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interview10/ハサミとともに海を渡って

ナナさん(美容師)

カナダ出発前、今までやってみたかったブリーチに挑戦しました。
お願いしたのは、大学時代からお世話になっているヘアスタイリストのナナさんです。
実はナナさん、カナダでのワーキングホリデーを経験された方で、
私がワーホリを考えるきっかけになった方でもあります。

さて予約の連絡をしたころ、ナナさんより
「ブリーチ、少し長めに時間をみていただけたらうれしいです」とお返事がきました。
長めの時間……それって取材にうってつけ。
普段なら美容師さんがいろいろ聞いてくださるところを、
逆に私が聞いていくというのは、なかなか面白くなりそう。
記事を書かせてくださいとお願いしたら、快くOKをいただきました。
今回は自分史上初、施術いただきながらの取材です。

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(取材:2022年1月)

ずっとやってみたかったこと

ナナさん
ブリーチ、初めてでしたっけ。

――はい。大学時代からやってみたいと思ってたんですが、タイミングを逃し続けて。だから会社を辞めたら挑戦しようと決めてたんです。初めてのブリーチなので、扱いやすいようにお願いしたいんですが……。

ナナさん
じゃあ全部脱色しないでポイントで色を抜くか、ハイライトとかいかがですか。カナダって硬水で髪がキシキシになりやすいので、全部ブリーチにしちゃうと扱いづらいかも。

――なるほど、着眼点がさすがです……。ではハイライトでお願いします。海外留学も、大学の時にやってみたかったんですけどできなかったことです。日本の大学生活が楽しすぎて。

ナナさん
ははは。そういうのありますよね。その時はでも、違ったんじゃないですか。タイミングじゃなかったかもしれない。じゃあハイライト、やっていきますね。

――お願いします。

ナナさん
(脱色剤塗りながら)出発もうすぐでしたっけ。いいなあ。楽しみですね。トロントでしたっけ。

――はい、トロントです。うーん私心配性で、正直不安な気持ちが大きくなってます……。スマホ大丈夫か、お金大丈夫か、英語大丈夫か……(震)。

ナナさん
大丈夫です。ほんと、大丈夫、なんとかなるから。なりましたから。

――なんとかなるなんとかなる……。ななさんはバンクーバーでしたっけ。どんなワーホリでしたか。

ナナさん
はい、バンクーバーで。私は1年間行って、最初の2か月は語学学校、その後は日系サロンで働いてました。そんなに不安はなかったかな。だって合わなかったら、すぐ帰っちゃえばいいって思ってたから。絶対1年いなきゃいけないって決まりもないし。

――たしかに、それもそうですね。

ナナさん
そうそう。私は行ってよかったと思ってます。向こうで実際に生活して感じることがたくさんありましたから。人生が変わったって人もたくさんいますし。私はワーホリビザが取れる最後の年だったんですよ。「ギリホリ」です。

――ギリホリ……?

ナナさん
30歳で行くの、「ギリギリホリデー」って言うんですよ。もっと早いうちにワーホリして、他の国のワーホリもやってみたかったなって思うくらいです。

――ワーホリのはしごされる方、結構いるみたいですよね。日系サロンで働いてたってことは、美容師のスキルを磨きたいって思っていたんですか?

ナナさん
いえ、まず一番に海外で暮らしてみたいっていうのがあったので、別に美容師じゃなくてもいいかなって思ってました。あとは私旅行が好きなんで、ワーホリ中にカナダの国内旅行にたくさん行きたいなって。ケベック、イエローナイフ、バンフ―国立公園……トロントも行きましたよ。だから旅行で困らないくらいの英語力がほしくて、最初に語学学校に行ってたんです。

――それ以前も海外旅行によく行ってたけど、改めて英語の勉強するために2か月間学校に。

ナナさん
はい。その前にタイに行って、現地で迷子になっちゃったことがあって。その時おじさんが話しかけてくれたんですけど、怖くて「No,No」って拒絶しちゃったんです。そしたらなんか紙くれて、後々友達にそれを見せたら、そこまでの行き方を書いてくれてたみたいで。ただただ助けてくれようとしてた超いい人だった。でも英語が本当にしゃべれなかったからご厚意も分からなくて。英語勉強しなきゃって思ったのは、そこかも。
きえさんはなんでワーホリ行こうと思ったんですか?

