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軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』 第五話 「死して屍拾う者なし」

登場人物たち

デミル
この物語の主人公。アルドリア連邦の切り札である超人集団〈屍衆〉のひとり。盲目でありながら超感覚・超計算能力を持つ。アルドリア起死回生の作戦〈楽園の地獄〉、その要となる存在。

マキシム・デュカン
エクサゴナル共和国の〈指導者〉。若きカリスマ。彼の〈指導者〉という地位に法的根拠はない。マキシムは法に縛られない存在なのである。マキシムの台頭後、エクサゴナル共和国は国際有志連合を率いてアルドリア連邦に侵攻。その国土を焦土に変えた。〈屍衆〉はその報復のためにエグサゴナルに潜伏している。

ルウルウ
〈屍衆〉最年少の少女。小柄ながら鋼のような肉体と、尋常ではない膂力を誇る。デミルの護衛役。

セレン
〈屍衆〉のひとり。デミルの幼馴染。作戦決行前に何者かによって殺害されたようだが……?

ユヌス
〈屍衆〉の長。眼光鋭い老戦士。

スライマン
〈屍衆〉のひとり。超人的な聴力の持ち主。

バスマ
〈屍衆〉のひとり。深海魚のような巨大な眼を持つ女。

ヌール
〈屍衆〉のひとり。小柄な醜男。常にローブを身にまとっている。

マイイ
〈屍衆〉のひとり。超人的な軟体能力の持ち主。

ワジド
〈屍衆〉のひとり。圧倒的な巨体を誇る。

イーサー
〈屍衆〉のひとり。十代後半の少年。

最強の人類
〈最強の人類〉とはコードネームであり、そのコードネームが指し示す個人は不明。

ギャブリエル
〈軌道旋風〉の異名を持つ、この物語のもうひとりの主人公。

プロフェッサー・ガエタン
天才的頭脳を持つとされる科学者。マキシムやギャブリエル、そして〈屍衆〉の誕生にも関与しているようだが……?

 戦争がすべてを狂わせたのか、それとも、狂っていたから戦争が起きたのか――デミルにはわからない。
 しかし、これだけははっきりとわかっている。
 戦争によって失われたのだ。
 セレン。
 ずっと一緒だった人。
 大切だったきみ
 君はもう、二度と戻ってくることはない。
 ――そう、わかっていた。
 手からこぼれ落ちた水のように、君の笑顔も、君の優しさも、君のぬくもりも、そのすべてが。
 だから。
 デミルは、闇のなかで立ちどまった。
 敵地、エクサゴナルの首都パリス。その地下に張りめぐらされた下水道のなかだった。じめじめとした異臭が漂い、時おり、気味の悪いネズミの鳴き声が聞こえてくる。そんな、闇のなかだった。
 いま、そこにいるのは三人。
 デミル、ルウルウ、そして、スライマン……いずれも〈屍衆〉に属する三人だ。
 地上ではいままさに、仲間たちがマキシムの公邸を襲撃し、激しい戦いが繰りひろげられているはずだ。三人はその戦いを陽動にして〈屍衆〉最後の作戦……〈楽園の地獄〉最終段階を実行する手はずになっていた。
 すべてを終わらせる最終段階の実現――それこそが〈楽園の地獄〉の真の姿であり、完成形であり、三人の目的だった。
 しかし。
「デミル……?」
 ルウルウが怪訝そうに尋ねる。デミルは背を向けたまま、押し黙っている。
 デミルの脳裏には、様々な想いが去来していた。
 セレン……君の死について、俺はここで決着をつけなければならない。
 その盲いた目がゆっくりと、だが、力強く見開かれていく。
 デミルは振りかえる。そして怪訝そうに見つめるルウルウとスライマン、ふたりに告げる……覚悟をこめて。
「我ら〈屍衆〉、もとより死人も同じ……」

 祖国アルドリアに報恩忠国し
 一身をもって
 悪辣なるエクサゴナルに鉄槌を下すのみ

 それは〈屍衆〉に属する者たちが、常に心に刻み、復唱している誓いだった。しかしデミルは「だが、」と続けた。

「俺はいま、〈屍衆〉のデミルではない」
「え……?」
 と、訝しげにルウルウ。
「俺は……」
 デミルは続けた。
「俺は常に、セレンと共にあったデミルとして、いまここにいる」

