死闘ジュクゴニア_01

第45話「大反撃!そして」 #死闘ジュクゴニア

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前回
「良かった……なんとか間に合った……」ゲンコは涙ぐんでいた。
「やっちまえ! カガリネエチャン!」ゴンタは拳を振り上げた。
「おう!」カガリはガツンと拳を突き合わせ、そして叫んだ!

「こっからはずっとこっちのターンってやつだっ!」

 カガリは笑い、そして吠える!

「あたしの元気と根性……喰らわせてやるよっ!」

 そしてその拳を天へと突き上げた!

「なん……と!?」アイアーンは呻くように声を漏らす。突き上げられたカガリの拳。ごうごうと音をたて、そこに向かって炎が集まってくる──戦場で燃え盛っていたすべての炎が!

「ははっ!」カガリは凶悪な笑みを浮かべた。幾百幾千もの炎。それらが尾を引きながら舞い、集い、カガリの体を中心にして渦を巻く。やがてそれはカガリに向けて収束していき、

 そして──そこに現れたのはごうと音をたてて燃える青い鎧。そしてそれをまとったカガリであった!

「いくぜぇ!」

 その拳に刻まれた劫火の二字がギラリと輝く。それに応えるようにアイアーンもまた吠えた!

「グルグルグル! 小娘! 面白いではな……」

 ズン!

 凄まじい衝撃。アイアーンは顎を撃ち抜かれていた──炎をまとった拳によって。「なっ!?」驚くアイアーンの眼前、一瞬にして間合いを詰めたカガリがニヤリと笑った。

「やい、固いおデブ。お前はもう……あたしの敵じゃあないんだぞ!」

 炎をまとったカガリの拳が荒れ狂う! ズドドドドドドドドド!! 嵐のごとき炎の連弾がアイアーンへと降り注ぐ! 「グルゥオオ!!」アイアーンの巨体が宙を舞い、激しく回転しながら大地へと激突した!

 ──その遠方!

 そびえ立つ巨大な人間ピラミッド。その頂点から大地を睥睨する一人の女──剣山刀樹のミツルギ。氷のような眼差しで見つめるその先。戦場を覆い尽くすようにして地獄のような剣の山が広がっている。

 ミツルギの胸元で剣山刀樹の四字が不気味に輝いた。彼女は静かにその右手を前へと伸ばし、そして冷たく呟く。

「そろそろ……クライマックスといこうか」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「むむ?」カガリは怪訝そうに周囲を見渡した。揺れる大地。そして不気味な地鳴り。アイアーンは毒づきながら立ち上がった。「ふん、あのクソ女め!」

 その直後!

 ドォン! ドン! ドォン! ドオーン!!

 まるで世界を揺るがすかのような爆音。大地が割れ、その大地を貫き、山のように巨大な剣が次々と出現していく!

「カガリさん!」

 ゲンコは叫んだ。そびえたつ剣の群れが恐るべき怒濤のうねりとなってカガリたちに迫っていた。それはすべてを押し潰し、捻り潰さんばかりの勢いである!

「カガリさん……!」

 ゲンコは再び叫んだ──しかし。カガリはゲンコに顔を向けると、ニカリと歯を見せて微笑んだ。

「へへへ。任せとけって」

 カガリは両の手を天に向け掲げた。「うぉら!」叫びとともにその手の上に渦巻くのは炎! そしてそこに形作られたのは巨大なる火球! 「ぬぅっ」アイアーンは思わず手をかざしその顔を歪める。火球が白熱する。凄まじい光!

「はは! 戦場に……外野なんてないんだぜ!」

 カガリはそう叫ぶや否や大きく体を振り絞り、「どぉおりゃあああ!!」火球を上空に向けて投げ放った!

 ──ひぃっ。

 それは奇妙で耳障りな声だった。ミツルギは眉をひそめ、そして足元を見た。ひぃっ。人間ピラミッドを構成するジュクゴ使いの一人──悲嘆のナゲキがひきつった顔で空を見上げている。そして再び、ひぃっ、と声をあげた。ミツルギもつられるようにして上空を見上げた。

「なっ!?」

 ミツルギは見た。巨大な火球が──まるで太陽のような灼熱が、凄まじいスピードでミツルギに向かって飛来しようとしていた! 「バカなぁっ!?」──そして、ミツルギは閃光に包まれた。

 カッ! ズズズズズズゥン!!

