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「広く浅く」を「広く深く」にする方法

空間デザイナーという職種は、一般的に設計対象の守備範囲が広い。
商業空間を主に扱う人はことさらです。

「守備範囲が広い」と聞くと、各設計対象への関わりが薄くなり、デザインクオリティが低くなるのではないか?と思われることでしょう。
同時に「広く浅い」というイメージの良くない言葉が頭に浮かぶのではないでしょうか?

時間が無限にあれば、対象全てへの関与をMAXにしてクオリティの高いデザインができるかもしれませんが、実社会には「納期」という皆が見て見ないふりをしたくなる時間制限が存在するため、現実的には難しいでしょう。

それならば、プロの現場ではどのようにして各設計対象への精度を高めた「広く深い」デザインをしているのでしょうか?

それをお伝えしたいと思います。


僕がよく手掛ける古民家をリノベーションしたホテルを例に、どのような設計対象があるのかを挙げてみます。

  • 建築(外装・内装)

  • 照明

  • 設備(空調や給排水など)

  • 厨房

  • 家具(既製品の選定やコーディネート、特注家具のデザイン)

  • アート

  • グラフィック

  • 造園

  • 構造

  • 備品(家電類やアメニティなど)

ウチのような事務所に興味を持ってくれる学生が所属するのは、たいてい建築学科や空間デザイン学科です。
ここで学んだ人たちが実務に触れたとき、この設計対象の多さにおどろきます。

学校の方針にもよりますが、在学中にこのリストの中で学ぶものは、建築学科では「建築」と「構造」
空間デザイン学科では「建築」と「家具」が多く、どちらの場合もその他の対象について触れることは稀だと思います。

限られた時間の中で建築を学ぶのですから、当然そうなるだろうな、と率直に思います。
なにせ、建築と一言で言っても、その中には「建築法規」「その他関連法規(消防法など)」「積算」「建築計画」「都市計画」「環境」「施工」などなど、学ぶことが山積で、これらを十分に学習する時間も足らないからです。

「広く深く」するには「その道のプロに依頼する」


「広く浅く」を「広く深く」にする方法の答えは非常に単純なことでした。

ある程度の期間実務に関わっている人には言われるまでもないことですが、新人さんは知らない世界ですし、「空間デザイナー」がどんな役割なのかはまだまだ一般に知られておらず、クライアントに理解してほしいという願望もありこの話題を取り上げた次第です。

照明計画にしても厨房の設計にしても、それぞれを専門にしているプロが存在しています。
限られた時間の中、浅い知識で照明器具メーカーのカタログをめくって、「この器具が良いのかな、、」などと悩みながら計画をするよりも、その道のプロにおまかせした方が、空間のクオリティは段違いに高くなります。

このように、自分一人では到達できない空間のクオリティを、様々な業種のプロと一緒に上げていくことが「広く深く」する方法です。

学校ではこのことを授業で学生に伝えて、興味の幅、就職の幅を広げてあげたら良いのになと常々思っています。

在学中に「私は飲食店が好きだから、その業種の縁の下の力持ちになるために、厨房設計のプロになる」と考える人は少ないのではないでしょうか。

人に依頼する副次効果と依頼者として求められること

副次効果|知見と人脈が広がる

・知見が広がる
自分が持っていない設計技術を成果物として見る事ができるので、非常に勉強になります。
しかも、ただ成果物を見るだけでなく、解説もしてもらえます。
成果物を受けてクライアントに説明しなければならないので当然ではあるのですが。
本を読むだけでなく、著者にマンツーマンで内容をレクチャーしてもらえる、と想像してもらえたらわかると思いますが、コツコツと独学で勉強するよりも数倍の速さで「分かって」きます。
これは知見を得る効率が非常に良いです。

・人脈が広がる
これは言うまでもないですね。
デザイナーという人種はビジネス交流会などの場が苦手な人が多いですが、仕事を依頼するというのは一種の交流会だと思います。
そこで意気投合すれば友人が増えますし、その人からさらに人を紹介してもらえることもあるでしょう。
紹介してくれるということは、一定の信頼関係を築くことができている証左ですから、もしかしたら仕事の依頼を逆に受けることができるかもしれません。

副次効果|集客

Youtubeが日常になった現世代には「コラボ」と言った方が伝わりやすいかもしれません。
ずっと一人で動画撮影をして投稿を続けるより、時に誰かをお呼びしてコラボという形で動画をUPすれば、コラボ相手のチャンネル登録者が自分のとこにも訪問してくれて視聴回数が多くなる、という仕組みの話です。

