死闘ジュクゴニア_01

第43話「剣山刀樹のミツルギ」 #死闘ジュクゴニア

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前回
「ひっひっ、ひぃっ……」

 ナゲキは極度の緊張と恐怖から狂ったようにひきつけを起こし始めていた。それを見つめ、ミツルギは冷たく言い放った。

「なにをしている……行け。お前も早く死んで来い」

 青い炎が地平に渦巻く。噴き上げる幾筋もの火災旋風が極彩色の空を焦がしている。調布郊外の荒野。そこはいまや地獄──いや、すべてを焼き尽くす煉獄、炎吹き荒ぶ超常の戦場と化していた!

 その中心。恐るべき炎を生み出す源はたった一人の女──劫火のカガリ! そして! 「グルグルグル!」ごうごうと渦巻く火災旋風を突き破るようにして、カガリに巨躯の男が迫っている。銅頭鉄額のアイアーン! ジュクゴニア帝国親衛隊、それを率いる将軍である!

「ちっ!」カガリは舌打ちし、後ろへと跳び退く。「グルグル……」アイアーンは吠えた! 「ぬるい! この炎、ぬるすぎるわ!」「こんのぉ、おデブめ!」カガリは跳び退いた先の地面を蹴り、反動をつけて再び跳びあがった。「どぉりゃあっ!」それは炎を吹き上げ放たれた、カウンターの飛び膝蹴りである!

 ゴォーン! 飛び膝蹴りはアイアーンの顎を直撃した。アイアーンはたたらを踏み、顔を仰け反らせて後退する。しかし──。

「痛ってぇえ! なんじゃこりゃあ!」

 膝を抱えて地面をのたうち回ったのは、カガリの方であった。攻撃を加えた彼女自身がダメージを負ったのだ!

「グルグルグル……」アイアーンは笑った。「俺の銅頭鉄額は無敵! 完全無欠の強度なのだ。貴様の攻撃など……」その巨大な拳を振り上げる! 「蚊に刺されたに等しい!」

 ズゥウン! 粉砕! カガリの転がっていた大地が砕け、その破片が飛び散った。しかし。カガリはすでにそこにはいない。「ふん、ちょこまかと。すばしっこい小娘よ!」カガリは炎を吹き上げ跳躍、迫り来るアイアーンの頭上を越えてその背後へと着地していたのだ。

「グルグルグル! だがなぁ!」 ガィン! ガィン! アイアーンは己の頭上でその巨大な両の拳を打ち鳴らした。「小娘! 貴様はもはや劫火などではない……消えゆく風前の灯火。それが貴様だ!」

「あっははは……」カガリは腰に手を当て、余裕綽々の態度で笑いだした。「固い、固い。お前さぁ、確かにすげぃ固いよ。なぁおデブ。でもさぁ」「……むぅ?」訝しむアイアーンに対してカガリは凶悪な笑みを浮かべた。「お前の倒し方。もうわかっちゃったもんね」そしてピースサイン。

「グルグル! ほざけっ!」

 アイアーンは拳を振り上げ、そして凄まじい速度で振り下ろした。巨大な拳がカガリへと迫る。カガリはそれを避けるようにして跳躍した。そしてボゥン! ボンッ! まるで軌道制御するかのように炎を吹き上げ、宙を駆ける!

 カガリは旋回しつつその両の手を掲げた。カガリの掌の上に無数の小さな光球が生じていく。そして──「どりゃー!!」その手をアイアーンに向けて振り抜いた。軌跡を描き光球が迸る!

「ぬぅ?」無数の光球がアイアーンの体を取り巻いていく。青い光の軌跡を残し、まるで螺旋を描くように! そして、パチン。カガリは指を鳴らした。「着火」

「ぬぅぅううううう!?」光球が炸裂し、アイアーンの全身を猛烈な劫火が包んだ。「あはは!」カガリは笑った。そして空中でくるりと回転した。「うっ、りゃあぁ!」叫びとともにその体から炎が吹き上がる! その炎を推進力として放たれたのは強烈なドロップキックであった!

 ガァーーーン!!

 凄まじい金属音。ドロップキックはアイアーンの胸部を直撃し、その体を弾き飛ばした。「ドヤァ!」そのまま地面を滑るようにしてカガリは着地!

