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おばけ屋敷から考えるUXの勘所

はじめに

このnoteは、産業技術大学院大学が提供する「人間中心デザイン」の履修証明プログラムに参加することになった@shun__kawamura が学んだことです。

私自身については、僭越ながら先日インタビューいただいた記事があるので、こちらをご覧いただけると幸いです。

さてさて、この内容はちょうど私自身がそうだったように、

UX、UXデザイン、人間中心設計とか聞いたことはあるし、なんなら勉強も実践もしたことがある。だけど、結局のところよくわからない。
雰囲気でUXをやっている。

というような方の参考になることを想定しております。

早速ですが、本プログラムの導入にあたる「人間中心デザイン入門」の講義が終わったので、特に印象的だった点について振り返ってみます。

UXデザイナーは「●●」を扱う専門職

一口にUX、と言っても人によって定義も捉え方も様々だと思います。
実際、国際的にもISOのような規格で「ユーザエクスペリエンス(UX)」については定義されていますが、しっくりこないなあと感じるのも致し方ないのではないでしょうか。

c.f)ISO9241-210:2019におけるUXの定義

ユーザエクスペリエンス(UX):
システム、製品又はサービスの使用、及び/又は使用を想定したことにより生じるユーザの知覚と反応

ISO以外にも、いろいろな所で、いろいろな人がUXについて話しているのですが、それらを比べていった際に、3つほど共通している視点があるのでは、というのが面白いところ。
後ほど記載しますが、その中でも特に、私が重要だと感じた点について、以下の図を通じて振り返ります。

画像1

講義の中では、UXデザインについて理解するためにグラフィックデザインと、プロダクトデザインを例として挙げました。
※最近ではWebサービスやAppなどもプロダクトデザインといいますが、ここでは主に実態のあるハード・機器等のデザインを想定してください。

グラフィックデザインが2次元的なものを対象とし、プロダクトデザインが3次元的な物体を対象とすると捉える時に、UXデザインが対象とするのは何なのでしょう?

ここでは、その対象をずばり「時間」である、とします。
先に触れた、世界中で語られているUXの定義に共通している3点というのはこちらです。

1. 主観的評価
2.消費者とユーザの連続性
→多くの場合、ユーザになる前に消費者であり、名称が変わっても同じ人間の体験。博報堂グループが提唱する「生活者発想」の考え方が近いと感じます。(@shun__k注)
3.時間的・長期的視点

この3番目の視点を聞いた時に、目から鱗というか、UXという言葉を使って会話をする時に、「どうも認識がずれている気がする」と感じることの理由もわかった気がしました。

時間軸の観点を加えると、UXは以下の4つにまとめられます。
==============================
1. Anticipated UX(予期的UX)
 →利用
2.Momentary UX(瞬間的UX)
 →利用
3.Episodic UX(エピソード的UX)
 →利用
4.Cumulative UX(累積的UX)
 →利用期間全体
==============================

……これだけで理解できる方には不要なのですが、これだけでは、まだピンと来づらいのではないでしょうか。
なので、この講義の中で安藤先生(※担当してくださっている教員)が紹介してくださった事例を紹介します。
時間とUXの関係を理解するために適した素材が、「おばけ屋敷」です。

画像2

この例を紹介する前に、多くのおばけ屋敷に共通しているあるコトを、前提条件として揃えさせてください。
上のイラストにも示されているのですが、何かご存知でしょうか?

正解は「入口と出口が隣り合っている(同じ方向を向いている)」です。

これを踏まえた上で、おばけ屋敷の構造を簡易的に示すと以下のようになります。

画像3

入口の前には、先に出てきた人たちがわいわいしているのを横目に眺めながら、おばけ屋敷に入るのを今か今かとお客さんたちが列をなして並んで待っています。
中に入ると、驚かされ、ハラハラしながら出口を目指し、やっとの思いで出てきた後は、一緒に回ったメンバーでわいわい、といった様子です。

既にピンと来ているかもしれないですが、この図をもとに時間とUXの関係を示すとこんな感じです。

画像4

この図中には記載がないですが、このおばけ屋敷を体験して数ヶ月、もしくは数年経った時に、広告やマスメディアでの露出など何かしらのきっかけで当時の体験を思い出すこともあると思います。
その際の知覚や反応が、上述の4番目にあたる「累積的、Cumulative」といった関係性です。

また、図中には既にそれぞれの主な担当者について、しれっと記載しているのですが、こうして整理してみると、一連の体験を設計する際に、主に何を担うかによって、想起するものが異なるとは言わないまでも、UXと聞いて想起する内容には濃淡がある可能性がある、ということは要注意だと感じました。

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あくまで一般論であり、人によって捉え方が異なって当然ですが、UXという言葉を使ってコミュニケーションをする時に、相手がどの時間軸の話をしているのかに意識を向けると、より理解しやすくなるのかな、と私は腑に落ちました。

これだけは覚えておきたい、UXで一番重要な▲▲▲▲

ここまで、UXと時間の関係を振り返ってきました。
最後にもう一つだけ、関連する、かつ大切だと思ったことを整理して終わりにします。

講義内での順番としては、実は一番最初だったのですが、某国の国境警備システム開発についての動画をケーススタディとして鑑賞しました。
端折って内容を説明すると、よくある話かもしれませんが、以下のような話です。

・莫大な費用をかけ、短期間でシステムを開発した
・が、作ってみたら、問題だらけでプロジェクトは頓挫し、失敗という扱いに

これを観た後に、「なぜ、使えないシステムになったと思うか?」というお題について学生たちがそれぞれの意見を述べるというスタイル。
多種多様な背景を持つ学生たちから、これまた色々な意見が出たのですが、それは割愛させていただき、このお題についてのまとめを述べると、主にはこのシステムの「利用状況」を把握できていなかったことに帰結しました。
より正確には、もともとの原語は"Context of Use"なので「利用文脈」の方が適切とのこと。

私にとって新鮮だったのは、それこそ「人間中心デザイン」というくらいなので、人間、ユーザに着目してしまいがちだったのですが、それ以上に設計するものが利用される状況や、文脈に着目しようねという点です。

おばけ屋敷の例を通じて、時間とUXの関係について記載したのですが、UXにとって利用文脈、すなわち利用の前後関係を把握することが重要ということからも、UXを考えるにあたって「時間」は切り離せないということですね。

他にもいろいろなことを学んだ「人間中心デザイン入門」でしたが、今回は時間とUXについてをまとめて終了とします。
次のテーマの終了時にもまた更新する予定なので、よろしくお願いします。

参考文献

安藤昌也,『UXデザインの教科書』,丸善出版,2016年


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