軌道旋風ギャブリエル
『楽園の地獄』

第五話

「死して屍拾う者なし」


「ようこそ、諸君」
 庭園中央の壇上から、ユヌスたち〈屍衆〉に向けてマキシムは言い放った。その時だった。ワジドの巨大な手がマイイを持ちあげ、砲丸のように投げた……一切の躊躇なく、マキシムへと向かって。
「シィャハハハ!」
 宙を切り裂き飛びながら、マイイの獰猛な哄笑が轟く。同時。ユヌス、バヌスとイーサー、ヌールが駆けだす。ユヌスの目は、憎しみとともに見開かれていた。彼は雷撃のように考える。
 そちらから出てくるとは……手間が省けることだなッ!
 シャーッ!
 蛇のような音を鳴らし、その時すでにマイイはマキシムの眼前にあった。超人集団〈屍衆〉にあって、マイイもまた当然、尋常の人間ではない。その体はさながら流体のように歪み、稲妻のような軌道を描いて、
「死ねッ!」
 マキシムの喉元めがけて手刀を繰りだしていた。仮に手刀がかわされてもかまわない。なぜなら、マイイは蛇のごとき超軟体の持ち主。そのままマキシムに絡みつき、締めあげ、一瞬にしてその全身を砕くことが可能だからだ。
 マイイは勝利を確信した。
 いっぽうマキシムは……微笑んでいた。
 コンマミリ秒の世界のなかで、マキシムは、必要最小限の動きのみで手刀をかわす。続けて迫りくるマイイの超軟体をしゃがんでやりすごし、即座に立ちあがった。かわされて勢いあまり、マイイは壇上にしたたかに叩きつけられていた。
「な……」
 起きあがろうとしたマイイの前には微笑むマキシムがあった。
「きれいなお嬢さん」
 小バカにしたように、マキシムはマイイの両頬を鷲掴みにした。そして、
「さよなら」
 そう言いながらマキシムはマイイに口づけをした。マイイは屈辱に目を見開いた。その視線の先でマキシムの体が離れていく。直後、マイイの体を貫いたのは無数の銃弾だった。
「!」
 そしてその時ユヌスたちは聞いたのだ。大地を揺るがす地鳴りのごとき音を。そして見た。アサルトライフルを手に、公邸へと津波のように押し寄せる群衆の姿を。その顔は一様に瞳孔が開き、無表情だ。まるで機械人形じみている……。マキシムはスポットライトの下で、酔いしれたように演説を始めていた。

「エクサゴナルの市民よ、私たちの家族よ! いまこそ立ちあがる時だ! 今、この危機の時こそが目覚めの時である! 恐れるな。使命を胸に抱け! いかな困難があろうとも、いかに敵が卑劣であろうとも、高らかに言おうではないか……私たちの歩みを止めることなど、お前たちにできはしないのだと!」

 ユヌスは奥歯を噛み、顔を歪めた。
 これは大衆煽動なんて生易しいものではない。
 殺到する銃弾のなかで、ユヌスたちはマキシムの築きあげた楽園の、真の姿を目撃していた。

「お母さま、このお花はなぁに?」
 少女は尋ねた。母は微笑む。
「そのお花はね、花金鳳花ラナンキュラスと言うのよ」
「らなんきゅらす。すごいきれい~」
 少女はお花が大好きだった。
 ぽかぽかとした陽気。美しい花園。しげしげと花を見つめる少女を、母が優しく見守っている。母のいる白いガーデンテーブルには紅茶が置かれ、そこからは温かな湯気が立ち昇っている。
 お紅茶……。
 少女は鼻をひくひくとさせた。
 お花。お紅茶。お母さま。
 すべてからいい香りがして、少女はうきうきと大満足だった。
 だが、
 ……あれ?
 と、少女は首をかしげる。優しい景色が奇妙に歪んで見える。
 視界の端からじわじわと、浸食するように赤いなにかがにじんでくる。
 やがて視界は赤で染まる……血の色の、赤だ。
 少女は良家の子女として、なに不自由のない暮らしを送ってきた。
 穏やかで、あたたかい日々だった。それが当たり前の日常だった。
 だが、そのあたたかい光景が歪み、染まっていく。赤く――。
「あ、ああああ……」
 やがて少女は喘ぎ、血を吐いた。
 そして気がつく。夢を見ていたのだと。
 わたしはいま、死地にいるのだ。あお向けに倒れて……。鮮血に染まった己の手を見つめながら、少女は思いだしていく。手は震えていた。やがて力なく、手はパタリと落ちて視界から消える。まるで、自分の手ではないかのようだった。全身の感覚が希薄で、凍えるように世界は冷たかった。
 もはや少女は理解している。
 自分は大人で、いままさに死にかけている……そのことに気がついている。
 少女、いや、彼女はマイイだった。
 マイイはぱくぱくと口を動かした。
「そんな……いや……だ」
 あの男の高笑いが聞こえてくる……マキシム・デュカン。エクサゴナル共和国の〈指導者〉であり、マイイのあたたかな日々を踏みにじった男。
 マイイは今宵、この男を殺すはずだった。殺せるはずだった。そのためだけに己のすべてを賭けてきたのだ。生還率一桁パーセント台、決死の人体改造をうけたのだ。地獄のようなトレーニングを積んだのだ。もはや人間であることすら捨て去り、この作戦に己のすべてを賭けたのだ。
 それなのに――。
 マイイはいままさに、そのすべてを踏みにじられたのだった。男はマイイのすべてを汚し、嘲笑ったのだ。いともたやすく軽々と、虫を踏み潰すように、ぐしゃりとマイイを踏みにじったのだ。
「くそ……く……そ……」
 すべてが終わろうとしている。
「く……そ……」
 マイイの美しい顔が、絶望と憎しみとで歪んでいく……怒りと泣き、それがないまぜとなった壮絶な表情に。体が熱を失っていく。命の灯が消える。
「お……お……」
 だからマイイは必死に叫ぼうとした。
「おか……さ……」

 おか……
 お母さまッ!

