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逆噴射小説大賞2023応募作+αマガジン

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逆噴射小説大賞2023応募作+αです
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【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その肆

逆噴射小説大賞の応募作品のなかから僕なりにテーマを決めてピックアップをしていきます、の第四回目です。今回で最終回なので、いつもより多めに景気よくドーンといきます! おかみ様の遣わすもの現代的な怪談って「日常のすぐ隣にある怪異との遭遇」に怖さがあったりするわけですが、この作品は日常っぽい何かがむしろ怪異である、という転倒がおもしろいと思いました。宇宙飛行士っぽい人たちが怪異なのではなく、実は日常の方が怪異という。というかですよ、登場人物が「シカ(鹿?)の代わりに狩れてよかった

【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その参

逆噴射小説大賞の応募作品のなかから僕なりにテーマを決めてピックアップをしていきますの第三回目です。なおテーマは機密事項として非公開ですが、全体のトーンからなんとなく察することができるかもしれません。 では、やっていきます。 ドラゴンアンドデートドラッグパルプ的スピード感・グルーヴ感を出しやすいことから、冒頭疾走系(主に何かに追われてる系)って逆噴射では多いのですが、そういった類型のなかにおいてこの作品は秀逸だなと思いました。とにかくスラップスティックでありながら、バタつい

【逆噴射小説大賞ピックアップ】2023年版 その弐

ここのところ絶妙に忙しく、前回のピックアップから間が開いてしまいました……。 逆噴射小説大賞の応募作品のなかから僕なりにテーマを決めてピックアップをしていきますの第二回目です。なおテーマは機密事項として非公開ですが、全体のトーンからなんとなく察することができるかもしれません。 では、やっていきます。 レザレク特殊清掃ならぬ特殊葬送お仕事もの感があり、これは間違いなくおもしろくなりそう……と感じました。800字と短いなかでも主人公の故人への接し方など、しっかりと人物が掘り

逆噴射小説大賞2023ライナーノーツ的なやつ+α

2023年秋。今年も逆噴射の輝きは天空から降りそそぎ、人びとを熱し、畏れさせ、狂乱させた。11月になると輝きは去っていった。だがその残照はいまだ熱を持ち、年末が近づくなかで、日本は再び夏日を迎えようとしていた……(逆噴射は季節を狂わすぐらい楽しかったですねの意)。 ヘッダー画像は AI 画伯が生成したマスコット「ふりかえるくん」です。なぜかヨガのチン・ムドラー(親指と人差し指で輪っかをつくる印)をキメてますね。かわいい。 ということで、何ごともふりかえりが肝心。まずは自作

【逆噴射小説大賞ピックアップ】今さら2022年編

今年も逆噴射小説大賞がはじまった! しゅげんじゃ氏は早くも最大2作の応募枠を使い果たしてしまい……なので余裕をこいて自分が「よいな」と思った作品を紹介していくという通称ピックアップ行為(※)をやっていこう……などと思ったわけですが、それをやる前にしゅげんじゃ氏には心残りがあった……それは去年(つまり2022年)の逆噴射においてピックアップ行為をまったくしなかった……ということなのである……。 なので今年のピックアップをやる前に、去年分のピックアップを1年越しに実行し、心残

黄金ザクロ

 誰もいなかった。たった独りきりだった。  ウゥゥー……ウゥー……。  荒涼とした大地に、呻きにも似た何かが木霊していた。言い知れぬ焦燥感とともに空を見ると、天頂には眩い光があった。耳元には囁く声。誰も、いないはずなのに。  見えるか? あの輝きが。ぴかぴかとしたあの光が。わかるだろう? 俺とお前が求めてやまなかったもの。ありとあらゆる犠牲を費やし得ようとしたもの。俺とお前の生と死。終わりにして始まり。全てを飲みこむ黄金の光。  あれが、黄金ザクロだ。  叫びをあげ、御

平等院鳳子を殺せない

 鱈野エビスは息を呑んだ。  横断歩道の向こう。桜並木に一人の少女が佇んでいる。桜舞う春の風に吹かれながら、少女の髪は艶めいて見えた。その凛とした佇まいは神々しく、畏敬の念すら抱かせる。  平等院鳳子。  私立夢殿学園のアイドル……いや、カリスマ。  エビスは高鳴る胸を押さえた。チャンスだ。ようやく二人きりになれる。下校時のこのタイミング。今なら鳳子の取り巻きはいない……だから。  やつを、殺せる。  鞄に隠したナイフを握りしめ、エビスはゆっくりと歩を進めた。  俺は知っ

【逆噴射没ネタ供養】天使螺旋で舞っていた

 極彩色うずまく中で、男は咀嚼を繰り返す。じっくりと、味わうように。満足げに目を閉じて、湧きあがる言葉に身を委ねながら。  ある者は言っていた。天使とは神秘であると。なぜなら天使は、人には計り知れぬものだから。別の者はこう言った。天使とは科学である。なぜなら天使は世界の法則そのものだから。こう言う者もいた。天使は力だ。天使は全てをもたらしてくれる――。  男は鼻を鳴らした。  どれもバカげている。天使とは、単に美味いもの。  俺の、ご馳走だ。 「伊座利様、終わりました