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き 「吉祥寺」

吉祥寺が最寄り駅のひとつになるなんて思ってなかった。僕が今住んでいるところは、西武新宿線と中央線のちょうど真ん中あたりだ。駅で言うと三鷹と東伏見の間ぐらい。どちらに行くにもチャリでちょうど10分ぐらいのところ。徒歩だと25分ぐらい。ふかわりょうさんのネタとかにもあったし又吉さんの小説にも出てくるのだけど、「吉祥寺が最寄り駅」と主張する人の数は多い。でも、その人の話をよくよく聞いてみると「駅から徒歩40分」だったりする。最寄りじゃねーじゃんかよ、っていうね。武蔵関だよお前の最寄り駅は! っていうね。又吉さんの『火花』にそういうシーンが出てくる。中目黒とか港区とか松濤とか、そういうのともちょっと違うのだけど、吉祥寺というのは「ブランド力が高い」のだ。田舎から出てきた一人暮らしの若者が最初に憧れる街としてのブランド力。同じようなジャンルの街として下北沢がある。

そんで、僕は東京では縁あって練馬を中心に住んできたのだが、妻の実家にだんだん近づく形で、今や吉祥寺から自転車で15分のところに住んでいる。まぁ、歩いても行けるけどね。え? 時間? 45分(キリッ)。『火花』現象だ。でも、自転車で吉祥寺に行けるというのは、思っていたよりも全然便利なんですよね。吉祥寺って、新宿をコンパクトにしたぐらい、「新宿にあるものならすべてそろってる」感じなんですよね。

スタバも駅周辺に7、8個とかあるし、もちろん銀行のたぐいもそろっていて、PARCOも東急もドン・キホーテもギャップやユニクロの旗艦店も、各種セレクトショップも、東急ハンズも映画館も、蒙古タンメン中本や天下一品や一蘭や青葉など、ラーメンの各種有名店も、考えられるすべてがそろっている。あれ? 新宿行く必要なくね? ってなる。問題はコンパクトゆえ、どこも混んでいるというぐらいで。でも、混んでいるのは新宿も同じことなので。多少の混雑を我慢できるぐらいに僕のコンディションが良ければ、吉祥寺ほど便利な街は他にないのである。ちなみに夏は近づく気になれない。「暑さ」×「周囲に人がいっぱい」は僕には無理だ。どちらか一方しか同時には耐えられない。

又吉直樹さんは吉祥寺に住んでいたから、エッセイに良く吉祥寺のことや井の頭公園のことが出てくる。井の頭公園周辺を歩くと古着屋やスタバの合間に、純喫茶みたいな雰囲気の老舗の喫茶店があって、「きっと又吉さんはここで太宰治の文庫本を読みながら、ピースのネタを書いたりしてたんだろうなぁ」と夢想したりする。まぁ、入ったことはないんだけど笑。

大都市の異常な便利さと、古い町の風情が同居している。人がいなければこんなに最高の街はないと思うのだけれど、こんな魅力的な街を東京の1000万人が放っておくはずもなく、いつも人でごった返しているのだ。でも、夫婦でデートに行く時は吉祥寺が多い。行く店に困ることもないし、何も買わなくても店を見ているだけで楽しいから。15年間、東京とは折り合いが悪かったが、ちょっとだけ、今、東京を楽しんでいる。


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