 そして……マイイは絶命した。
 ウォォ……。
「ウォ……ゴオオオオッ!」
 銃弾の嵐のなかを、咆哮が響き渡った。
「おやおや……」
 マキシムは鼻白むように眉をひそめた。野獣のような、すさまじい雄叫びだった。
 マイイ、お前の仇は、取るぞ。
 雄叫びの主、ワジドはその巨躯に覚悟をみなぎらせて獅子吼した。
「俺が道を拓く……続けッ!」
 銃弾の嵐。そのなかをワジドは突き進んでいく。岩のような巨体に容赦なく、致命の銃弾が降りそそぐ。ワジドの体は、みるみるうちに血で染まっていく。その背後。巨体に隠れるように続くのは、深海魚のごとき目をもつ女……バスマ、ローブをまとった小柄な醜男……ヌール、まだ十代半ば、幼さすら感じさせる少年……イーサー。
 そして殿しんがりを務めるのは、鋭い眼光を持つ老人だった。
 ……ユヌス。
「おや……?」
 ワジドたちの進む先、庭園の中央。スポットライトに照らしだされた壇上のうえに、エクサゴナルの〈指導者〉マキシム・デュカンはいる。興味深げにあごに指をあて、マキシムは見つめていた。
 彼の視界からは、ワジドの巨体しか見えないはずだった。だがたしかに、マキシムは見ていたのだ。ワジドたちの背後、巨体に隠れたその先にいる老人の姿を……ユヌスの姿を。
「実に興味深い」
 実際、それは奇妙な光景だった。ユヌスに向けて雨あられと放たれた銃弾は、そのことごとくが防がれていた。あるいは弾かれ、あるいは消え、あるいは地面へと落ちて。まるで、老人の周囲には不可視の防壁でもあるかのようだった。マキシムは微笑んだ。
「バリア? まさかな」
 そして満足げにうなずく。
「これが〈屍衆〉……よい余興だ。私をしっかりと楽しませてくれる」

 やはり戦いとは、こうでなくてはな。

 ウォォ! 先頭を走るワジドは吠えていた。銃弾で血濡れになりながらも、常人離れした……いや、人という概念を超越した頑強さで突き進んでいく。
 ウォォ!
 マキシムまで……あと八十メートル……。
 ウォォ!
 六十メートル……。容赦なく浴びせられる銃弾。
 五十メートル、四十メートル!
「ゴオオオオッ!」
 ワジドは再び巨大な雄叫びをあげた。それと、同時だった。
「今です」
 そう鋭く言い放ったのはイーサーだった。彼の幼さを感じさせる相貌からは甘さが消え、その眼は氷のような冷たい光を放っていた。
「ひひ……承知ッ!」
 小柄なヌールがワジドの背を駆けあがる。
「とくとご覧あれ!」
 それはコンマ数秒。
 刹那の間、銃弾が途切れたその瞬間だった。
 ヌールは旋廻する……空中でローブがひるがえり、裾から煌めく粉塵がまき散らされていく。そして……ヌールは落下を開始する直前、下卑た笑いを浮かべた。
「燃えろ」
 直後――。
 閃光。
 庭園は、すさまじい爆轟に包まれた。

