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「ゆるくないっすよ!! ししまるさん」第1話

〇 獅子が丘市・中心市街地・目抜き通り
T「獅子が丘市」
   手を振りながら、並んで歩く、雄ライオンをモチーフとした”ししまる
   くん”と雌ライオンをモチーフとした”ししこちゃん”。
   二体とも獅子が丘市のゆるキャラだ。
   「”ししまるくん”こっち向いて」「”ししこちゃん”かわいい~」など
   黄色い声援が市民から沸き起こる。
   ビルの合間に隠れる、”ししまるくん”と”ししこちゃん”

〇ビルの合間
   ”ししまるくん”の頭を外すと真田明(45)の顔。
   いかつい顔で頬に傷がある真田。
   とてもカタギには見えない。
   ”ししこちゃん”の頭を外すと小山田竜二(32)の顔
   金髪ピアスでどこからどう見てもチンピラだ。
真田「熱いな。これ」
小山田「もう少し我慢しましょうよ、アニキ」

〇 タイトル
  「ゆるくないっすよ‼ ししまるさん」

〇 刑務所・廊下
T「1ヵ月前」
   看守に連れられる囚人服姿の真田。
   巨体だ。

〇 同・更衣室
   囚人服を脱ぎスーツに着替える真田。
   背中には唐獅子牡丹の入れ墨、そして無数の切り傷や銃創。

 〇 同・表
   門が開き、スーツ姿の真田が現れる。
   スカジャン姿の小山田だ。
小山田「アニキ! お勤めご苦労様でした!」
真田「竜二か。久しぶりだな。あいにく、俺なんかに付いてきても何もいい 
 ことなんかねえぞ」
小山田「何を言ってるんですか。地獄の果てまででも付いて行きますよ」
   真田、苦笑して、
真田「地獄でてめえの馬鹿面なんて見たくねえよ。勝手にしろ」
   停車しているベンツに乗り込む、真田と小山田。

 〇 獅子が丘市・中心市街地
N「獅子が丘市。人口100万を超える政令指定都市」
   高層ビルや大きなショッピングセンターもあり、かなりの都会だ。

 〇 同・目抜き通り
   小山田の運転するベンツが走る。

 〇 走るベンツ・車内
   運転する小山田。
   後部座席に座る真田。
真田「獅子王会の解散を聞いた時は驚いたな。俺の責任だよな……」
小山田「いえ、アニキのせいじゃないですよ。もともと、オヤジの体調が芳 
 しくなくて、引退間近だったし……」
真田「最近の獅子が丘の情勢は?」
小山田「最近はもっぱら黒龍会の分裂騒ぎですかね」
真田「まさか、あの黒龍が分裂するとはな……」

 ○ 指定暴力団『黒龍会』幹部の集合写真
N「黒龍会―日本全国に系列組織を有し、組員の人数は1万人を超える指定
 暴力団。世界のあらゆる犯罪組織の中でも最大規模の組織である」

 〇 新聞記事や週刊誌記事
   新聞記事や実話系週刊誌記事の『黒龍会分裂か?』『真黒龍会旗揚
   げ』などのセンセーショナルな見出し。
N「しかし、5年前、黒龍会の武闘派幹部数名が、本部に反旗を翻し、新団
 体である真黒龍会を立ちあげたのであった」
   『組事務所に発砲』『真黒龍会幹部刺される』などの記事。
N「『黒龍会』と『真黒龍会』。二つの巨大組織の対立は日本全国の都市で
 血で血を洗う抗争事件を引き起こしたのであった」
   黒龍会系暴力団『山県組』と真黒龍会系暴力団『高坂組』の集合写
   真。
   両組長である山県三樹夫(45)と高坂弘樹(49)の姿。
N「そして、ここ獅子が丘でも、黒龍会系暴力団『山県組』と真黒龍会系暴
 力団『高坂組』との緊張は日に日に高まる一方であった」

