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Late for Brunch vol.1の記録

小川町 POLARISで行われた『Late for Brunch!: zappak label showcase 01』 に足を運んだ。

POLARISは不思議な場所で、正方形に近い、外から見えるガラス張りの部屋で、演者と客席が斜めに対峙する。ライブハウスのゴツッとしたイメージからは遠く、もっとラフでフランクな気配が流れているのだが、スケジュールのラインナップを見る限りゴリゴリに実験的な音楽の場になっている。面白くて心地よい場所なので、なるべく続いてほしいなと思う。

『Late for Brunch!: zappak label showcase 01』は、岡川怜央が主催するレーベルzappakからリリースしている音楽家たちの共演で、昼の12時30分から始まった。実験音楽/アンビエントのレーベルと言っていいと思うが、今回出演した3者のアプローチは全く異なるもの。私は、ライヴハウスで何組も続けてライヴを見ると疲れてしまう性質なのだけど、今回は2時間ほどのステージに常に新鮮な空気があって心地よかった。

売り切れ間近という情報をツイッターで見かけたのが2日前の15日。急いで予約したのだけど、会場に行くと確かにほぼ満席。小さいスペースだけど、3〜40人はいたと思う。少し暑い。ただ、どこかフレンドリーな空気がある。単に何名か友人を見かけたからかもしれないが・・・。演者から一番近い椅子に腰掛けたら十数年ぶりに会った友人が斜め後ろの席に座っていて、めちゃ驚いた。

鈴木彩文 & 岡川怜央のステージは、エフェクトした声とモジュラーシンセによる演奏。ドローンとノイズを出し入れする岡川と、声を空気のように溶かしていく鈴木の組み合わせの完成度が高い。共演は何度かやっているらしく、阿吽の呼吸と言っていいコンビネーション。岡川さんの出す音は低音と高音のバランスが絶妙で、端的にカッコいい音。自分でもあの音出して〜と思いながら観ていた。後ろを振り向くと、真昼の小川町の大通りが見えた。


遠藤ふみはシンプルなピアノの弾き語り。なのだけど、体に不思議な存在感があって、目が離せない。サンダルを脱いで、左脚を少し後ろに傾けながら、カーディガンを肩にかけて俯きがちにピアノに向かう。指先以外に大きな身体の動きは見られないのだけど、ダンスの如き体の集中を感じる。集中と同時に、弛緩を覚える。ピアノの和音と旋律は断片的に現れるが、明確な輪郭を持たない。穏やかで曖昧で、緊張が走ったと思ったらすぐに脱力する。ドビュッシーや坂本龍一の曲を想起しないこともないが、明確に違う何かが流れている。
遠藤さんは砂時計を使っていて、最初はピアノの左端に立てていて、砂が落ち切ると演奏をやめた。と思ったら、譜面台の右側に置き直して、砂時計が斜めになる状態でまた弾き始めた。と思ったら、砂が落ち切る前に演奏を終えていた。ちょっと笑った。


平木周太は、インドの楽器、シュルティボックスを使った演奏。木の小箱という趣でかわいい。シュルティボックスは持続音を出すための楽器で、蛇腹に息を入れて鳴らすからアコーディオンやバンドネオンと原理は近いのだろうけど、音程を変えるための蓋の開け閉めを頻繁にできないから細かいメロディ変化には適さない。空気を入れると、音が伸びていく。その時間自体を感じるための楽器だと思う。

低音はふくよかな音色なんだけど、高音は刺すような鋭さがあって、その共存が面白い。インドの楽器だったと知ったのはパフォーマンス後に平木さんに直接聞いたからなのだけど、私はむしろ日本列島の風土を感じていた。平木さんが座布団に座って演奏していたからのも影響していると思うが、低音は田んぼの田園風景、高音は怪談のひんやりした恐怖を思わせるものがあった。高音の冷たい感触は、鋭い和音を選んでいたからかもしれない。なんか、俺が知ってる夏だなぁ、とかなんとなく思って聴いていた。

平木さんのほぼ真後ろで見ていて、彼の手がよく見えた。手は呼吸のようにリズムがあって、そのリズムが持続音に反映しているのが感じられた。呼吸が手の動きになり、手の動きが音になり、音が耳に届く。そのプロセスを個別に感じられるのが、楽しかった。


穏やかな気配の中で、ハードコアな実演が行われる。これは特異なことだし、生活と表現の実践をかけ離さずに結びつけるにはどうすればいいかという問いへの回答のようにも思えた。私にとって表現は、コミュニケーションであることが第一義なのだとふと思った。音楽を作ることもそれについて書くこともしちめんどくさい作業だが、そこにはそれ独自のコミュニケーションの形式がある。映画でも本でも演劇でも絵画でも独自の形式がある。そうした形式に内在するものを手放せないから、私はこのように文章を書いているのだと思う。少し疲れた。首の筋を伸ばして、水を飲む。




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