 煙が晴れていく。
 霞みのなかで、大地に伏していた巨体が揺らめいた。
 ワジドだ。
 血に染まったワジドはさすがに弱ったのか、首を振り、緩慢に立ちあがった。そして彼が覆い、護っていた四人が……ユヌスたち他の〈屍衆〉がそこに現れる。
 庭園の照明は破壊され、明かりはすべて消えている。しかし漂う微かな煙を別の光源が照らしだしていた……燃えあがる死体。それもひとつではない。松明のごとく燃える死人があちらこちらに転がり、美しかった庭園の面影はもはや残ってはいなかった。地獄絵図だ。
「ひ、ひ、やったぞ……やった! 俺はマキシムを、捧げたぞ……!」
 炎の灯に照らされながら、ヌールは子どものようにはしゃぎ跳ねていた。
 ヌール……。
 彼は炎にとり憑かれた男だった。
 彼にとって、炎の揺らぎは神秘そのものだった。時を忘れて見つめつづけてしまうものであり……信仰の対象だった。
 だからまだ幼かったある日、飼っていた猫……愛してやまなかった猫……スィーリーンという名の猫だった……に灯油をかけて火をつけた事件は、彼にとっては必然の出来事だった。燃えあがる猫……狂ったように暴れるスィーリーンを見つめながら、幼きヌールはうっとりとした時間を過ごしたものだった。
 ここに、世界のすべてがある。
 幼な心に、そう思った。
 やがて彼は大人になり、戦争がはじまった。彼の暮らす街も国も、すべてが燃えた。
 彼は歓喜した……やはり炎は偉大なりと。そして思った。敵であるエクサゴナルもまた、炎に捧げられるべきなのだと。
 強い想いが運命を引き寄せていく。彼を理解する真の友人が現れた……プロフェッサー・ガエタン。ガエタンはヌールに特殊な力を授けてくれた。人間には制御不可能と思われてきた粉塵爆発を、自在に操ることのできる専用の脳と神経。
 ヌールはガエタンに感謝し、炎にますますの信仰を捧げた。敵も、何もかも、すべてを供物に。
 そして今宵……ついに偉大なる時が訪れたのだ!
「やった! 俺はやったぞ……! え?」
 はしゃぎ、跳ねまわるヌールの目が見開かれる。その額にはナイフが突き刺さっていた。黄金に輝くナイフだった。
「やれやれ……」
 ユヌスたち〈屍衆〉は雷に撃たれたように声の方へと振りかえる。
 壇上があった場所……そこには折り重なるように燃えあがる死体の山があり、その山をかき分けるように、声の主である男は悠然と現れた。
 同時。
 ドサリ。ヌールが、地面へと落ちた。
「貴様……!」
 ユヌスがうめく。そのうめきが終わらぬうちに、ワジドが、バスマが、イーサーが、殺意をみなぎらせて駆けだしていた。その先には、当然のように「あの男」が立っている。
「この庭園は気にいっていたのだがな……」
 マキシムは傷ひとつない顔に、おだやかな微笑を浮かべていた。
「代償をいただくとしようか……君たちの命だ」
 その両手には黄金のナイフを握っている。まるで、ディナーのナイフとフォークを持つかのように、軽やかに、優美に。
 そして向かいくるワジドの巨体へと向かってゆるやかに歩きだす。
「あと三分もすれば私の家族……エクサゴナル市民たちが、またここにやってくる」
「ゴオオオオッ!」
 ワジドが、その両手をハンマーのように組みあわせて振りあげた。だがマキシムは、その穏やかな歩みを止めはしない。
「君たちにはもう飽きた。市民らを待つまでもない。そう判断する」
 野獣のごとく吠えるワジド。
 微笑むマキシム。
 ふたりが交錯する。
 その刹那、なぜかワジドの脳裏には過去の情景が浮かんでいた。
 忘れることなどできない……懐かしく、切ない、あの日の光景。
 ワジドは夕日にむかって立つ、女の背を想い浮かべていた。
 それは、マイイの後ろ姿だ。
 彼女の肩は小刻みに震えている……マイイは泣いている。
 彼女は常に、周囲に対して攻撃的に振る舞っていた。過剰と言えるほどに。だが……実際には決壊寸前の心を抱えているのだと……そのことをただひとり、ワジドだけが気づいていた。
 切なく、苦しい。
 胸が絞めつけられる。
 その感覚とともに、ワジドは思った。
 なぜ……なぜ俺はこのタイミングで、この光景を思い出している……?
 違和感とともに、己の左胸を見る。
 そこにはぽっかりと、赤黒い穴が開いている。
 顔をあげる。
 マキシムの姿はない。
 背後を振りかえる。
 マキシムはいた。
 氷のような笑みを浮かべて。
 マキシムのナイフには巨大な心臓が……ワジドの心臓が突き刺さり、脈打っていた。
 ビクン、ビクン……。
 雄々しかったワジドの顔が絶望へと歪んでいく。彼は懇願するように手を伸ばし、うめいた。
「か……かえ……」
 その眼前で彼の心臓ハートは宙に舞った。そして飛散する……細切れになって、血飛沫とともに。
 ドゥ。
 ワジドが倒れるのと同時。
「お前ーーッ!」
 イーサーは叫びながら駆けていた。二挺の軍用拳銃を構え、次々と銃弾を放っていく。至近距離での銃擊。それがイーサーの戦闘スタイルだった。
 マキシムはイーサーを一瞥するや、うなずき、
「なるほど……やはりそういうことか」
 いっさいの淀みなく、雷のような鋭角軌道でナイフを動かしていた。キン、キン、キン。金属音とともに、放たれた銃弾すべてが弾かれていく。
 その様を、バスマは深海魚のごとき眼でとらえていた。彼女の視野は魚眼じみた超広角であり、さらには本来、人間では見ることのできない不可視光すら可視化することができる。だから。
「あああ……」
 彼女は畏怖とともにうめいていた。彼女には見えていた。マキシムからほとばしる力が……マキシムの恐るべき力の源が、マキシムの本当の正体が。
「人……じゃない……」
 敵であるにも関わらず、バスマにはマキシムの動き、迸る力……そのすべてが壮絶なまでに荘厳に見えていた。
 それはバスマの想像を、遥かに超越するものだった。
「こんなの、あり得ない……これはもはや、超人ですらない……」
 バスマは震える。マキシムは〈屍衆〉に属する超人たちすら超えている……それも、圧倒的に。まぎれもない超絶の存在、空前絶後の存在、あり得ざる存在だった。
 バスマは思った。あぁ、そうだ。これはそうだ。これは言うなれば――。