 〇 獅子が丘市・繁華街(夜)
   クラブの前で山県組の組員達と高坂組の組員達とで小競り合いが起き
   ている。
山県組組員A「てめえ、どこのシマで商売しとるんじゃ‼ ここはうちのシ
 マだろ」
高坂組組員A「うるさいな‼ ここのビルの物件買ったのはうちらやぞ。金
 のない山県が口出ししてくるな‼」
山県組組員B「ボンクラの高坂の分際で舐めたこと抜かすとぶち殺すぞ‼」
高坂組組員B「やってみるならやってみい‼」
   小競り合いになる組員達。
   警官が笛を鳴らしながら駆け付ける。
   散り散りに逃げ出す、両組員達。

 〇 元の走るベンツ・車内
真田「ドケチの山県とボンクラの高坂か……。目くそ鼻くそだな」
小山田「今は小競り合い程度ですが、いつ全面抗争になってもおかしくない
 状況ですよ。あっ⁉ そう言えば……」
真田「どうした?」
小山田「決まったんですよ‼ ”ししまるくん”に……」
真田「『ししまるくん』?」
小山田「獅子が丘市のゆるキャラですよ」
真田「ゆるキャラ? 何だそれ?」

 〇 獅子が丘市民公園・野外ステージ
   市民交流イベント『ししまるくんと遊ぼう‼』が開催されている。
   ”ししまるくん”が手を振りながらステージに現れる。
   隣には”ししこちゃん”も現れる。
   しかし、客席はガラガラ。
   数少ない子供の客はノーリアクションだったり、鼻くそをほじった
   り、ステージ関係なく走りまわっている。

 〇 元の走るベンツ・車内
小山田「アニキ、ゆるキャラも知らないんですか? 地方自治体主催のイベ
 ントとか、名産品のPRのために作られたキャラクターのことですよ。ほ 
 ら、『くまもん』とか『ふなっしー』とか」
   真田、小山田の座席を蹴り、
真田「そんなくだらない情報はどうでもいいんだよ‼ それよりも、お前は
 獅子王会の解散後、今まで何をやっていたんだ?」
小山田「今は獅子王会の再興のために、着々と準備を進めている最中です」真田「獅子王会の再興だと?」
   小山田、ニヤリと笑い、
小山田「今から見に行きましょうか? 新たな事務所を……」

 〇 漫画喫茶が入った雑居ビル・表
   ベンツが停まる。
   降りる、小山田と真田。
真田「ここのビルが新しい事務所なのか?」
   中に入る小山田。
   後に続く真田。

 〇 同・漫画喫茶
   扉が開き、店内に入る小山田と真田。
真田「漫画喫茶?」
   どんどん奥に進む、小山田。
   とある個室の扉を開ける。
   中には獅子王会の代紋が飾られている。
小山田「ここです」
   小山田を、グーで殴る真田。
真田「馬鹿かてめーは‼ ネットカフェ難民になったヤクザなんて聞いたこ
 とねーぞ‼」
小山田「いや、だって……。条例で締め付けが厳しくて……。今じゃ、携帯一
 つも自由に買えないんですよ。俺たち。アニキの若い時代と違ってやくざ
 じゃ喰っていけないんすよ」
真田「じゃあ、あのベンツは何なんだ?」
小山田「そんなのレンタルに決まっているじゃないですか」
   真田、ため息をつき、
真田「これなら、ムショの中にいた方がまだマシだったよ……」
小山田「でも、アニキはシャバで会わなくちゃいけない人がいるじゃないで
 すか?」
真田「会わなくちゃいけない人?」
小山田「玲子さんと萌香ちゃんですよ」

