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君がサンタクロースになった日

4年生の長男と2年生の次女が元気に小学校へと登校した。

中学1年生の長女は体調がすぐれないということで、大事をとってお休み。
こんな朝、身支度をしているところに奥さんが駆け寄ってきて耳打ちした。

「今しかないんじゃない?!」

「なにが?」と返す。
「ほら、今年はもう中1なんだし、この間もまだ言ってたし、、」

今年で中学1年生になる長女は、クリスマスが近くなった12月のある日「今年はサンタさんになにもらおうかな〜」とつぶやいた。
僕ら夫婦はそれを聞いて顔を見合わせていたのだった。

我が家にも他の家庭と同様、12月24日の夜中に北欧から空飛ぶトナカイを駆って白い髭を蓄えたおじいさん訪れる。

おじいさんが一人で世界中の子供たちにプレゼントを配って回るのは不可能なので、中学生になった子供は、そのおじいさんを手伝って子供たちにプレゼントを配る側になる。つまりサンタクロースになるんだよ。

僕ら夫婦はそのようなストーリーをずいぶん前から用意していた。
奥さんは、このストーリを今長女に告げるタイミングだ、と言っていたのだった。

その瞬間僕は固まった。
得体の知れない感情にまとわりつかれて、その時がくるのを嫌がるようにノロノロと身支度を続けた。

それでも、本当に今しかないよ、と言う無言のプレッシャーに負けておずおずと長女の部屋に二人で向かう。


「ガチャ」
ドアを開けたらそこに無言の両親が立っている。
「え?なになに?・・・え?怖いんだけどw」
(そりゃ怖いわな、笑)

しばし沈黙が続き、ようやく僕が口火をきる。

長女は突然サンタクロースに任命されて、鳩が豆鉄砲くらった顔は見たことないけど、多分そんな顔をしていた。

そして彼女は少し時間をつかって、今言われたことを頭の中で反芻してようやく得心した顔になった。

「え〜!そうやったんか。そうか、そうやんなぁ。やっぱり、なんかすごい不思議やなと思っててん。なんかスッキリしたわ。」

こうして無事に(?)サンタクロース任命式は完了した。

朝っぱらから重大な仕事を請け負ってしまったストレスもあって、会社に行く気が削がれたが、そうもいかず身支度を進めていたところ、なぜか込み上げてくるものがあった。


まだ空が白む前に窓辺に駆け寄って来て、包装紙をぐちゃぐちゃにやぶいてプレゼントの包みを開け、弾けるような笑顔を見せてくれたこと。

自分が欲しいものと違っていたのか、ふくれっ面になっていたこと。
それでもしばらく経つと気が変わったのか、やっぱりこれが欲しかったと愛着が湧いた様子を見せてくれたこと。

そんなシーンがフラッシュバックしてきた。
そして、これからはこんなシーンを見ることができなくなるのかと思ったら自然と涙が出てきた。
アレ、俺ってこんなことで感情が揺れ動く人間だったっけ?

玄関で靴を履くところだったが、動けなくなてしまった。

すると、奥さんがニコニコ(もとい、ニヤニヤ)した顔ですぐそばにあるキッチンペーパーを差し出して来た。
そこはハンカチやろ(笑)

このまま会社に行くと恥ずかしい目になっているのが一目瞭然なので、自宅のガレージにしばしこもって落ち着いてから向かった。

プレゼントをもらったのは僕

誰かにプレゼントをして、自分が純粋に嬉しくなることって家族以外でありえるのだろうか?

要らないものをあげてしまったのではないか?などと考えてしまうし、ある程度の打算がはたらいてしまうので、おそらく僕には難しい。

しかし世の中にはそうでない人もいるのだろう。
それはとても羨ましいことだと思う。

「プレゼントをあげる行為がなくなって寂しい」と言う感情に今日初めて気付かされたが、それはとても幸せなことだと思った。

自分があげたものだけど、もらった本人はそれに気づかず、白髭のおじいさんにありがとうと言う。
掛け値なしの、本当の感謝がそこにある。
その感謝を間接的に受け取れる嬉しさ。

クリスマスはまだもう少し先だけど、この日に僕は娘から最高のクリスマスプレゼントをもらった。

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