 神。

 銃弾を放ちながら、イーサーは焦りとともに呟いていた。
「なぜ、なんで……!」
 そんなはずはない。そんなことはあり得ない。僕の銃弾は必中だ。いや、必中すべきものだ……それなのに、なぜ!
 マキシムは淀みない動きのなかで、あるいはナイフで弾き、あるいは最少の動きでかわし……すべての銃弾を優雅に防いでいた。さながら踊るように。マキシムは笑みとともに、託宣じみてイーサーに告げる。
「コンマ数秒先の未来予測」
 イーサーの目が驚きで見開かれていく。マキシムは続けた。
「それが君の能力だ。そうだろう、少年」
 なぜ……。
 なぜだ!
 衝撃と困惑。
 なぜ、僕の能力がわかった!?
 まるで暗渠に堕ちていくような感覚を覚えながら、イーサーは決死の銃撃を続ける。
 マキシムは銃弾を防ぎながら、一歩、一歩とイーサーに近づいてくる。
「君の能力は、少しだけ私に似ている。脳の強化と拡張……特に演算能力の。だからピンと来た。そして確信した」
 マキシムは笑みを浮かべた。
「君たちテロリストに力を与えたのは奴だ……プロフェッサー・ガエタン」
 それは壮絶な笑みだった。憎しみに歪んだ笑みだった。
「ヒ……」
 イーサーは微かな悲鳴をあげた。もはや、その心は折れかけていた。
「ふん……」
 そんなイーザーを嘲笑うように、マキシムの動きはまさにいかづちだった。人を超越した速度でイーサーの背後にまわり、
「あぁ……!」
 その直後にはうめくイーサーを羽交い締めにしていた。すでにマキシムの表情は、平素の優美さを取り戻している。
「ふふ……」
 そこに……。
 シュン。
 微かな風切り音とともに、なにかが宙をはしった。
 同時。
 イーサーを右手で羽交い締めにしたまま、マキシムは左手をあげている。迷いのない動きだった。人差し指と中指だけで、奔りくるなにかを掴み、受け止める。
「なるほど」
 マキシムが呟き、見つめた先。そこには老人が……ユヌスがいた。ユヌスは鬼気迫る形相を浮かべながら、額に汗浮かべてうめいていた。
「マキシム……マキシム……ッ!」
「ふふふ……」
 そんなユヌスに向かって、マキシムは満足そうに言い放つ。
「ようやく納得できたよ、ご老人。あなたの得物は不可視の刀だ。先ほどの銃弾の嵐もそれで防いでいた……そういうことだね」
 そして鼻を鳴らし笑った。
「大道芸、ご苦労」
 言うや否や、マキシムはイーサーの右手をつかむ。その手に握りしめられた銃の引き金が「あ!?」うめくイーサーをしり目に引かれていた。
 時間が鈍化する。その感覚のなかで、イーサーは予測する。コンマ数秒後、放たれた銃弾はユヌスの左胸……心臓を狙い過たずに貫くのだと。
「ああああああ……!」
 その予測は的中する。
 ユヌスは倒れていく。
「うるさいよ、少年」
 そしてつかまれた右手、その銃口が今度は己の顎へと向けられた。イーサーは再び予測する。コンマ数秒後に訪れる……
 死。
 イーサーは脳漿をぶちまけて死んだ。
「さて……」
 マキシムは最後に残ったバスマを見た。バスマは震え、膝からくずおれている。
「どうやら君には見えているようだね……私の力が」
 バスマは子どものように、こくこくとうなずいた。
「興味深い……君に私がどう見えているのか、本当は教えてもらいたいぐらいだ」
 マキシムはバスマへと近づいていく。バスマは腰砕けたまま後ずさる。
「私はね、」
 マキシムは誰に聞かせるでもなく、独りごちるように語りはじめた。
「私はガエタンの失敗作だった。それも脳を強化し、遠隔で機械人形を並列操作するなどという、実にくだらん実験のね」
 だが、とマキシムは続ける。
「私は、己の境遇を是としなかった。断じてね。私は自ら道を切り拓くことにしたのだ……。私は考えた。機械人形と我が脳を同期させるなど、吐き気がするほどくだらない。だが、並列で同期するのが機械人形ではなく、人間の脳であればどうなのか、とね。私はガエタンの思惑を超えて、自己進化する道を選んだのだ」
 マキシムは感慨深げに空を見あげる。
「幾千、幾万もの人びと。その脳と同期することができたなら、私は、どんなスーパーコンピューターをも超える演算能力を手にできるだろう。そして苦しみも、悲しみも消える。すべてが同期され、満たされた、真の楽園がうまれる……そう思い到ったとき、失敗作として打ちひしがれていた私のなかに、生きる希望が生まれたのだ。そして幸いなことに、」
 マキシムは笑った。
「エクサゴナルには、国のために己を捨てることなど躊躇しない、羊のような人間が掃いて捨てるほどいた。だから、被検体には事欠かなかった!」
 マキシムはバスマの眼前に立った。
 バスマは見ていた。
 マキシムを中心に渦巻く、巨大な電磁パルスの波濤を。それはマキシムの脳から発せられ、上空を迸り、エクサゴナルの市民たちへ……その脳へとつながっている。
 それは神話的光景だった。
 あり得ざる光景だった。
「理解したか?」
 マキシムは神のごとく告げた。
「私が、エクサゴナルだ」
 ああ……。
 バスマは思った。
 勝てるわけがない――。
 いつしかバスマは、畏怖とともにこうべを垂れていた。マキシムは慈愛に満ちた目で彼女を見つめた。
 黄金のナイフが閃く。ナイフは燃えあがる死体たちの火を反射しながら、煌めきをともなってバスマの首へ……彼女の延髄へと突き立てられた。
 こうして、すべてが終わった。
「ふふふ……」
 マキシムは笑いだす。
「ははははははは!」
 両手をひろげ、天を仰ぎ見た。
「さぁ、ここからだ。破壊の後の再生! ここからエクサゴナルは真にはじまる! もはや大義と名分は完成した。もう誰にも邪魔はさせない。ここからだ。ここからエクサゴナル市民は、真の意味でひとつになるのだ! そしてエクサゴナルは……いや私は、世界へと拡大していく……真の楽園が、誕生するときがきた!」
 その時。
 は、ははは……。
 弱々しい笑いが聞こえた。
 マキシムは怪訝そうに眉をひそめた。
 笑いの主は呟く。
「すまない、デミル……」
 笑いの主……それは横たわるユヌスだった。ユヌスは血を吐きながら、なおも続けていた。
「すまない……本当に……デミル……」

