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営業の9割が落ちる落とし穴(その②売りに行かない活動とは)

 このnoteは、主にIT業界におけるB2B営業職の方々、マネジメントの仕事をしている方々、さらには営業経験が浅い(もしくはほとんど無い)中でSaaS企業を創業した代表の方々を読者として想定して書いています。

まえがき&その1はこちら。

 前回についてはタイトルの通り、営業と販売の違いについてご説明しましたが、今回は「販売活動(売ることを目的にした活動)をしないで売るにはどうしたら良いのか」という点についてお伝えしていきます。
 そのためにはまず「販売活動」について具体的に解説します。おそらく多くの営業職の方々は、半ば無意識に「販売活動」をしていると思いますし、かつては私自身も同様でした。何の疑いもなくこの活動をしていましたし、頑張って仕事をし続ける中で、結果もそこそこ残すことができました。なので極端に誤ったやり方ではないとは思いますが、現代においては非常に結果が出しづらいやり方だと捉えていますので、その理由も含めてお伝えします。

販売活動は「売ること」が目的

 営業職の皆さんが、一所懸命頭を使って仮説を作り、お客さんの元に足繁く通い、色々な話をしながら沢山の質問をして情報を集め、社内の専門スキルや知識を持った人たちや上司を巻き込んで提案をする。この一連の活動がとても多い割合で販売活動、つまり売ることを目的にした活動になってしまい、そして皮肉なことに売ることを目的にすればするほど結果的に売れない、という状態に陥っているのでは?という問いを立てて考えてきました。

どういうことか分かりやすく説明します。

 あなたは解決策A、という売り物(サービスやプロダクト)を提供したいと考えている営業です。その解決策Aという売り物は、原因Aを解決するソリューションとして開発され、上司からは「この原因Aは数多くの企業に存在する課題だ。この課題の有無をヒアリングをして特定し、1件でも多くの商談を作れ」という号令が飛んでいます。まぁどこにでもよくある情景です。

図1

 つまり図1のような構図になるわけです。会社の目標は部門ごとに振り分けられ、「あなたの部門はコレをやってよね」ということで目標が部門レベルに再設定されます。この目標すなわちゴールを達成できていない今の状況がここでいう「困りごと」に該当します。例えば、全社でデジタルビジネスを立ち上げて新たな収益の柱にし、3年以内に20億円の収益化を目指すぞ!という会社の目標が立てられると、例えば人事部門管掌役員や人事部門長には「ということで、デジタル人材を20人採用しろ」と目標が設定されます。そして何とか頑張って5人採用できたとすると、「あと15人採用しないといけない&9月までに20人の布陣を組織しないといけない」という困りごとが存在していることになる、となります。

 そしてあなたは人材紹介会社の営業だとしましょう。人事部門長から「9月までにあと15人のデジタル人材、特にディレクションができる人材とエンジニアとデザイナーを採らないといけない。時間がないのだ」と鼻息荒く言われるわけです。まず間違いなく、あなたに限らず多くの営業は「承知しました!弊社には特にデジタル人材を中心に優秀な人たちが多数登録しています。きっと御社のお役に立てるご提案ができると、、、、!」と前のめりに提案するモードに入るでしょう。

 図1の「原因A」には「デジタル人材に強い人材紹介サービスの不足」が入り、皆さんの頭の中には以下の整理によって「今回の提案は刺さる!15人が採用できたとなると、えーと全部で・・・うお、ボーナスやば!」と皮算用がはじまるわけです。

図2

 そして営業であるあなたは「15人を9月までにですか!確かにハードな目標ですが、昨今デジタル人材の需要は多くの会社が欲している状況ということもあり、各社急ピッチで採用を進めています。しかしやはり優秀な人材は著名な企業のネームバリューに流れてしまうのも事実。おそらく御社としては強いブランドが無い中において、どうすれば1人でも多くの優秀なエンジニアの方々に知ってもらい、興味を持ってもらい、そして応募してもらえるのかわからずにいる、という状況かと思いますがいかがでしょうか?」と投げかけるわけです。そして畳み掛けます。「他社も同じ状況です。そして課題はシンプルです。つまりデジタル人材が取れないのは、デジタル人材に特化した専門人材プールにアクセスできていないからです。」

 つまり図1で言うところの「原因」は、営業によって「課題」へと化け、売り物へと繋がる流れになっているわけです。原因は原因であって、課題ではないのですが、なぜこうなってしまうのか。それは以下です。