つまり、認知度UP、ひいては集客UPにつながるということです。

デザインに関わってくれた人が気持ちよく仕事ができて、完成したお店に愛着を持ってもらえたらどうでしょう。

そうしたらきっとその人はお店を利用してくれるだろうし、友人や知人にお店を紹介してくれるかもしれません。またSNSで情報を拡散してくれるまであるかもしれない。

そう考えると、一人で広く浅くデザインをするよりも、誰かとコラボしてお店をつくり上げた方が、クライアントにとってもプラスに働くことがわかります。

一つ注意点があるとすれば、外部のプロに依頼するということは、それなりにコストがかかるので、いただけるデザイン料とにらめっこして誰に何を依頼するかを検討しなければならない、というところでしょうか。

副次効果が大きい(特に集客の面で)とクライアントが判断すれば、デザイン料が増える可能性もありますので、その辺りはうまく交渉しながら進めたら良いかと思います。

依頼者として求められること

人に依頼すると、知見と人脈が広がり、集客にも役立つのであれば、誰彼構わず有名・有能な人にどんどん声をかけまくればいいいじゃん。
と思われるかもしれません。

しかし、このような考えをもって依頼をしてくる人はたいてい同じような表情をしながら軽薄に近づいてくるので、ほとんどの場合敬遠され、相手にされないでしょう。

自分にコラボの依頼があったと考えてみてください。

依頼者の話を聞いてみると、今回手がけるような空間づくりの実績はなく、やりたいこともあいまいで、何を作りたいか、どんな想いがあってプロジェクトを進めているのかわからない。伝わってこない。
そして、驚くことに自分がやってきた仕事の内容をほとんど知らない。この人は一体私の何を見て依頼してきたのだろう?と疑問を抱く。

このような依頼だとしたら、協力して一緒にプロジェクトを進めようと思うでしょうか?ほとんどの人は協力はしないと思います。

では、協力したくなる依頼者はどんな人でしょうか?
それは悪い例に挙げた依頼者の真逆の人になりますね。

でも、自分には十分な実績がないから、、
と臆病になる必要はないと思います。

実績がないのであれば、プロジェクトへかける想いと、コラボレーターが面白がってくれるような依頼内容を持参して連絡を取ってみることからやってみる。相手にその内容が刺されば、実績は関係なく協力してくれるでしょう。

臆病にならず、むしろ少し背伸びをして、一緒に仕事をしてみたいと憧れる人に積極的に声をかける。うまくいけば、その仕事を通して少しずつ自分のレベルを上げられ、成長につながっていくはずです。

空間デザイナーは何に「深い」のか

ここまでお読みいただいた方で疑問を抱いた方がいらっしゃるかもしれません。
いろんなプロに仕事を依頼して「深く」なるのは分かったけど、では空間デザイナーは一体何に「深い」のかと。

空間デザイナーによって考え方はまちまちですが、僕の場合はプロジェクト全体をまとめるディレクション能力と、企画あるいはデザインコンセプトを策定して空間デザインに芯を通すことです。

各方面のプロに仕事を依頼するには、先に挙げたようにプロジェクトが面白いものである必要があります。
面白い=特別な敷地や建物が対象である、ことは必須条件ではなく、一般的に普及している業種、例えばカフェの場合でも、どこか他と差別化できるデザインのポイントを企画してそこに注力することで協力してくれる人たちに手がけて面白かった、と思ってもらうことは可能だと考えています。

その面白いポイントはクライアントがお店のPRをする時などに役にたつ要素にできるし、それが顧客とのコミュニケーションに使えたりする。

また様々なステークホルダーとの渉外や問題の検証と解決の交通整理能力も必要だと思います。
空間デザインをコンセプトから構想し、それを実現するために段取りを組んで関わる人たちの仕事がスムーズに運ぶようにお膳立てをする。
このようにプロジェクトの監督としての能力を「深める」ことが良い空間をつくる一つの方法だと思います。

すべての段取りがうまくいった時の爽快感は、ナニモノにも代え難いのですが、プロジェクトの道中はそれはそれは大変なものですから、ストレス耐性が高い人に向いている職種だと言えるでしょう(笑)

以上です。
それではまた来週。実りある一週間を!


建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。