 すまない。

「俺は常に、セレンと共にあったデミルとして、いまここにいる」

「え……どういうこと?」
 ルウルウはきょとんと首をかしげた。
「作戦行動中に、いったいなんの真似だ……お前正気か?」
 スライマンは唖然と、しかし不快そうに吐き捨てた。
 デミルはその盲いた目を見開いたまま続けた。
「俺は、ずっと疑問に思っていた」
 デミルはなにかの予備動作のように、手に持つ白杖を地面にカツ、カツ、と打ち鳴らしている。
「俺たち〈屍衆〉の指揮命令系統は、謎めいていた」
「隠密だからな……当然だろう」
 とスライマン。
 ルウルウが声をあげる。
「ごめん、話の流れがぜんっぜん見えないよ!」
 デミルはうなずき、言葉を返した。
「ルウルウ……俺たち〈屍衆〉のおさは誰だ」
「え……」
 困惑とともにルウルウは答える。
「そんなの、ユヌスに決まってるじゃん!」
「そうだ」
 デミルは首肯した。
「長はユヌス。誰もがそう思っていた。俺もふくめて……だが」
 そう言いながら、デミルは白杖をスライマンに向けた。
「そうではなかった……そうだろう、スライマン」
 沈黙が流れた。
「俺たちは電子機器に頼らず、あらゆる情報をお前の超聴力を経由して伝達しあっていた。だから必然的に、お前にはあらゆる情報が集積されていった」
「それが……」
 スライマンはうめくように応える。
「それがどうした……!」
「あっ!」
 突然、大声をあげたのはルウルウだった。
「わかったかも! つまりは」
 スライマンを指差す。
「本当の長は、スライマンなんだね!」
「違う」
 とデミル。ルウルウはしゅん、と肩を落とした。
「……俺は、」
 悲しげに吐きだす。
「仲間に手荒な真似はしたくない。真相を聞きたい、ただそれだけだ、スライマン」
 セレンが死んでから、デミルの胸中にずっと繰りかえし浮かびつづけてきた問いがあった。