売り物を起点に話を組み立てているから

 営業の頭の中には事前準備をする中で「デジタル人材の積極採用」等の公開情報に触れ、「自社の提供するデジタル人材特化型紹介サービスがどハマりするじゃないか!」と思うわけです。そしてどう伝えれば提案に繋げられるかを考えます。お客さんとのミーティングでは「9月までに15人の採用」という明確な期日と定量的な目標値を伝えられたことにより「これは顕在ニーズだ」と自信をもち、堂々と解決策の提示に進みます。
 これは、無意識のうちに「自社の人材紹介サービスを売るという目的の達成のためにあたかも自社サービス/プロダクトがないことが唯一の原因である」というストーリーを作り出しているわけです。これは一言でいうと「ただのセールストーク」です。あなたがどんなに頑張ってセールス色を排除して話しているつもりでも、中身は立派なセールストークです。なので相手はセールストークとして聞いています。

 なぜセールストークだと感じてしまうのか。図3で簡単に説明します。買い手から見ると、困りごとの原因は基本的に複数存在している状態だからです。9月までに15人のデジタル人材が採用できていない問題の原因は、必ずしも外部の紹介サービスを使っていないから、という理由だけではなく、そもそも自社の認知が取れていなかったり、自社が設定している給与テーブルが相対的に安く競合に負けてしまっていたり、事業成長が鈍化していたり、会社として対外的に打ち出すミッションやビジョンが言語化されていなかったり、そもそも採用活動に予算が全然ついておらずリファラルに頼らざるを得ない状況だったり、と様々な阻害要因や不安要素があるわけです。

図3

 買い手からすると、これらの阻害要因や不安要素をある程度把握しているものの、自身が認識しきれていない他の障壁もあるかもしれません。その状態でいる買い手に対し、あたかもただ1つの原因としてデジタル人材特化の紹介サービスを使っていないから、ということを挙げると果たしてどういう感情になるでしょうか。想像に難くないと思いますがいかがでしょうか。

 しかし、営業がこの「売り物起点のシナリオ」をなかなか抜本的に改善しない理由の1つは、営業がたくさんこの活動をしていると、ときどき「ああ、いいですね!こういうの欲しかったんです」という反応をするお客さんに出会うからです。どういう条件だと刺さるのかというと「お客さんが問題と課題及びそれらの原因を正確に捉えており、経済合理的に何を優先的に進めるとよさそうか当たりがついている」場合です。割合としては体感値で10-20%前後でしょうか。

 そう、この数字はおそらく皆さんの会社における受注率とそう変わらないのではないでしょうか?つまり販売活動をしている中で、100件商談があれば20件は受注できる状態。つまり80件は商売にならなかったという状態です。これを「こんなものだろう」という前提に立ち、商談数を増やそう、そのためにはリード数を増やそうという活動に精を出している企業がとても多い印象です。受注率を40%にできれば必要商談数もリード数も半分で済むにも関わらず、このレバレッジが効く箇所を抜本的に見直すことが少ないのは、販売活動をしている自覚が無く、皆頑張って「売りに行っている」状態が続いていると見ています。

営業活動は顧客の「困りごとの解決」が目的

 では営業活動とは具体的にどういう活動を指すのか?前回のnoteでは営業活動の目的は「買い手の困りごとの解決」とお伝えしました。それを日々の営業活動として何をすれば良いのか、という話をします。

 大前提として、企業は必ずビジネスゴールをもっています。それが定量的な目標数値であったり、例えばカーボンニュートラルやSDGs、DXといった言葉を用いたあるべき状態をゴールに設定していたりと様々です。そしてそのゴールは各業務領域を担う部門に因数分解されます。そしてその部門のゴールはさらにその配下のチームに分解されてゴールとして設定されます。つまり図4のように、企業の中にはゴールと呼ばれるものが複数存在している状態です。
 そして先ほどの販売活動の説明のところでお伝えした通り、ゴールを達成できていない状態が「問題=困りごと」です。営業活動というのは、この困りごとを解決する活動であるため、解決を阻害している様々な原因を把握していくことが先決です。

図4

 買い手であるお客さんは、ゴールを達成するために、その達成に向けたタスクを日々仕事としてこなしているわけですが、ここで大事なことは「果たしてお客さんが取り組んでいる・取り組もうとしている活動はみなさんから見ても確からしい打ち手なのか」という視点を持つことです。お客さんは何もかも知ってるスーパービジネスパーソンではありません。何をすべきなのか、何が不足しているのか、何がレバレッジの効くポイントなのか正解がない中で、悩み、考え、調べて不安な中試行錯誤しながらゴール達成に向けて仕事をしています。

 まず、営業として目を向けてほしいのは「ゴール達成」を阻む要因、困難な状態になっている原因を整理してあげることです。必ずしも、誰が見ても客観的に網羅性がある必要はありません。大事なのはこの原因整理の段階では皆さんの頭の中に自社のプロダクトやサービス等、売り物がチラついていない状態で臨むことです。何を売るのか、どう売るのか、幾らで売るのかという販売にまつわることは一旦横に置いた状態で、相手が何に困っていて、何をしたら解決に向かいそうなのか、それは何故なのかを「会話」することがとても大事であると考えています。上の図4をもう少し細かく見てみると、以下の図のようになります。話をシンプルにするために、EBが部門Xの管掌役員、つまり部門Xの責任者だと仮定します。EBとは何かというのは過去のnoteを漁ってみてください。