「グルッ……ググッ……」大地に伏したアイアーンは呻き、震えるようにしてゆっくりと立ち上がった。そして「グルッ……グルグルグル!」声をあげて笑いだした。「バカめ! 効かん、効かんなぁ! こんな攻撃など! グルグル……俺の倒し方がわかっただと? バカな小娘!」

「へへ」カガリも笑った。そして人差し指をアイアーンへと向けた。そして鉄砲のように構え、甘ったるい声をあげた。「ばーん」

 カガリの人差し指。そこから射出されたのは青い炎の弾丸。それはアイアーンの胸部に──すでにドロップキックが直撃したのと同じ箇所に──着弾した!

「!?」アイアーンの顔が歪む。それは痛みであった。アイアーンにとって、それは感じるはずのない感覚であった。アイアーンは己の胸を見た。そして叫んだ。「バカな!?」アイアーンの胸がビキビキと音をたて、そこに亀裂が拡がっていく!

「あはは!」カガリはびしりとアイアーンを指差した。「やい、固いおデブ。お前はアタシの熱を舐めすぎたなっ!」「ぬぅ……熱だと?」「あはは、そうさ。お前がどんなに固かろうが! 熱で変形しないモノなんてないんだぜ!」ふふんっ、とカガリは鼻息荒くドヤ顔を決めた。

「グルグルグル! 面白い。面白いではないか小娘!」アイアーンは吠えた。雄叫びをあげた。

 ガォオオオオオーーン!!

「グルグル……よかろう! よいだろう、小娘。今こそこのアイアーンの本気! 見せてやろうではないか……んん?」

 アイアーンは眉をしかめて地平を見た。カガリもまた同時に地平の彼方を見た。その直後であった──

 ドォーン! ドォーン! ドォーン!

 渦巻く炎の向こうから激しい轟音が響き渡った。その音とともに炎の向こう側で噴煙のような何かが噴き上がっているのが見える。

「なんだなんだなんだぁ?」カガリは素っ頓狂な声をあげた。「グルグル……」アイアーンは憎々しげに地平を睨んだ。「ミツルギ……!

 わー、わー、わー……

「んー?」カガリは耳を澄ました。地平の向こうから聞こえてきたのは歓声のような奇妙な音。爆発音とともにそれは徐々に大きくなっていた。そして明らかに徐々にこちらへと近づいてきている。

「おおお。なんだあれわ?」カガリはその目をまんまるに広げた。ドォーン! 爆発のような轟音。それとともに大地を割って出現したのは、山のように巨大な剣であった! 続けてドォーン! ドォーン! ドォーン! 巨大な剣が連鎖するように屹立し、炎を貫き地平を埋め尽くしていく。そして剣の群れは波打つ怒濤のように、こちらに向かって迫ってきていた! 「おおお!?」

 そして──。

 わー、わー……うわぁああああ!!

 歓声と思われたもの、その正体は兵士たちの絶叫であった。

 ううううわぁぁああああああ!!!!

 それは絶望の叫びだ。巨剣の波に追われ、炎に焼かれながらも進軍を続けるジュクゴ使いたちの軍勢──それが絶望の叫びをあげているのだ! 彼らはカガリに向かって殺到しようとしていた。剣に追いたてられ、狂ったように叫び、走る! 彼らを突き動かすもの、それは恐怖。それも圧倒的なまでの恐怖であった!

 ううううわぁぁああああああ!!!!

 その遥か後方、ジュクゴニア帝国地上軍本陣。そこに巨大な人間ピラミッドが不気味にそびえていた。その頂に立つ一人の女。ジュクゴニア帝国地上軍司令官、剣山刀樹のミツルギ

 彼女は冷たくも決断的な眼差しで戦場を俯瞰していた。そして手を伸ばし、翻し、檄を飛ばす。

「圧倒せよ! 潰せ! 押し潰せ! 磨り潰すのだ!」

 そして己の両の手を重ね合わせて、何かを捻り潰すようにして言った。

「容赦なく縊れ! 全てを……縊り潰すのだ!」

【第四十四話「ゲンコとゴンタ」に続く!】

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