 セレン、君は、なぜ……。

 だからデミルは、スライマンに問う。
「お前なら知っているはずだ。スライマン」
 デミルは張り裂けそうな胸の奥から、言葉を絞りだしていく。
「なぜだ……」

 セレン、君はなぜ……。

「なぜセレンは……彼女は、なぜ……」

 セレン、君はなぜ、自殺したんだ。

「すまない……本当に……」
 ユヌスは血を吐き、呟いていた。
 マキシムはユヌスを見くだしながら、呆れたように笑う。
「しぶといご老人だ。今際いまわきわに、なにか言いたいことでもあるのかね?」
 は、ははは……。
 ユヌスは再び弱々しく笑った。
「もう終わりだ……終わりだよ……〈指導者〉殿」
 マキシムは満足げに大きくうなずく。
「そうとも、君たちは終わった」
 ユヌスは苦しげに首を振った。
「は、はは……」
 ゲボ、と血を吐きながら、悲しげな笑みとともにユヌスは続けた。
「違う……は、は、そういうことではない……私の心臓が……」
「ん? 心臓が、なにかね」
「ゲホッ……私の心臓が止まる……それこそが……トリガーなのだ……」
「トリガー……?」
 マキシムは首をかしげた。死を間際にして、この老人は錯乱したのか。いや、そうではないはずだ。マキシムの胸はざわめいた。
 なにか不穏だ……なんだこの胸騒ぎは。
「は、は……コードネーム……〈最強の人類〉」
「……!」
 〈最強の人類〉。
 その言葉はマキシムの胸をさらにかき乱した。不吉な言葉だった。
 このテロリストどもの背後には、あのガエタンがいる。そしてコードネーム〈最強の人類〉だと? あの・・ガエタンが創造した〈最強の人類〉だと? マキシムは肌が粟立つのを自覚した。いったい、なにが起ころうとしている……。
 ユヌスはもはやマキシムなど見ていなかった。
 虚空を見つめ、虚無とともに吐きだす。
「は、は、〈最強の人類〉が目覚める……ぞ……我らの真のおさが目覚める……もはや誰にも止められない……〈最強の人類〉は……解き放たれる……のだ……」

 それはパリス郊外。
 うらぶれた地区の片隅にある、食肉貯蔵庫だった。
 氷点下の冷気漂う貯蔵庫のなかに、彼女は安置されている――。
 デミルが持ち帰ったセレン。
 その亡骸。
 パリス中枢では、いままさにユヌスの心臓が止まろうとしていた。ユヌスは絶望的な後悔と悲しみを伴って、最期の言葉を吐きだしていく。

 すまない……
 すまない……
 ああ……

「すまない、セレン」

 そしてユヌスの心臓は止まった。
 それがトリガーだった。
 冷気のなかで、セレンの目がゆっくりと開いていく。
 ついに時がきたのだ。世界を終わらせる力を持った〈最強の人類〉、ガエタンが造りだした恐るべき人の形をした兵器。
 その、目覚めの時が。

 〈最強の人類〉――その名はセレン。

 彼女は、微睡みのなかから目を覚ました。

【終】

【次回予告】
ついに目覚めた〈最強の人類〉。すべてが終わりへと近づいていくなか、マキシムは、デミルは、そして、ギャブリエルは……。

軌道旋風ギャブリエル『楽園の地獄』
第六話「最強の人類」

ギャブリエルは、終わりゆくエクサゴナルを静かに見つめる。


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収録作品など!

▶︎naggyfish
【最期通告/最終追憶】 前編・最期通告

神域――そこは、地下空間なのに金色の稲穂が揺らめき、見上げれば蒼天が広がり、気を抜けば心を呑まれる異常空間。その神域を汚し、只の土地に堕とす『神域専門の地上げ屋』・トキオは、先輩のオッサンと共に仕事を進めていた。粛々と神域を汚すトキオは、突然、背後から声を掛けられる。オッサンの声か、と思い振り返ると、いつの間にか平屋の縁側に座っている自分に気付く――神域に呑まれたのだ。必死に戻ろうとするトキオに、数々の情景が奔流の如く襲い掛かる。

▶︎ばぷる
大須赤門通だいありー

ただ僕はおやつを買いに来ただけなのに――駄菓子屋・スーパーポテトで、明らかに不審者な女性に声を掛けられる。高身長だが、臭く、髪の毛ボサボサで、ゲームコントローラーを手にしている。どう考えてもヤバい妖怪じみた彼女と、僕は成り行きでゲームに興じることとなる――大須赤門通での、とある日常の実録(!)小説!

▶︎むつぎはじめ
ヤクザの鉄砲玉は悪魔を撃ち抜けるか?

真沢コータ。普段古本屋で働く彼は、依頼されれば対象を殺す、いわゆる殺し屋であった。そんな彼の元にヤクザから持ち込まれたのは、報酬5千万、前金で1千万の殺しの仕事。暗殺対象は――悪魔・アンドロマリウス! 天使・サリエル9275(愛称・サリちゃん)を相棒に、悪魔を殺すべくコータは行く。果たして、ヤクザの鉄砲玉は悪魔を撃ち抜けるか?

▶︎しゅげんじゃ
宇宙最強のサンタ

年に1度――全宇宙の猛者の中から真のサンタを決める、サンタ・ファイティング・チャンピオンシップ! 2024回目の決勝戦に駒を進めたのは、地球星出身・宇宙最強のヤンキー、大門寺三太! そしてリゲル星出身・破壊の女帝、サンタコ・クロスコ! 過去の大会で死合った因縁の2人が、再び激突する! 激情と力をぶつけ合う戦いの果て、真のサンタの称号を手にするのは――!?