 〇 小学校・校門
   下校時の風景。
   友人の森結愛(7)、浅井花蓮(7)と一緒に下校する伊達萌香
   (7)。
   ショートボブの活発な美少女の萌香。
   電柱の物陰に隠れながら、萌香を眺めている、真田と小山田。
真田「そうか……。7年も経ったもんな……。あんなに大きくなったんだ……」
小山田「そうか……。アニキがムショに入ったときは、まだ姐さんのお腹の
 中でしたからね。萌香ちゃん」
真田「俺の血を引いているせいか滅茶苦茶可愛いなあ」
小山田「いえ、可愛いのは姐さんの血を引いているからです」
真田「ハッキリと言うなよ……」
   真田、踵を返し、場を去ろうとする。
小山田「声をかけないんですか?」
真田「……いや、いい」
小山田「本当にいいんですか? 萌香ちゃんに会える日を生きがいに長い獄
 中生活を耐えてきたんじゃないんすか?」
真田「向こうは俺の顔なんてわかんねえだろ。それに……。こんな時にどん
 な顔をすればいいかわからねえんだ……」
小山田「普通に笑顔でいいじゃないですか」
真田「笑顔……」
小山田「さあ、行きますよ」
   萌香の後を付ける、小山田。
   真田も小山田の後を付いていく。

 〇 商店街(夕)
   友達と別れ、家へと向かう萌香。
   小山田が後ろから声をかける。
小山田「ちょっと、そこのお嬢ちゃん」
萌香「私?」
小山田「伊達萌香ちゃんだよね?」
萌香「そうだけど」
小山田「実は萌香ちゃんに会いたいっていうオジサンがいてね……」   
   小山田の後ろから真田が現れる。
   真田、まじまじと萌香を見て、
真田「萌香……」
   萌香、首を傾げ、
萌香「おじさん、誰ぇ?」
玲子の声「萌香―」
   スーツ姿の伊達玲子(37)が現れる。
   長髪で年齢よりも若く見える。
   美人だ。
   玲子の下へと駆ける萌香。
萌香「ママー‼」
   玲子、笑顔で、
玲子「迎えにきたよ。早く家に帰ろう」
萌香「えっ⁉ でも、このおじさんが何か用があるみたいだけど……」
玲子「萌香の大好きな苺プリンも買ってあるわよ」
N「獅子が丘市は苺の名産地」
萌香「苺プリン⁉」
   眼を爛々と輝かせ、急いで家へと向かう萌香。
   萌香の後ろ姿が消え去るのを確認し、真田達の方を振り向く玲子。
   怖い顔で真田を睨みつけ、
玲子「今頃になって、何しに来たのよ?」
真田「いや……。萌香の顔を一目でも見たいと……」
玲子「邪魔よ。離婚届には記入したでしょ。今は赤の他人だから、とっとと
 消えてよ‼」
小山田「姐さん‼ それはないですよ‼ アニキは萌香ちゃんに会える今日の
 この日を楽しみに……」
玲子「あんたが刑務所に入っている間、私が苦労して萌香を育てたの
   よ……」
真田「玲子、お前には苦労をかけた。これからは家族一緒に暮らして……」
玲子「無理」
真田「えっ!?」
玲子「私たちがあなたのような『反社』と関係があると知られたら、周囲か
 らどんな目で見られるかわかってんの? 今はSNSですぐ拡散されちゃ
 うのよ‼」
真田「れ、玲子……」
玲子「もうこれ以上、私や萌香を巻き込まないでよ‼ 私たちの幸せを壊さ
 ないで‼」
小山田「姐さん、そこをなんとか……」
   小山田、玲子に詰め寄る。
   玲子、わざとらしく、周りに聞こえるような大きな声で、
玲子「やめてください~。怖いお兄さん~」
   玲子の豹変ぶりに戸惑う小山田。
玲子「勘弁してください。みかじめ料を身体で払えなんて~」
   周囲の通行人たちの目が一斉に真田達に向けられる
   警官が遠くから近づいてくる。
真田「やばい、逃げるぞ‼」
   慌てて走って逃げだす真田。
小山田「ま、待ってください‼ アニキ‼」
   真田を追って、走り去る小山田。
   玲子、真田達の後ろ姿を勝ち誇った顔で眺める。
玲子「私の目が黒いうちは、萌香に指一本も触れさせないから‼」

