マガジンのカバー画像

下町やぶさか診療所5

2
看護師知子の義母が癌のため死去。故郷島根の海へ散骨してほしいとの遺言を残した。大先生こと麟太郎が知子夫妻に同行すると知った居候の高校生麻世は……。ユーモア&人情小説。
運営しているクリエイター

記事一覧

下町やぶさか診療所 5 第一章 散骨の思い・後/池永陽

【前回】  羽田空港を早朝の七時ちょっとの飛行機に乗り、麟太郎たちは出雲空港に向かった。  びびりまくるのではないかと心配されていた高史は窓際の席に座り、ガラスに顔をくっつけるようにして外の景色を一心に見入っていた。通路側に座った麻世も最初のときのような恐れる様子はほとんど見られず、静かに両目を閉じて黙って座っていた。ただ、両手で肘掛けだけはつかんでいたが。  いちばん大変だったのは、高史の隣に座っている「飛行機が怖くて、お天道様の下を大手を振って歩けるもんけえ――」と大見

下町やぶさか診療所 5 第一章 散骨の思い・前/池永陽

 七月に入って急に夏らしくなった。  微風とともに、台所から漂ってくるのは、カレーの匂いだ。夏にカレーはどうかと考えて、カレーの本場がインドだということに気がつき、麟太郎はすぐに納得の思いを胸にする。  が、問題なのはこれが、カレーライスなのかカレー焼きそばなのかということだ。麟太郎の前に座っている潤一もそれが気になるらしく、妙に落ちつかない様子だ。 「カレーライスか、カレー焼きそばか――親父はどう思う」  台所を気にしながら、低い声で潤一がいう。 「そうだな。お前は、どっち