧客を鍛えるための教育サービスをやるべき」というのも、なかなか受け入れられていないわけですが、どんなにプロフェッショナルの能力を高めても、最終的にそれを採用する側のキャパシティや美意識が低水準なものであれば、プロフェッショナルの能力を十分に引き出すことはできません。

この点で、さすがだなあと思わせるのが、コンサルティング会社のマッキンゼーの取り組みです。

マッキンゼーは、Mckinsey Academyなる教育サービスによって、顧客企業の意思決定者の能力を高める、ということを始めています。

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