 ①は、お客さんも把握していることが多い内容なので、信用を得るコミュニケーションを心がけていれば比較的容易に把握することができます。「何をしている部門なのか。何をする目標を持っているのか、今その目標達成に向けて順調に進んでいるのか。進んでいないとしたら今どういう状況なのか」ということを会話して把握します。
 ②は、上述した通り、お客さんに聞いても出てこないことがあります。お客さんも真面目に仕事しているわけですから、何らか困りごとの解決のために日々のタスクに落として組織一丸となって行動しているわけです。ここについては、原因を率直に聞きながらも、皆さんからみて「あれ、他にもこういう原因があると思うけど出てこないな」という内容があれば、当ててみます。「○○の話が出てきませんでしたが、御社ではあまり原因として考えられないのでしょうか?」といった具合に。ここで大事なスタンスとして「ヒアリング偏重にならない」ことです。皆さんの持っている情報や知識を使い、気付きを与えてあげる、というスタンスです。
 ③原因を整理していく会話、及びその原因に対してお客さんは何をしているのか、何をしようとしているのか、それは何故なのかを会話していくのですが、ここも同様、ヒアリング:議論=2:8くらいのバランスです。事実として今お客さんは何をしていて、何をする計画があるのかという情報は把握するものの、お客さんが知らないこと、気づいていないこと、蔑ろにしてしまっている実は重要なことを、皆さんが議論を通じてコメント(指摘含め)をすることが求められます。
 ④その上で、これらの対策を講じればゴールに達成するのであれば、粛々とやればよいわけです。ところが多くのケースではお客さんが自分で考えた範囲、知り得る範囲での取り組みをしているため、さらにこの先何が必要なのかを特定しにいく必要が出てきます。ここが潜在的な課題と呼ばれるところです。潜在的なので、お客さんははじめのうちはいまいちその重要性がわかりません。ここをいかに顕在化させていくか、が営業の腕の見せ所になるわけです。潜在化している課題をどう顕在化させるのか、という話は別のnoteで書こうと思います。

 この①〜④の構成で進めていくことを、買い手の困りごとを起点にした営業活動と呼びます。④の話に至るまでは、純粋に買い手の困り事にフォーカスした会話になっていることに気づくと思います。むしろ、営業の頭の中に売り物が存在している状態では、相手の困り事に対して真摯に向き合い、何が原因なのか、その原因の対策は何が正しいのか、そして何が不足しているのかと言う議論の中にセールストークが入り混じることになってしまいます。

 この営業活動をしていると、相手の困りごとを解決する手段が必ずしも自分の売り物ではないことも当然出てくるわけです。相談相手として相手の困り事の解決にフォーカスした結果、自分の売り物が最良の選択肢ではない場合、例えば営業がとる行動は、情報を提供したり他の会社を紹介したり、といったことが挙げられます。
 こういった行動をとると、お客さんからすると営業はモノやサービスを得る人ではなく、問題の原因整理や、その対策に関する議論、お客さんが知らない、もしくは気づいていないことを教えてくれる良きパートナーになるわけです。
 これは経験談として強く自信を持って言えることなのですが、困っている人に向き合い困っていることをなんとかしようとする「人として正しいこと」をしていると、後になって商売になるのです。「以前相談に乗ってもらった施策がようやく一段落したので、御社のサービスを具体的に検討することができるようになりました。改めて導入に向けた話をさせてもらえますか」といった相談が入るのです。

 これは決してきれいごとではなく、人として人に向き合い、その人が困っていることを何とかしてあげたいと思う気持ちを持って売り物を一旦横に置いた状態で知識と情報を総動員し、相手のために会話と議論を続けることが、最終的に自社の契約に至ると言う結果に至るのです。
 しかし、営業や営業組織は目標数字と言うものを持っています。その目標を達成する事はいわば義務であり、上記で書いたような売りに行かない活動をする事は、数字の達成に支障をきたすのではないかと思う人もいると思います。その対策としてお勧めしたい事はただ1つ。「大量の営業活動量」を維持すること、つまり潤沢なパイプラインを常に持ち続けることです。半年前、1年前の営業活動が今になって花が咲く。今の活動は半年後、1年後に花が咲く。このようなパイプラインマネジメントが安定した数字を作り出します。

 以上、少々抽象的な話でしたが、少しでも皆さんの営業活動が良いものになれば幸いです。

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