 〇 獅子が丘市立公園
   逃げ続ける真田と小山田。
小山田「まだ追ってきますよ。あのポリ公」
真田「おい‼ あれを見ろ‼」
   真田の視線の先には屋外の喫煙コーナー。
   ”ししまるくん”と”ししこちゃん”の中の人が、着ぐるみの上半身だけ
   脱いで、タバコを吸って休憩している。
バイトの人A「ったく、やってられないよな……。こんな人気のないゆるキ
 ャラなんてよ」
バイトの人B「しょうがねえよ。だって、こいつら全然可愛くねーし」
真田の声「おい、お前ら。ちょっと相談があるんだが……」
   声の方を振り向くバイトの人たち。
   笑顔の真田と小山田が立っている。
    ×    ×    ×
   真田達を探している警官。
   ”ししまるくん”(中は真田)と、”ししこちゃん”(中は小山田)が向
   かいから歩いてくる。
警官「ちょっと、すみません」
   立ち止まる、真田と小山田。
警官「一般人を脅迫した容疑で暴力団二人組を追っています。ひとりは40
 代、スーツ姿の大柄の男。もう一人は、30歳前後のスカジャンで金髪ピ
 アスの男。それらしき人物を見かけませんでしたか?」
   真田、歩いてきた方向を指差す。
警官「捜査にご協力ありがとうございます」
   一礼し、真田の指差した方向へ向かう警官。
   警官が視界から消えたのを確認する真田と小山田。
   二人とも声出して笑う。
真田「まさか、俺たちが着ぐるみの中にいるとは思わねえだろ」
   小山田「さすがアニキ」
   ”ししまるくん”の腕や身体をまじまじと見て、
真田「というか、何なんだよ。このキャラは?」
小山田「それがさっき話題にしていた、獅子が丘のゆるキャラの”ししまるく
 ん”ですよ。で、俺が着ているは、”ししまるくん”のスケのししこちゃん」
真田「ふーん。なんか全然可愛くねえな。こいつら」
小山田「実は……
   いきなり、小学生の悪ガキ三人組の松永拓真(7)、三好海斗
   (7)、細川漣(7)から背中を蹴られる真田。
   真田、倒れこむ。
松永「や~い‼ バカバカ‼」
三好「あいかわらず可愛くねえな‼ てめえは‼」
細川「母ちゃんが『お前なんて税金の無駄遣いだ』って言ってたぞ‼」
   笑いながら、その場から逃げ去る悪ガキ三人組。
小山田「市民から全く人気ないんですよ。ししまるくん……」
   真田、倒れたまま、
真田「……」
小山田「アニキ大丈夫ですか?」
   真田、起き上がり、
真田「あのクソガキどもぶっ殺してやる‼」
   小山田、真田を背後から止めながら、
小山田「落ち着いてください‼ アニキ‼ 相手は小学生ですよ‼」
真田「いーや。俺を誰だと思っているんだ‼ 日本全国の極道が震えて怯え
 る真田明様だぞ‼」
小山田「それですよ‼ アニキ‼」
真田「何? どういうことだ」
小山田「この恰好だと、アニキだと気づかれずに萌香ちゃんに近づけます
 よ‼」
真田「いい考えだ‼ 竜二‼ 馬鹿の癖によく思いついた‼」
小山田「馬鹿は余計ですよ……。馬鹿は……」
真田「じゃあ、早速……」
   萌香の家へと向かおうとする真田。
   足を止め、小山田の方を振り向く。
真田「その前にコンビニで飲み物買いに行かないか? のどが乾いた……」
小山田「そうですね……。着ぐるみの中って、すごく蒸し暑いですし……」