――私も海外で暮らしてみたくて、あわよくば英語しゃべれるようになりたいなって思ったからです。今ナナさんの話を聞いて思い出したんですけど、少し前に友達の結婚式で、外国人の神父さんが「健やかなるときも病めるときも……永遠の愛を誓いますか?」みたいなのを英語で言ってたんです。その時花嫁さんが「Yes」って言ってるのしか聞き取れなくて。なんか自分にがっかりしちゃったんです。
とはいえその後英語の勉強は特にせず。甘い話なんですけど、「働きながら英語を頑張る」気になれなくて。それで、会社辞めたタイミングで、今挑戦してみるのはありだなって。できることなら英語でインタビューとかして、記事書けるようになったらいいなって思うんです。無謀な挑戦かもしれないけど。あとそれこそナナさんに触発されたっていうのはあります。

ナナさん
そうなんですか? ははは。すごくいいと思いますよ。トロントならバンクーバーより都会で時間の進みが速い感じがするから、英語力も鍛えられそう。
脱色剤つけたので、しばらく置きますね。これで温めますね。コーヒーと紅茶、どっちがいいですか。

――コーヒーでお願いします。

(機械ぐるぐる。数十分後)

ナナさん
見ますね。……うん、いい感じに色抜けてる。じゃあシャンプーしますね。

――(シャンプーされながら)(やっぱり美容師さんって話聞くのうまいな……いつの間にか自分が話しちゃってる)

開式までに、1人で7人。

ナナさん
おつかれさまでした。乾かしていきますね。

――お~明るくなってる!

ナナさん
ははは。このあと色かぶせていきますね。

――(ドライヤーされながら)ナナさんはなんで美容師を目指すようになったんですか?

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ナナさん
中学生くらいの時かな、よく女の子同士で休み時間とかに三つ編みやり合ったりするじゃないですか。あれが楽しくて。いろんな子から「やってやって!」ってお願いされるのもうれしくて、髪いじるの好きだなって気づいたんですよね。それで高校生の時に、美容師になるには美容専門学校に行かなきゃいけないっていうのを知って、親が反対する中自分で学校調べて「ここがいい!」って。反対されると、行きたくなるから(笑)。

――あ~分かります。ご両親はなんで反対されてたんですか。

ナナさん
美容師って、なるのが難しいし時間がかかるから。下積み期間が長いから、学校卒業しても結局美容師を諦めちゃう人が結構多いんです。

――そうなんですね。下積み時代ってどんなことをするんですか?

ナナさん
卒業後にサロンに就職して、営業時間は美容師のアシスタント業務をして、閉店後に練習して、終電ギリギリに帰る。そこから朝7時には出勤、みたいな生活が数年続きます。お店によっても違うんですけど。で、定期的に課題を出されて、自分でカットモデル探して、先生(師匠)の前で切ってみせて、OKが出て初めてハサミが持てるようになります。私は卒業して5年くらいアシスタントやってましたね。

――ひいいい。それはタフですね。ちなみにデビュー最初のお客さんって覚えてますか?

ナナさん
誰だったかなー、お母さんだったかな。お店に来てくれて。

――おお、いい話。ご家族の髪切ってあげられるの、素敵ですね。

ナナさん
はい。今も母の髪は私が切ってますし、もう亡くなっちゃったんですけどおばあちゃんの髪もよく切ってあげました。すごく喜んでくれてて。亡くなった時も、棺に入る前にメイクとヘアセットをしてあげたんですよ。

――そういうこともあるんですね。手に職を持つってすごい……。

ナナさん
ね~。じゃあ次、色入れていきますね。(カラー剤つけながら)
あとはー、兄の結婚式では、お嫁さんと、あちらのお母さんと、母と、姉と、叔母と、いとこと、あと自分のヘアセットをやったこともありましたね。

――えっ、式が始まる前に、ななさん1人で7人もヘアセットしたってことですよね。そんなことできるのか……。

ナナさん
すっごい疲れた。式始まったときにはもうクタクタで、ははは! それで兄が「ご祝儀いいよ」って言ってくれました。ははは。

――素敵なお話ですね。

ナナさん
ははは。じゃあカラー剤つけたので、また少し置きますね。いったんラップしちゃいます。

(その後シャンプー、最後のブローへ)

