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【逆噴射没ネタ供養】天使螺旋で舞っていた

 極彩色うずまく中で、男は咀嚼を繰り返す。じっくりと、味わうように。満足げに目を閉じて、湧きあがる言葉に身を委ねながら。

 ある者は言っていた。天使とは神秘であると。なぜなら天使は、人には計り知れぬものだから。別の者はこう言った。天使とは科学である。なぜなら天使は世界の法則そのものだから。こう言う者もいた。天使は力だ。天使は全てをもたらしてくれる――。

 男は鼻を鳴らした。
 どれもバカげている。天使とは、単に美味いもの。

 俺の、ご馳走だ。

「伊座利様、終わりましたか?」

 呼びかけに目を開く。伊座利は嚥下を終えながら、ああ、と頷いた。視界に重なる極彩色が薄れていく。戻ってきたのだ。希釈された「現実」に。軽く息を吐き、白銀のネクタイを締め直す。スーツの襟を正し、努めて涼しく微笑んだ。

「では諸君、はじめようか」

 伊座利たち七人の前にそびえるのは要塞のごとき施設。伊座利には未来が見えている。数分後。七人は威風堂々、正面エントランスから突入するだろう。各々の力を駆使し全ての防衛機構を無力化。制圧された警備の一人は呻くはずだ――なぜだ……なぜ施設の守護天使が機能しない。伊座利は微笑みながらこう返す――悪いな。

「俺が喰った」

『正体不明の集団が英才高等学校、通称〈超人学園〉を占拠。教官、生徒の安否は不明……一部生徒が抗戦してるとの情報……』

 パトランプが乱舞し、ノイズ混じりの無線ががなりたてる中、黒メガネの女は学園施設を見あげていた。彼女の歪んだ認知の中では、全てがチェスじみた盤面として見えている。
 暗黒の上に綺羅星のごとく配置された駒。それは警察、生徒、襲撃者たち。そして不穏で不吉な煌めき。
 女は理解している。衛星軌道上に集結しつつある天使たちだ。政府は反逆には容赦しない。二刻の後、天使たちは総攻撃を開始する。生徒の犠牲など厭わずに。それは、確定事項だ。
「天使とは支配だ……だが」
 盤面をどう動かすつもりだ? 伊座利。

【続く】

没にした理由など

800字でドライブさせるにはちょっと不向きなネタだったな……という結論。最後にグッとくる引きが作れなかった……。ただ世界観や伊座利のキャラクターは気にいっているので、いつか別の形で復活するかも。ただ「天使」は素材として凡庸すぎるので、本気で書く場合はそこから見直すと思う!

ということで

今年の逆噴射小説大賞も開催間近!
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