死闘ジュクゴニア_01

第44話「ゲンコとゴンタ」 #死闘ジュクゴニア

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前回
ジュクゴニア帝国地上軍本陣。そこに巨大な人間ピラミッドが不気味にそびえていた。その頂に立つ一人の女。ジュクゴニア帝国地上軍司令官、剣山刀樹のミツルギ!

 彼女は冷たくも決断的な眼差しで戦場を俯瞰していた。そして手を伸ばし、翻し、檄を飛ばす。

「圧倒せよ! 潰せ! 押し潰せ! 磨り潰すのだ!」

 そして己の両の手を重ね合わせて、何かを捻り潰すようにして言った

「容赦なく縊れ! 全てを……縊り潰すのだ!」

  カガリは歴戦の闘士である。しかしそのカガリですら、いかなる戦場においてもこのような光景を目撃したことはなかった。

 巨大な剣の波。それに追われ、そして炎に巻かれ、燃え尽きた戦友すらも踏み越え、大地を揺らし地響きをたて、カガリに殺到しようとしている凄まじい数のジュクゴ使いたち。その絶望の叫び、そして暗い穴のごとき眼差しは全てカガリへと向けられていた。

「あー」

 その光景を眺めながらカガリはポカンとした表情で、間の抜けた声を発した。しかし直後、その顔はみるみるうちに怒りの形相へと変わっていく。地平を取り囲み、圧し潰すように距離を詰めてくる軍勢。「これじゃあ」歯をぎりりと噛みしめる。「これじゃあ巻き込まれる……ゲンコちゃんとぷにぷに、助からねーじゃんかよっ!」

 カガリの周囲の空気がゆらりと揺らいだ。そしてその全身から凄まじい炎が噴き上げ、チリチリと大気を焦がしていく。「ふっざけんな。っざっけんっなっ!」

 カガリは跳躍し回転した。「くっそがぁっ!」その両手から地平を薙ぎ払うように放たれる炎! 閃光が走り、地平を滑るようにして劫火の炎が疾走した。直後、ブオオオオォオオオン! 凄まじい爆音。それとともに、爆発的な炎が大地を覆っていく!

「グルグルグル! 荒ぶっておるなぁ、小娘ぇ!」自身も炎に巻かれながらもそれを突き破り、アイアーンがカガリへと迫る! 「グルグル……あれはミツルギの仕業よ! 剣山刀樹のミツルギ。正真正銘のクソ女。史上最低のクソの仕業だ!」アイアーンはその両手を組み、高く掲げた。強大な筋肉によってその両腕は怒張している!

「だがなぁ! どのような状況になろうとも! 俺のやることに変わりはない、小娘っ!」ズガァアン! ハンマーのように振り下ろされたアイアーンの拳が、大地を粉々に打ち砕く!

「固いおデブ! お前! し、つ、こ、い!」カガリは苛立ちながらもそれを跳躍回避、大地に三点着地を決めた。すっくと立ち上がったその両手にはごうごうと劫火が燃え盛っている。

「決めた! さっさとすべてを焼き尽くす! それで終わりにする!」
「グルグル……できるのか、この状況で? 小娘!」
「やれんに決まってんだろ……やれるに……って、あイテっ!?」

 こつん、とカガリの額に石礫が当たった。「グルグル……ぬぅ?」カガリとアイアーンは同時に同じ方角を見た。その見据える先、上空からバラバラと大小の石礫が降り注ぐ!

「くっそ、なんだっての!」飛び来る石礫を炎で薙ぎ払う。しかしその間隙を縫うように無数の鉄縄が飛来。カガリの両腕両足を縛りあげた! 「ぬぬぬ!」しかしそれで終わりではない! 「うぁああ!」槍を構えたジュクゴ使い、そして棍棒を振り上げたジュクゴ使いが絶望の叫びとともにカガリへと迫っていた!

 カガリは周囲を見た。「グルルゥ! 邪魔だぁ貴様ら!」アイアーンもまた大勢のジュクゴ使いにまとわりつかれ、その拳を振り回している。続々と殺到しつつあるジュクゴ使いたち。凄まじい数のジュクゴ使いたちが、今まさにカガリのもとに辿り着こうとしていたのだ!

「ざっけんなっ!」カガリは鉄縄を即座に焼き切ると槍をかわし、そして槍のジュクゴ使いの頭を鷲掴んだ。ボウン! まるで蝋燭のように燃えあがる! さらに迫り来る棍棒のジュクゴ使いを「おらぁっ!」燃える拳で殴りつけた!

「「「うぅうわぁあああ!!」」」

 しかしジュクゴ使いたちは止まらない! 絶叫とともに新たなジュクゴ使いたちがカガリへと殺到する。カガリは獣のように吠えた!

「燃やす……燃やしてやる! 全員、燃やすっ!」

 カガリの拳に刻まれた劫火の二字がぎらりと輝いた。その全身から青い炎が噴き上がり、天を衝いた。カガリは腹の底から気合いを発した!