一人前になって、海を渡る。

ナナさん
(髪を乾かしながら)美容師になりたいって人は、海外の文化とかファッションが好きって人多いんです。だからワーホリに興味ある人もたくさんいるんですけど、特に美容師になる前は時間つくりづらいので、行ったって人は少ないと思います。私も、アシスタントを5年、美容師になってから数年働いて、今のサロンに転職してから休職というかたちでワーホリに行きました。

――美容師になってしばらくしてから行かれたんですね。それにしても現地の美容室で働くなんてすごいです。

ナナさん
いやいや、日系サロンなので、オーナーもスタッフも日本人で、職場環境自体は日本とさほど変わらなかったですよ。お客さんは現地の人がほとんどですけど、写真で「これ」って要望聞けるし。

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そうそうこれ、ワーホリのベストショットです。着いてすぐに友達に髪切ってってお願いされて、その人が住んでたホームステイ先の庭で切ったんです。学校通ってた時は小遣い稼ぎに、ルームメイトとか学校で知り合った人とかの髪を切ってあげてました。日本からはさみとかパーマ液とか一通り持ってって。

――うわあ本当に素敵な写真! かっこいい……! 仕事道具を持ってたんですね!

おとぎ話みたいなおみやげ話。

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ナナさん
そうなんです。最後、整えていきますね。
そういえばあっちで働いた時、イラン人のおじちゃんを担当したんですけど、その人と仲良くなって、帰国の前にカナダ料理ごちそうするよって誘われたんです。ちょっと怖かったから同僚の子と一緒に行ったんですけど、ディナーは普通に楽しくて、その後今度は「夜景見ながらアイスクリーム食べよう」って。それでついてったら、超高級ホテルに着いたの。なぜかフロントじゃなくて裏入口みたいなところに通されて。

――えっなんか怖い……!

ナナさん
そうそう怪しい(笑)。同僚と2人で「大丈夫かな……」とかこそこそ言いつつ、そのおじちゃんに高層階の一室に案内されて。

――ひいいいい、危ない匂い……。

ナナさん
そしたら「僕のお家にようこそ!」って。実はそこおうちだったんですよ。高級ホテルって大抵、上の階はお金持ちが住む部屋になってることが多いんです。その人、そこで暮らしてるらしくて。億万長者だった! その家45億円ですって。

――えええええええーーー!

ナナさん
びっくりですよね。人生かけても払えないよそんなの。なんの仕事してるのか聞いたら、「簡単さ、ハンコを押すだけだよ」って。ははは!

――ええ~……! 石油会社の重役さんとかだったんでしょうね……。

ナナさん
一番面白いのが、その人ぜんっぜんお金持ちに見えないの。はははは! 普通のズボンと普通のポロシャツ来てる、近所のおじちゃんって感じで。電車も使ってるし。ここまでのお金持ちになると、分からないもんなんですねきっと。威張ってる感じも全然ない。

――おとぎ話みたいですね。そんな人にどうやったら気に入られるんですか……。

ナナさん
あははは。いや普通に髪を切ってただけだよあはははは!友達は「ナナみたいに下心ない人と絡めて楽しかったんじゃない?」って言ってくれましたけど(笑)。
あ、でも、その人トップに髪がなくて、サイドにちょっと毛がある人だったんです。そういう方の施術って初めてだったから、カットもシャンプーも結構時間をかけてやって。ほんとはすぐ終わっちゃうんですけど、せっかく来てもらってるのにそれも申し訳ないなって。そしたら「こんなに丁寧にやってくれるのは初めだ」って言ってくれました。それからは月一回は来てくれるようになったかな。

――それですよ! 真心ってどこ行っても大事なんですね……。

ナナさん
はははは。面白い出会いでしたね。その人とはいまだに連絡とってて、次いつ来るんだ?カナダ来たらいつでも泊まりに来なよ~って。
できました、こんな感じでどうでしょう。

――うらやましすぎる出会い!
わあ大人っぽい! 面白い話聞かせてくれた上に素敵にしてくれてありがとうございます!

ナナさん
いえいえ、外ハネにしてもかわいいと思いますよー。私も施術中に自分の話こんなにすることってないから新鮮だった(笑)。じゃあ、お気をつけて行ってきてくださいね!

――ありがとうございます! 行ってきます!

(その日は寒かったのですが、髪を崩したくなかったのでマフラーを巻かずに帰りました。終わり)


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