 地平が光に染まる。凄まじい爆煙と轟音が戦場を覆っていく。それはまるでミツルギの末路を暗示するかのようだ。ガラガラと音をたて、剣の山が崩壊していく。

「どやっ!」カガリはガッツポーズを決めた。「グルグルグル……」アイアーンは肩を震わせ笑った。

「見事だ……見事だ小娘っ! だがなぁ!」

 アイアーンの体が赤褐色に染まり、異常なまでにバンプアップしていく! 「安心するのはまだ早い! 見るがいい。これが俺の本気……銅頭鉄額の最高最強硬度だっ!」その首に刻まれた銅頭鉄額の四字が鋭く輝いた。

「グルォオオーーン!!」咆哮、そして跳躍! 全体重を載せた破壊的なショルダータックルがカガリへと迫る! ズガァアン! 大地を爆発破砕!

 砕かれた大地、その土砂が宙を舞った。その舞い散る土砂の中、アイアーンは見た。静かに跳躍し、くるりと身を翻す青い炎の軌跡を。

(美しい)

 静止したかのような時間感覚の中、アイアーンはそう感じていた。しかし続いてアイアーンが見たものは「あははっ!」カガリの獣のような笑みであった! その右手に凄まじい輝きが──圧縮された高熱の炎が燃えている。宙で身をねじるカガリ。その灼熱の手刀がアイアーンの脳天へと振り下ろされる!

 ジュゥッ──まるで熱したナイフをバターに振り下ろしたかのように──カガリの手刀はアイアーンの脳天を切り裂いていた。

 すたりっ。静かに着地するカガリ。たたらを踏み後退するアイアーン。「グ、グルグル……見事……実に見事!」そう吐き出すように呟きながらアイアーンは仰向けに倒れ──そして沈黙した。

「うおお……」ゴンタがうち震えた。
「やったぜ、カガリネエチャンっ!」
「カガリさん、凄い……!」歓声をあげるゲンコ。

「へへ……」カガリは照れ臭そうに鼻をこすり、そして上空に目をやりながら呟く。「あんがとな。お前たちがいなかったらさ……」

「ん。……カガリさん?」

 ゲンコはカガリの異変に気がついた。カガリはまるで凍りついたかのように上空を──そこに浮かぶジンヤを凝視していた。カガリは呟いた。

「お前ら……逃げろ……」
「……え?」

 カガリが振り返る。「あ……」その表情を見てゲンコは思わず声を出した。シリアスな表情。いつも能天気なカガリが今までに見せたことがないほどのシリアスな表情でこちらを見ている。

「お前ら……早く……早く逃げろっ……!」
「でも」

 カガリは叫んだ。

「早く……早く逃げろって言ってんだよぉお!!」

 カガリは腕を振るった。その腕から一条の炎が伸び、まるで腰縄のようにゲンコとゴンタを優しく繋いだ。

「えっ!?」

 その腰縄からジェットのように炎が噴き出す! 「きゃあ!」「うわー!」二人は一気に彼方へと吹き飛んでいく。

「くそっ……くそっ……!」

 カガリは再びジンヤを見た。あり得ない。尋常ではない。カガリは感じていた。ジンヤから放たれる余りにもおぞましいジュクゴ力(ちから)を! それはいまだかつて出会ったことがないほど禍々しく、そして凶悪なジュクゴ力であった!

 ──その遥か上空、ジンヤ第一層直上!

 下界を見下ろす三人の人影。

「ぐふ……ぐふは! ぐふはははっ!」

 凶悪にして下劣なる笑い!

「ぐほ! おー、おー、おー。面白ぇ。小娘が頑張ってくれちゃってるじゃんかよぉ!」

 嗜虐心を溢れさせ、残忍な笑みを浮かべるその女は屍山血河のフォル

「ふむ。さながらジュクゴニア帝国軍の不良在庫一掃セールといったところだの。ま、どうでもよいが」

 酷薄に目を細める男、震天動地のシンキ

「…………」

 腕を組み、目を瞑る男。星旄電戟のバーン

 ──尋常ならざる敵。いまだかつてない恐るべき相手! カガリは心の中で叫んでいた。

(あたしは……あたしはここで踏ん張るんだ。そうすれば……そうすればもう一度お前と……そうだろ、ハガネ!)

【第四十六話「もう一度お前と」に続く!】

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