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古民家リノベーション【ホテル用途】|設計者の秘かな愉しみ

建物の全体像を保存しつつ、空間の変容を考えることが愉しい。


設計の一番最初のところ、既存の建物の特徴を棄損せずに、どのように分割して客室にするか、もしくは複数棟が存在する敷地の場合は、どのような導線を作って敷地全体を楽しんでもらうか、といったことを考えるのが非常に愉しい。

時間を忘れて没頭できる作業の一つです。
レッドブルを飲まなくても何時間でも集中できる。

具体的にどんなことなのかを説明する前に、少し古民家のリノベーションを取り巻く状況を整理してみたいと思います。

どのようなレイアウトにすると面白い?この部屋の特色はなに?
などと考えながら作業に没頭する。


古民家が失われる背景


古民家に限らず建物が解体される背景には「建物を継承する人物がいない」「修繕するコストと、修繕後の利用価値がバランスしない」といった理由があることがほとんどです。

つまり、コストをかけて修繕する意義が、所有者にとって失われてしまっている(利益がない)状況であると言えるでしょう。

このような事象は日本全国で起きています。
ニュースでよく耳にする空き家問題ですね。

問題の対象が、昭和に建てられたものの場合、建物の保存の観点で語られることはほとんどありません。(もちろん例外はあります)

しかし、歴史ある(大体大正時代より前の時代)建物が対象になると、話が変わってきます。
古いもの、永く存在するものに対しては、日本のみならずどの国の人にとっても保存するべき対象として考える人が増えるようです。

ですが、保存したい意思はあるものの、経済的理由でそれが叶わないケースが非常に多い。これが古民家保存における一番のハードルではないでしょうか。

例えば、古民家の所有者に、第三者が「この建物は価値があるから壊してはいけないよ」と言ったところで、所有者からすると「修繕しても自分の子供がここに住むわけでもないし、なんのためにお金をかける必要があるのか」と返ってくるわけです。

そうなると、これ以上は踏み込めません。

こういった状況を打破するために、街並み保存や文化財保護の観点で活動する人・組織・行政が立ち上がり、建物を保存しながら利活用する、つまり経済的に成り立つ仕組みをつくって、所有者とWin-Winの関係を構築して建物を保存しようとする運動が生まれています。

近年は日本を観光立国にしようとする国の政策も相まって、実績がどんどん増えています。

このような状況が僕のような空間デザイナーに、古民家のリノベーションの機会を増やしてくれています。

古民家リノベーションにおける設計者の課題


古民家を対象にしたリノベーションの大きな命題は「建物の物理的・精神的な保存」であると思います。

「物理的」とは、現存する歴史ある建物をできる限り大きいな改変を加えずに修繕・保存すること。
「精神的」とは、建物所有者や地域の住民が抱く、建物に対する愛着や存在感を損ねないこと。
このように認識しています。

2つの側面から保存を考えた時の最適な方法は、傷んだ箇所を取り替えて、修繕前後で寸分と変わらない姿にすることです。

しかし、それでだけでは、経済的継続性が失われていしまっている現状と何も変わらない。
何かを改変しなければならないが、どうしたら良いのか?

精神的保存を優先する


前項で述べた命題の「物理的保存」と「精神的保存」
二つを同時に達成することは、空間の改変が必要なリノベーションにおいてはほとんど不可能です。

どちらかを優先しなければならない。
そこで僕が選択するのは「精神的保存」です。

具体的に実例を述べるのは難しいのですが、例えば20畳ある広間の真ん中に間仕切り壁を立てて、空間を二つに分けたとします。

物理的保存は損なわれていますが、広間の天井を構成していた格天井を解体せずに残し、新設した間仕切り壁を納まりの良い位置で天井にくっつけた状態をつくってみる。

こうした場合、10畳になった部屋に入った人は、ちょっとした違和感を抱きます。

一般の人がゲストですから「むむ?どうもこの壁は新設されているな?天井の造作は古いままだし、途中で切れているように見えるから、隣まで続いていた?」みたいな厳密な分析はできませんが、どこか肌感覚で新しいものと古いものがどのように交錯しているかを認識できると思います。

このように、元の建物構造を肌感覚で認識できるような空間構成をしていけば、元々の建物間取りと、新しい空間構成の差異を疑問点にして、色々と好奇心がかき立てられる、面白い空間が作れるのではないでしょうか?

「精神的保存を優先する」と言いましたが、この感覚を建物全体に浸透させていくには、結局のところ「物理的保存」の関しても綿密に考えなければ達成できません。
なので、精神的保存を優先することは、結果できる限りの物理的保存も可能にするという考えです。

リノベーションの手法を宿泊体験のコンテンツにできないか?

宿泊するゲストは、自分が予約した部屋しか体験することができません。
設計者からすると、これはとてももったいない。

古民家をリノベーションした宿に泊まる人は、隙間風があったり、木造であるが故の音の問題を認識しつつも、空間体験に面白さを感じて体験したいと考える人が多いのではないでしょうか?

であれば、改装される前の状態とリノベーション後の状態を比較して「なるほど〜ここは元々玄関ではなかったのか。ん?この空間は元々◯◯だったのかな?」などと想像を巡らせながら、建物全体を見て回るショールームができたら面白いのではないかと思います。

リノベーション前後の図面を配布して、設計者が全部の客室を案内するツアーなどできたらとても面白いなと思うのですが、運営が始まった後の宿でそれをするのは難しいだろうなと感じつつ、機会があれば是非やってみたいです。(需要ありますかね?)

最後に、この提案にそって、ある施設のビフォーアフターの図面をお見せして終わりにします。


ビフォー
アフター

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