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吾妻ひでお「地を這う魚」は意外と《不条理》ではなく

漫画家の青春記(的なマンガ)っていいですね。
藤子不二雄お二人の「まんが道」は今や古典(というと怒られるかもしれませんが)で超・有名ですが、私もお気に入りを2冊持っています。
ひとつは永島慎二の「若者たち」(TVドラマ&映画「黄色い涙」原作)。

もうひとつはこの本、吾妻ひでおの「地を這う魚」

と……比べてみると、中古本市場で2ケタも違うんですね、ま、どうでもいいですが……。

「Taste」という意味では「地を這う魚」がより好みです。
1937年生まれの永島慎二、1950年生まれの吾妻ひでお、どちらもかなりの先輩ですが、より時代が近い吾妻ひでおサンに共感を持つだけでなく、表現形態が好きなのです。

吾妻ひでおは「不条理日記」など不条理ギャグ漫画で知られ、アル中、失踪などを経験し、その実像もマンガ化されています(「失踪日記」「アル中病棟」など)。

「地を這う魚」では、吾妻ひでお本人と思しき主人公(工場勤務だったがすぐに辞めてしまい、極貧の漫画アシスタント生活に入る)の周りの人間すべて(女性以外)は動物かロボットか妖怪状の生命体で描かれ、蛸やイルカが空を飛んでいたりもする。

金の無いアシスタント生活が、まさに「地を這っている」ように描かれます。

主人公が1か月1万円の家賃で住み始めるアパートが描かれますが……

この外観、懐かしい!

私が18歳で上京し、住み始めた4畳半・台所トイレ共同のアパート下宿の名が「むさしの荘」でした(ここに住んだ1年間を描いた長編小説表題は『むささび荘の四季』)。
外観は、まさにこんな様相でしたね。
「どうしてひらがな?」
先輩住人に尋ねたら、
「大家がここを建てた時に調べたら、漢字の『武蔵野荘』ってのが既にあったんだとさ。で、急遽ひらがなに変えたんだって」
ということは、その「漢字の『武蔵野荘』」が吾妻ひでおが住み着いたアパートかもしれない。

いやあ、こんな感じでしたよ……。

魑魅魍魎はいなかったけど……いや、いたか?

いや、本の紹介から逸れてしまいますが、このアパート1階に奇妙な人がいましたね……。7浪中の《長老》です:

上の記事を読んだnoterさんの指摘により、この《長老》がどうやら『キテレツ大百科』の《勉三さん》モデルであった疑いが浮上しました:

すみません!……かなり話が逸れました。

吾妻ひでおサンは、不条理ギャグ漫画で知られており、この「青春日記」にも、工場の上司や同僚、アシスタント時代の編集者、先生、同僚など、みなさん妖しい動物姿ではありますが、描かれる世界はきわめてマトモです、不条理ではありません!
読者がどういう人生を歩んで来たかにも依存しますが、
《自分は何者なのか?》はっきりわからない若い頃を経験している人ならばきっと、
「そうか、……そんな感じなんだろう……」
と思うんじゃないかな……。

なお、吾妻ひでおサンは2019年秋に69歳でお亡くなりになりました。弔辞は萩尾望都サンらが務められたそうです。

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