アートとデザインとビジネスの関係

3年前に行ったアメリカのミルウォーキーやシカゴで出会った人から聞いた話が忘れられない。それは、「アートとデザインとビジネスの関係」の話だった。

アートをやるためにアメリカに渡り、今では通訳の仕事をしている日本人女性。(こう書いただけで、誰だかわかる人もいるかもしれない)その通訳の能力は、すごかった。事前にぼくのことを調べつくし、ぼくの一言をそのまま通訳するだけでなく、背景も含めて解説してくれた。

その女性から聞いたアメリカのデザイン事情は、とてもわかりやすく納得のいくものだった。日本で有名な日本人デザイナーと、アメリカで有名な日本人デザイナーの違いや、大量に製品をつくるためのデザインと、手でつくる作品に近いクラフト製品のデザインの距離などなど。

そして、一番、興味深かったのは、新しいテクノロジーを使ったビジネスや、ソーシャルデザインのプロジェクトの多くが、デザイナーではなく、アーティストが中心になっているという話。

どこまでが真実なのかはわからないけど、彼女の豊富な知識から、次から次への具体的な企業名やサービス名が出てきて、あまりその業界に詳しくないぼくでさえ、知っている名前もあがっていたことから、その事実を受け入れることにためらいはなかった。

一般的に、「問題の本質を捉えるアート」と「課題を解決するデザイン」を対比して語られることが多いと思う。そして、通常は、「アートとビジネスの距離は遠く」「デザインはビジネスに寄り添っている」と考えられている。

しかし、不安定で曖昧な状態の現在の社会の中で、すでに明確になっている課題を解決するためのアイデアを出していくだけのデザインだけでは、問題をあるべき姿にできなくなっている。

多くの企業が求めている「イノベーション」は、実は、デザインではなく、アートにこそ内在している力なのではないだろうか。ものごとの本質を理解するだけでなく、社会の問題を、自分ごととして、真正面から深く掘り下げて、それを社会に提示していくアートの力。

そのアートの力を推進力にして、デザインの力でカタチにして、ビジネスの力で社会に広げていく。この流れこそが、不安定で曖昧な状態の現在の社会の中で求めらているのかもしれない。

半年後に行った環境先進国のドイツのケルンでも、アーティストが立ち上げたプロジェクトに出会うことになる。

振り返って日本ではどうなのだろうか。日本のアーティストは、イノベーションをおこす推進力になっているのだろうか。そして、デザインやビジネスと手を結んで、社会を現実的によくしていこうとする熱意があるのだろうか。

日本でも狭いアート村や、デザイン村や、ビジネス村の垣根を超えて、現実的に社会をあるべき姿に変えるために行動する人が増えていくことを願っている。

デザイン周辺の仕事を本業にしてるぼくとしても、アートとビジネスをもっと知って、両者をつなげるような仕事をしたいと考えはじめている。

さて。

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