▶︎ディッグ・A
オゴロムラ-奥御領村-

知り合いの子供が村に入った――過去に何人も入り、そして誰1人帰って来なかった村、オゴロムラに。そこは、巨大な怪物を崇拝する奇妙な村。知り合いの子供の安否を確かめるべく、須々木巡査はこの村へと足を踏み入れるが、怪物が須々木を『村の一族』と認めたことで村人から歓待を受けることに。この村は一体何なのか――それを須々木は、大地を震わす雄叫びを機に知ることとなる。

▶︎透々実生
死なずの魔女の恋愛譚(ファンタズム)「四、トゥ・ノーマル。」

誰が何を論じようとも、これは愛の物語だ。壊理(アンチロジカル)と外論(ファンタズム)により壊れた世界。そこで、不死身の少女・氷空町慕と、想い人を手にする為なら殺害も厭わぬ少年・昏殻拒――死なない少女と殺したい少年は出会ってしまった。遊園地での死闘の後、遂に明かされる、死なない少女・慕の真意。彼女の異常な外論の正体は何か。彼女は何故、殺したい少年に恋をするのか。そして、2人の狂った恋の行方は――。異常恋愛異能バトル、いよいよ大詰めの第4話!

▶︎桃之字
ドレッド・レッド・バレット -聖夜の運び屋たち-

名の通った傭兵・ドレッドは、仲介人のオヤジから護衛任務を受ける。詳細不明、但し報酬は弾むという怪しげな仕事を受けるべく、指定された場所に向かうと、そこにいたのはサンタクロース――つまり任務とは、サンタ護衛のことであった! 聖夜の空を駆けプレゼントを配るサンタの護衛として、サンタを狙う刺客を次々屠るドレッド。そんな物騒なプレゼント行脚の中、更にもう1人の小さな仲間も加わり――! 聖夜の空で繰り広げられる、クリスマス・ファンタジーパルプ!

▶︎タイラダでん
死の街の双子たち

饐えた臭いの雨が、今日も降り注ぐ――雨によって死者が甦り、生者を殆ど喰らい尽くしてしまった街。生き残りの双子・マルコとニコロは、この街を襲う理不尽の元凶に一発カマしてから死のうと、必死に足掻いていた。そんな彼らの元に、死体で組み上げられた巨人が襲い掛かる。巨人を殺すべく2人は相対するが、この時彼らは、自らに迫り来る残酷な運命を知る由もなかった――。

▶︎azitarou
おかみ様の遣わすもの

宇宙飛行士の様な見た目の、白装束を纏う謎の生命体。「神隠し」を引き起こすその存在もいつしか日常に溶け込み、ある者はソレを殺して喰らい、ある者はソレを保護せんと躍起になっていた。ある日「私」は、同級生のマッキーが白装束を保護しているのを知る。曰く、その白装束は記憶喪失らしい。本当は「保護会」に連絡しなくてはならないことを知りながら、マッキーに押され、「私」は渋々隠匿に加担することに――3人の、奇妙な交流が幕を開ける!

▶︎遊行剣禅
冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四話

【冥竜】と呼ばれる黒き竜シャール。彼は様々な謎を解き明かす冥竜探偵。助手のワトリア女史と共に、アルトワイス王国が誇る【生きた迷宮】、グラス・レオート公の奇妙な死の謎……名づけて『生体迷宮停滞事件』に挑む。迷宮の死の謎、そして死んだ筈の迷宮が動く謎の2つを明かし、遂に彼らは犯人と邂逅する。何故、犯人は迷宮を殺したのか? ファンタジー&ミステリー・パルプ、第2章、第4話!

▶︎城戸圭一郎
86号線の報酬

男は、サンタクロースに会わせてくれとコイン10枚を渡す――彼の不思議な力で、妹を生き返らせて貰うため。しかし、サンタクロースは条件を提示した。それは『次の夜明けの瞬間、妹の墓の前に立っていること』。エンジンをふかしアクセルを開け、男は86号線をひた走る。だが道中、男は様々なトラブルに巻き込まれ、刻々とタイムリミットが迫りゆく。果たして男は夜明けまでに妹の墓前に辿り着けるか?

▶︎朝昼兼
【顔の話】/ティールブルージャケット無印

身体の換装ができる様になった未来。人形から人間まで、顔面専門の人工体造形家である湯沢は、作りかけの少女の顔面が喋る夢をみる。目を覚ますと、全身どころか眼球まで黒ずくめの何者かに、顔面制作に必要な特注の眼球を箱ごと盗まれてしまう。箱を奪還すべく、薬師ルリコが立ち向かう――顔だけ黒ずくめの出立ちで。サイバーパンクアクション、ティールブルージャケットシリーズの最新話!

▶︎居石信吾
演算する演劇人形の物語

とある業務日誌がここにある。それは、世界同士をネットワークで繋いで記憶を共有する、不思議な存在の手による記録だった。最新記録を確認すると、ネットワークが寸断され、世界の終わりが近い日、昼食にスパナを食す奇妙な日誌が書かれていた。この世界は何か、何故世界は終わるのか、そして謎の書き手の運命は――奇妙な業務日誌が綴る、スペース・サイバーパンクパルプ!

どれもむちゃくちゃおもしろい!

ちなみに今回は『楽園の地獄』の連載はお休みして、以前書いた短編『宇宙最強のサンタ』の改訂版を掲載させてもらいました。自分で言うのもなんですが、勢いがあり、読みかえしてみて「あれ、おもしれーじゃん」となりました。興味ある方は、是非!

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