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東京のスピード

地方都市で生まれ、上京した人の感覚として「東京で暮らすのは他の都市よりも生活が忙しく、せわしない感じがする」というものがある。

東京は多くの企業や人口が集まっていることから、流行や文化の中心となることが多く、その流行り廃りも目まぐるしいことからこう言われているのだと思う。

それに加えて、東京に暮らすことは、狭苦しい思いをすることに等しいというのも、せわしなさを増長させているのではなかろうかと思う。高い家賃を払って、狭い部屋に住むことに強いられ、通勤や通学をすれば見ず知らずの他人にパーソナルスペースを侵害されつくされることになる。

加えて、職場やプライベート、インターネットの交友関係など、自分の居場所を意識することを必要以上に求められるようになり、何らかのコミュニティに所属することの優先度が高まっている気がする。対面でのコミュニケーションとオンラインを組み合わせることの必要が生じている分、人付き合いの難易度は高まっている気がする。

都市部での生活がせわしないという感覚は、日本人だけのものではないらしい。そのことを実体験として感じられる出来事があった。

少し思い出話もしたいと思う。それは社会人1年目、上海にいたときのことだった。上海での生活に慣れてきたある日のこと、急に日本食が食べたくなり、日本のラーメンを出している店に入った。

味千ラーメンは中国に本社を置く熊本ラーメンの店。どう見ても日本のラーメンですよ感を出しているが、実態は中国生まれ中国育ちのラーメンチェーン店である。味千ラーメンは今や東アジアで有名なラーメン店になり、ついに日本にも逆輸入のような形で店舗を多数構えている。海外で食べるとよい感じに日本食の味を忘れているため、大変美味しく感じた。日本で食べても美味しいかは不明である。端末からラーメンを注文し、ラーメンを食べ終えたところでアクシデントが起きた。持っていたVPNの充電が切れてしまったのである。

中国はインターネットが管理・統括されている。そのため、日本のインターネットにアクセスするためには携帯電話とは別にVPNが必要になるのである。VPNがなければ、YouTubeもXも閲覧することはできない。さらに、自分の決済手段としているアプリへのアクセスも、ままならない状態だったのだ。

私は自分の中国語力だけでこの状況をなんとかできるか不安だった。
(いくら上海は都会といえど、一部の若い人かバリバリのビジネスパーソンを除くほとんどの人は英語を話すことはできない。)
しかしながら、こちらから積極的にアクションを起こさなければこの状況は変えられないため、思い切って店員を呼んで、「この店のWi-Fiのパスワードを教えてもらえませんか?」と訊ねた。奇跡的に一発で通じた。
しかし、最悪だったのは、店員からの返答が何を言っていたか分からなかったことだ。
中国の多くのレストランには電子決済をする人向けにWi-Fiが備わっている。そしてそのパスワードは大体パターン化されている。
①お店の電話番号などお店にまつわる番号
②111111のようなやる気のない数字の羅列
大体がこの①②のどちらかであることは分かっていた。
相手の返答が想像できていれば、大体のことは分かるのだが、その店員は「88888888」のパスワードを「ハチハチハチハチ」と呼ばすに「八が八つ」とだけ答えてそそくさと行ってしまった。想定外の短い回答に、何を言っているか意味をつかむことが出来ず、その場で数分悪戦苦闘することになってしまった。

すると、横から20代の男の人が救いの手を出してくれたのだ。しかも英語で。その男性は店員にもう一度パスワードを聞くと、英語に直してくれたのだ。それをきっかけに、連絡先を好感した。その後は何回か食事に行ったり、マッサージ(健全なやつ)に行ったり、観光に行ったりと仲良くなった。気前がいいので会うたびに奢ってくれようとしてしまうので、そこだけがちょっと怖かった。
あるとき、夕食を食べながら彼が「東京で暮らすと疲れないのか」と聞いてきた。当時、札幌から東京に越して、東京生活の期間が7ヵ月くらいだった私はちょうど「東京はずっと住むところではないんだろうな」と思っていた時期だったので、思っていることを正直に答えた。
すると彼も、「実は僕は上海の生まれ育ちではなく、遠く離れた田舎の出身で、大学・社会人と上海で暮らすようになって、生活のスピードが速すぎると感じている。上海にいるとゆっくりするという感覚はなくなってしまうし、今を生きるのに精いっぱいで腰を据えて色々なことを考えることが出来なくなってしまっている」といった思いを言葉にしてくれた。

大いに共感できた。
どこの国でも都市で暮らすことは生活のスピードを速めることになってしまうし、周りのスピードに追われてしまい、ゆっくり考える余裕を奪われてしまうのだなと思った。

今の自分を取り巻く環境から言えば、東京から離れることは考えにくい。
それだけに、東京にいながら東京のスピード感に流されることなく暮らしていくように工夫することが求められているような気がする。
最近になって意図的に「ゆっくりする」という時間を意識して作るようにして、頭の中をリセットするようにしている。
例えば本を1冊と財布だけを持ってカフェに行く、例えば椅子に座ってアイマスクをする、または運動をするなど、強制的にできることを制限することで脳のメモリの使用量を下げているのだ。

投稿はここまでです。
noteを読んでいる人も自分のペースで生活が進められることを願っています。



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