 〇 コンビニ・表

 〇 コンビニ・店内
   コンビニに入る、”ししまるくん姿”の真田と、”ししこちゃん”姿の小
   山田。
   ブランデーや日本酒など酒類を次々と籠に入れる、真田。
   ビールやチューハイを籠に入れる、小山田。
真田「出所祝いだ。今日はたらふく飲むぞ」
   客から悲鳴があがる。
強盗の声「金を出せ‼」
   声の方を向く、真田。
   コンビニ強盗が包丁を突き出し、レジの店員を脅している。
強盗「早く金を出せよ‼」
   店員、怯えて、
店員「は、はい……」
   レジから金を出し、強盗に渡そうとする店員。
   強盗、周囲の客にも包丁を見せびらかしながら、
強盗「てめえらも警察に通報なんかしたら、ぶっ殺してやる‼」
   怯える店内の客。
   強盗に近づく、真田。
真田「おい、いい加減にしろよ」
強盗「な、何だその恰好は? 舐めているのか?」
   強盗、真田に包丁を向ける。
   包丁を持つ手が震えている。
真田「お前、人を刺したことないだろ?」
強盗「う、うるせえ‼ 俺は本気だぞ‼ 本当に刺すからな‼」
真田「あー、ダメダメ。そんな持ち方じゃ、人どころかミジンコだって殺せ
 ねえよ。俺がレクチャーしてやろうか? 人の刺し方」
小山田「そう言えば、アニキ、昔の抗争のとき、脇腹をドスで刺されたのに
 ピンピンしてましたよね(笑う)」
真田「あのとき、血がドバドバ出て死ぬかと思ったよな(笑う)」
   強盗、真田たちの会話にドン引きになり、
強盗「刺される? 血がドバドバ?」
真田「そうそう、レクチャーだった。人を刺すときは柄を両手でしっかりと
 握ってだな、重心を落とすんだよ……。こうやって……」
   腰を落とす、真田。
強盗「うるせえ‼」
   強盗、真田を包丁で襲う。
   真田、あっさりとこれをかわし、包丁を持った強盗の腕を軽くひねあ
   げる。
   包丁が床に落ちる。
強盗「いてえ‼ は、離せ‼」
真田「『離せ』?」
   真田、力を強める。
強盗「は、離してください‼ お願いします‼」
真田「警察に自首するか?」
   更に力を強める。
強盗「します‼ しますから‼ 許してください‼」
   手を離す、真田。
   力なく膝から崩れ落ちる強盗。
真田「ったく……。手間をかかせやがって」
店員「ありがとうございます‼」
   店員、真田に何度も頭を下げる。
   周りの客から、拍手が起こる。
   スマホで写真や動画を撮影している客もいる。
真田「えっ!? 何? どうした?」
   真田、キョロキョロとあたりを見回す。   

○ ワイドショー
   事件があったコンビニの前にレポーターが訪れる。
レポーター「コンビニ強盗を撃退したのは獅子が丘市のゆるキャラ、”ししま
 る”くんでした」
 
〇 動画投稿サイト
   『”ししまるくん”コンビニ強盗を瞬殺』というタイトル。   
   今回の事件で真田が強盗の攻撃をかわし、手首をひねる動画が再生さ
   れる。
   『”ししまるくん”動き早すぎ‼』『強すぎるよ”ししまるくん”WW
   W』などの高評価のコメントで埋まる。
 
〇 電車・車内
   空席を探す、”ししまるくん”姿の真田と、”ししこちゃん”姿の小山
   田。
真田「座りてえなあ……。空いている席、どこかないか?」
   真田の視線の先には、お婆さんが目の前に立っているのに、優先席を
   三人分の席を占有しているDQN。
   周りの大人は距離を置き、見て見ぬふりをしている。
   真田、DQNの前に立つ。
真田「おい、席を譲れよ」
DQN「あん? てめえ、何言ってんだ? ボコボコにすっぞ」
   立ち上がり、真田に対してガンを飛ばすDQN
真田「(ドスの利いた声で)ボコボコにできるならしてみろよ。できるなら
 な」
   DQNにガンをとばす、真田。
   真田のあまりの迫力に、逃げるように席を離れるDQN。
   真田が席に座ろうとする前にお婆さんが優先席に座る。
   周りから湧きおこる拍手。
   
