フォローしませんか?
シェア
【前回】 今日のお客は、飯塚あやという女性だった。 「いい雰囲気のお店ですね」 初対面の飯塚あやは、緊張気味の頬をゆるめながら言った。 「私、喫茶店が好きなんです。とくに懐かしい感じのこういうお店、大好きなんですよ」 「いかにも昭和な店でしょう」 四角いガラスがはまった木の扉。カウンター五席と四人掛けボックス二つ。全体がコーヒー色に染まったようなオーク材の内装。 「母親が経営しています」 飯塚あや。ホームページから予約のメールを送ってきた初回のお客に向かって、占
【前回】 三 中谷里奈は、1DKのアパートのベッドの上で、咽喉の痛みに喘いでいる。 呼吸すると、痛い。 胸が痛い。 * ケンちゃんが、家に帰った。 奥さんがいる家に帰った。 息子が家出をした? 本当? 奥さんが嘘をついて呼び戻そうとしているんじゃないの? 「本当なんだ。警察にも捜索願を出したと言っている」 だったら、警察に任せればいいでしょう。ケンちゃんが家に帰ったところで、何の役にも立たない。 「そういうわけにもいかない。父親なん
【前回】 一 立野マリは、自分の部屋にいる。 「あやたん」と一緒だ。 * 横山ことみの娘「あやたん」は、立野マリのベッドで寝ている。 寝ろ、と言ったら、寝てくれた。素直な子でよかった。素直すぎる気もする。普通、知らないひとに知らない場所に連れてこられたら、怯えるだろう。泣いたり騒いだりするものじゃないか? へんな子ども。 誘い出すときだって、そうだ。ショッピングモールのトイレの前で、横山ことみが「あやたん」から離れた。あんな小さい子
皆さんこんにちは。 Web集英社文庫にて連載しておりました、加藤元さん「彼女たちはヤバい」がnoteにお引越し! 序章から第六章までは以前のページにてお読みいただけます。 各章へは以下から。 【序章】 【第一章】 【第二章】 【第三章】 【第四章】 【第五章】 【第六章】 今後の更新もお楽しみに!