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彼氏がリストカットしていた時の話

自殺した芸能人のニュースで、ひさびさにリストカットの画像を見た。それでむかし付き合っていた男の子のことを思い出した。彼もリストカットをしていた。あまり人に話したことはないけど、その時のことを書いてみたい。

・リストカットの描写があります。
・リストカットを否定するものでも、肯定するものでもありません。
・ただの思い出話ですが、あまりに「現実」すぎて恥なので、一部有料にしました。有料部分は約5200文字/6700文字です。よろしければ暇つぶしにでもどうぞ。

彼氏がリストカットした日

高校生のとき、付き合っていた男の子がリストカットしていた。

最初からそうだったわけではない。出会ったときの彼は、むしろ明るいひとだった。人懐こくて、お調子者で、みんなを笑わせることが好きだった。よく通る声で、いつもはっきりと喋った。男女問わず、友だちも多かったように思う。いじめられてもいなかったし、家庭環境が悪いわけでもなかった。

だから、なにがきっかけだったのかはよくわからない。ただ、気がついたらなんとなく学校を休みがちになっていて(彼は、わたしとは別の学校に通っていた)、気がついたら鬱っぽくなっていた。そして、ある日とつぜん「切った」と写真が送られてきたのだ。

はじめてそれを見たとき、目がチカチカして、心臓がバクバクして、背筋がさあっと冷えていった。そのときわたしはショッピングセンターのトイレにいたので、その場にしばらくうずくまっていた。どうしよう。どうしよう。どうしよう。夢であることを何度も願った。だけど小さなガラケーの液晶画面に映る現実は、たしかにわたしの好きな男の子の腕のかたちをしていた。

とりあえず電話をかけて、電話口で泣いた。正直に言えば怒った。どうしてそんなことをするのかわからなかったし、どうしてもそんなことをして欲しくなかった。

わたしが取り乱すほど彼は妙に冷静だった。嘘がバレたときの子どもみたいな口調で「ごめん」とだけつぶやいた。

傷痕とどう向き合うか

まず不安に思ったのは、痕になったらどうしよう、ということだった。そのことについて彼は「浅いから大丈夫じゃない」と他人事みたいに言った。わたしは「もうしないでね」と何度も何度も念押しした。

一度ならなんとかなると思った。まだ引き返せる。しょせんは傷だ。きっとしばらくすれば治るだろう。と、思っていた。

でも止まらなかった。彼はそれから事あるごとに手首を切るようになった。ある傷が治りかけると、その傷を抉るように、また切った。治りかけては切り、治りかけては切りをくり返すうち、傷はどんどん増えたし、深くなった。

もう戻れないところまで来てしまっている感じがした。怖くなって母に話した。母は困ったような呆れたような顔をして、「そんなことして、いつか子どもが見たらなんて説明するのかしらね」と言った。

子どもが見たら?
16歳のわたしには、そんなことうまく考えられなかった。だけど彼とは、バカみたいだけど本当に真面目に、ずっと付き合うつもりでいたから、なんだか重たい気持ちになった。

それまでわたしはリストカットをしたこともなければ、誰かがしているのを見たこともなかった。今やTwitterで「#リストカット」と検索すれば画像だって簡単に見つけられるけど、ハッシュタグが日本語対応すらしていなかった時代である。そんなのは漫画やドラマの世界でしか起こらないことだと思っていた。

わたしはとつぜん当事者になったのだ。というか、どんな「当事者」もみんな予期せずなるものなのだろう。

それからは毎日リストカットのことばかり考えて暮らした。
おかげでわたしも鬱っぽくなることが増えた。

わたしの自傷

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