〇 巨大掲示板
   『”ししまるくん”最強伝説』のスレッド。
   ”ししまるくん”のいくつもの武勇伝が書きこまれている。
   『”ししまるくん”に新たな伝説が加わる。ガンをとばしただけでDQ
   Nを退散させる』の書き込み。
   『”ししまるくん”マジで地上最強なんじゃね?』『”ししまるくん”と
   芸能界最強の宇梶剛士とどっちが強いのかな?』『アンチ乙。芸能界
   最強は大木凡土だから』などの書き込み。
 
〇 道
   ”ししまるくん”姿の真田と”ししこちゃん”姿の小山田が歩いている。
   突然、真田の足元に、吸いかけの煙草が落ちる。
   真田の目の前には、煙草を吸いながら歩く、チャラい若者たち。
   真田、チャラ男を後ろから肩を叩く。
チャラ男「あん? 何だよ? てめえ」
   ポイ捨てしたタバコを突き出す。
真田「ここは禁煙スペースだよ。それにポイ捨てなんてやめろ」
チャラ男「(舌打ちし)うっせーな」
   真田、チャラ男を掴んで、チャラ男の額にタバコを押し付ける。
チャラ男「あちい‼ あちい‼」
真田「ちゃんと捨てるよな?」
チャラ男「ごめんなさい‼ ちゃんと捨てます‼ ちゃんと捨てるから許し
 て‼」
   チャラ男、タバコをししまるくんから
   受け取り、ゴミ箱へと向かう。
   通行人の拍手が起きる。
 
〇 ネットニュースのコメント欄
   『”ししまるくん”獅子が丘市の美化に貢献』の見出しの記事。
   『全然、ゆるくないよ! ”ししまるくん”WWW』『「さん」を付け
   ろよ、デコ助野郎‼』などの賞賛コメントで一杯である。
 
〇 部屋・内
   パソコンで、”ししまる”くんの記事を読む、引きこもりの男。
   引きこもりの男「”ししまるくん”、サイコー」
 
〇 電車・車内
   スマホで”ししまるくん”のネット記事を読むサラリーマン。
サラリーマン「”ししまるくん”、すごいなあ」
 
〇 家・リビング
   せんべいを食べながら、テレビを観ている主婦。
主婦「”ししまるくん”、可愛い」
 
○ 市民公園
   ベンチに腰掛け、”ししまるくん”を話題にしている老人たち。
老人A「”ししまるくん”てのがすごいらしいですね」
老人B「そうですねえ」

○ 萌香のマンション・LDK(夜) 
   ローカルニュースをテレビで観ている萌香。
   玲子が帰宅する。
玲子「ただいま~」
萌香「おかえりなさい~。ママ、見て見て、また”ししまるくん”が活躍して
 いる」
   ニュースの内容は”ししまるくん”だ。
   玲子、笑顔になり、
玲子「本当に萌香は”ししまるくん”が好きだよねぇ」

〇 獅子が丘市・中心市街地・目抜き通り(冒頭の続き)
   ”ししまるくん”姿の真田と”ししこちゃん”姿の小山田が歩く。
   市民から「”ししまるくん”頑張って‼」「”ししまるくん”応援してる
   よ」などの温かい言葉。
真田「て、いうか、あれから1ヶ月も経つのに、いつになったら萌香に会え
 るんだよ!!」
小山田「もう少し、あと、もう少しの我慢ですよ。アニキ!」
          (第1話 終)


#週刊少年マガジン原作大賞


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