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パルプアドベントカレンダー参加作品

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パルプアドベントカレンダーに参加した作品たちです
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記事一覧

赤人館の殺サンタ事件 | #パルプアドベントカレンダー2023

1. 探偵は遭遇する  探偵とは死に遭遇し、謎を解き明かし、去っていく……そういう存在だ。探偵が行くところ、常に死と謎とがつきまとう。それはもはや、宇宙の法則だと言ってもいい。  だが、それにしても……。  と、八神は思った。探偵である彼はいま、目の前の現実に戸惑っていた。  洋館の歓談室のなかだった。パチパチと、暖炉が音を奏でていた。銀の燭台の上ではろうそくの灯が揺らめき、窓の外ではしんしんと、降り積もる雪が白銀の世界をつくりだしている。  暖かく、静かな空間。  

【地獄サンタ】 #パルプアドベントカレンダー2022

intro. 二〇二一年、サンタは死んだ。だがやつは戻ってくる……そう今宵、この聖なる夜に。 Ⅰ. カチ、カチ、カチ、と腕時計の針は進んでいく。少しずつだがゆっくりと、十二月二十五日は近づいてくる。  だが、夜明けまで……あと十時間もある……。  山田太郎は腕時計を見つめ震えていた。呼吸は荒く、手足は凍えるように冷たかった。太郎のいる路地裏は生臭く、不気味なまでに静まりかえっている。  表通りとはまるで別世界だった。楽しげな人びとの声。仄かに差しこんでくるクリスマス・

【アラヤスカの聖なる夜】 #パルプアドベントカレンダー2021

 ──老いろ。躊躇なく、老いろ。  モヤがかかった感覚のなか、脳裏に浮かぶのはその言葉だけだった。  自分は何者で、どこにいるのか。いまはいつなのか。すべてがおぼろげで、まだらな、パッチワークのような記憶の欠落。  ──老いろ。老いろ。躊躇なく老いろ。  周囲を見渡す。  静かな闇と、木々の影とに囲まれている。  いまは夜で、ここは森のなかだ。  男はぼんやりと、そんなことを考えた。 「ひ、ひ、ひ、どうした。もう限界か?」  背後で不気味な声が笑った。振りかえると、

宇宙最強のサンタ #パルプアドベントカレンダー2020

 暗がりのなか、ゆっくりと息を吐きだしていく。  拳を握りしめ、開く。確かめるように、握りしめ、開き、また握る。己の体温と、静かに高まっていく鼓動。今はただ、それだけがともにある。  窓の外を見る。星が流れていく。宇宙船は進む。巨大な球形構造物が近づいてくる。球形構造物の名は、ヒアデス・スーパーアリーナ。決戦の舞台。拳を打ち鳴らす。再びアイツと相まみえる時が、近づいている。 ✨✨✨  ついにッ! クリスマスイブである! 地球時間で年に1度の究極祭典! いよいよこの時が

サンタ・リベリオン #パルプアドベントカレンダー2019

『市民。サンタは禁止である』 『やめなさい! 今すぐサンタ行為をやめなさい!』  威圧的な拡声器。〈抗サンタ委員会〉治安部隊の操る浮遊装甲兵器が、地上を舐めるようなサーチライトで照らしている。 「お姉さん……お姉さん!」  燃え盛る車両のそばで、倒れた女性を抱える少年。女性が身に纏う装束は、赤一色で染まっている。 〈第一次ゾンビ戦争〉。  多剤耐性インフルエンザパンデミックの発生と恐るべきゾンビ兵団の出現。辺境のコロニーから生じた戦争は、数十万もの人々を死に至らしめ

衛星軌道旋風ギャブリエル 凄絶メリクリ殺! #パルプアドベントカレンダー2019

 静かな朝だった。 『ピピーガガッ……死ぬには良い朝だ』 『ザザッ……そうね、アデル』  完全なる無音。丸みを帯びた大気層に、眩い陽の光が差していく。それはたった5分程度の朝。あっという間に過ぎ去っていく朝だ。 『ザザッ……ごめんなさい、アデル。わたしは、もう……』 『ガガッ……わかっている……わかっているさ、ファティハ』 『ザザッ……あぁ……わたし……血が……止まらない』 『ガガッ……ファティハ……もう話すな……』 『ザザザッ……もう……あなたのことを……サポート……