「ぬぅぉおりゃああああぁっ!!!!」

 カガリの体を中心にして青い炎が回転し渦を巻く。それは青い炎の竜巻であった! ごうごうと天に向かって炎が吹き荒れ、「「ぎぃやぁあ!!」」殺到するジュクゴ使いたちを次々と燃やし、焼き、上空へと巻き上げていく!

「グルグル! 凄まじい! とても二字ジュクゴとは思えん力だ!」アイアーンは渦巻く炎の中で踏みとどまり、愉快そうに笑った。「だが!」その表情は一転、不愉快そうに歪む。「だがつまらん! このままではあのクソの思うつぼよ!」

 竜巻はさらに巨大化し、戦場を覆う青い炎の大旋風と化しつつあった。しかしそれすらも乗り越え、なおも殺到するジュクゴ使いたちがいた。氷をまとったジュクゴ使いたち、そして炎を操るジュクゴ使いたちである!

「くっそがぁ!」カガリは迫りくるジュクゴ使いを殴る!
「どらぁっ!」蹴る!
「うりゃあっ!」頭突き!
「えぇい!」ぶん投げる!

 しかしなおもジュクゴ使いたちは殺到する! 殴る! 殺到! 蹴る! 殺到! 頭突き! 殺到! ぶん投げる! 殺到! 殴る! 殺到! 蹴る! 殺到! 頭突き! 殺到! ぶん投げる! 殺到! 殴る! 殺到! 蹴る! 殺到! 頭突き! 殺到! ぶん投げる! 殺到! 殴る! 殺到! 蹴る! 殺到! 頭突き! 殺到! ぶん投げる! 殺到! 殴る! 殺到! 蹴る! 殺到! 頭突き! 殺到! ぶん投げる! 殺到! 殺到! 殺到! 殺到! 殺到! 殺到! 殺到! 殺到!

 ──やがて。

「こ、こいつ弱っているぞ!」

 僅かに残ったジュクゴ使いの一人、氷河のグレイシャはうわずった声をあげながら指を差した。その指し示す先、渦巻く炎が徐々に小さくなり──そして、ついには消えた。

「はぁっ、はぁっ、くっそ……くそっ……!」

 カガリは牽制するように周囲のジュクゴ使いに向けて炎を放った。ボフッ。しかしその炎は弱々しく消えた。カガリの消耗は明らかだ。ぜぇぜぇと肩で息をし、その両腕はだらりと下がっている。その様を見てグレイシャが歓声をあげた。

「ははっ……こいつ、もう限界だ! やった、やったぞ……俺たちの勝ちだ……ぎりぎり間に合った! これで助かったぞげふっ!

 グレイシャはぐしゃりと潰れた。巨大な拳によって。

「グルグルグル……邪魔だぁっ!」

 アイアーンはまるでゴミを払うかのように、その巨大な拳で僅かに残っていたジュクゴ使いたちを振り払った。そしてバキバキと指を鳴らすと唸るようにして吠えた。

「グルグルグル! 実に不愉快だ! ミツルギのクソ作戦に乗るようで胸糞が悪い! このような展開は興冷めだが……それでも俺は容赦はせんっ!」

 迫りくるアイアーン! カガリは立ち向かおうとした。しかし、その腕はもう上がらない。カガリの顔にはじめて焦りの色が浮かんだ。

「くそっ……こんなところで終わるのかっ……そんなの……そんなの嫌だっ、ハガネっ!」

「カガリさん!」

「え?」カガリは驚き、その声の方角を見た。あり得ない。聞こえるはずのない声だ。それはゲンコの声。

「お前ら……?」カガリは想像すらしなかった光景を見た。剣の山を縫うように、軽やかに跳躍をしながらこちらへと向かってくる二つの人影。それはゲンコ、そしてゴンタ!

「カガリさん!」 跳躍しながらゲンコがその両手を広げた。
「カガリネエチャン!」 跳躍しながら、ゴンタがその拳を突き出した。

「わたしの元気をカガリさんに!」

 ゲンコの体から暖かい光が放たれた。その頬には二字のジュクゴが輝いている! それこそは

 元 気 !!

「おいらの根性を、カガリネエチャンに!」

 ゴンタの体から力強い光が放たれた。その額には二字のジュクゴが輝いている! それこそは

 根 性 !!

「お、おおおお……」カガリの体が光に包まれた。心の底から、体の芯から、力が、元気が、根性が溢れてくる! 「グルル……なんだと!?」アイアーンは目を見開いた。カガリの劫火の二字がギラギラと輝き、その体から再び青い炎が噴き上がる!

「お前たち、ジュクゴ使いだったのか」カガリはアイアーンを睨みながら、背後に着地をした二人に声をかけた。そして顔を傾け、二人に向けてニカリと笑った。「マジで助かった。あんがとな」

「良かった……なんとか間に合った……」ゲンコは涙ぐんでいた。
「やっちまえ! カガリネエチャン!」ゴンタは拳を振り上げた。
「おう!」カガリはガツンと拳を突き合わせ、そして叫んだ!

「こっからはずっとこっちのターンってやつだっ!」

【第四十五話「大反撃!そして」に続く!】

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