黄金の華
ふたつのダイスが転がっていく。盤の上、からんからと乾いた音を響かせて。
大太刀を携えた者。全身に呪紋を刻んだ者。六十口径ハンドガンを弄んでいる者。機械の体に油注す者。場末の酒場。異様な風体のならず者たち。
彼らの見つめる先。赤みがかった髪の男、そして黒髪の男。盤を挟んで対峙する二人の男。空気は淀んでいた。今にも炸裂しそうな危うさを孕みながら。ならず者たちのくすんだ眼差しが、どろりと二人の間、ダイス転がる盤上へと注がれている。
「出目は……」
火、そして龍!
どよめき、空気が破れた。ダイスの二字が光を放ち、人智を超えし神秘の託宣が凛と響き渡った。
『火龍真人の相である!』
「あぁ……」
誰かの切ない吐息。淀んでいた空気の中に突き抜けていく奇妙な高揚感。
「俺の勝ちだな」
黒髪の男は静かに告げた。ダイスの光は煙のように立ち昇り、男の手元へと吸い込まれていく。赤髪の男は喘いでいた。
「こんなバカな……こんな」
「こんなはずはない……そうだろ」
黒髪の男はチップを──光が寄り集まって錬成されたそれを淡々と手にした。
「ダイスには細工をしてある。だからこんな出目はあり得ない……そうだろ」
「ふ……っざけるな……これは……こんなものイカサマだっ!」
激昂する赤髪。その瞳孔が拡大と縮小とを繰り返す。まるで、一個の生物のように。
「……そのご自慢の魔導カメラ。それで何かを捉えることはできたのか?」
「てめぇ……っ」
空気は張り詰めた。そして何かが決壊しようとしていた。赤髪は顔を歪めて不気味に笑うと、懐に手を入れた。
その刹那。
酒場中のならず者たちが立ち上がり、そしてがちゃり。一斉に得物を構えた。
「……は?」
なぜだ。なぜこいつらは──
「なぜ俺に得物を向けている。お前たちは買収したはずだ……そうだろ」
黒髪の男──不動クロガネは静かに立ち上がり、店の奥に佇む少女を見た。
「これで決まりだ。〈世界再編の遊戯〉には俺が出場する……そうだろ」
【続く】
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