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前髪が張り付く。
樹木の帝国は白い霧に包まれ、なにかの動物の鳴き声が甲高く響いた。
夜明けか夕暮れかも分からないここは、きっと地球の裏側だ。
嘘みたいに鮮やかな鳥が、深い緑にハイライトを彩っている。
嘘みたいな色のこの植物には、きっと毒があるに違いない。
私は森を彷徨っている。
驚くほど大きな草木を面白がったのも束の間。
煩わしい熱気と湿気に、気持ち悪い虫たちが蠢いている。
もうこんなところはうんざりだ。
しかし、森は全く終わりが見えない。
なぜ私が今ここに居るのかも分からない。
しかし、確かに私が選んで訪れたのだ。
だから誰にも助けを求めることができない。
私はまるで虎である。
虎は湿った体を細くして、ジャングルをくぐり抜ける。
少し開けた空間を発見した。
そこには裸の女が横たわっているではないか。
虎は静かに茂みから顔を出し、女の様子を伺った。
すると女はそっと私に手を差し伸べた。

夢を見た。
暖房をつけて厚い服を着たまま、眠ってしまったらしい。
寝汗で張り付いた髪が煩わしい、12月の午前1時。
近くにあった麦茶で乾いた喉を潤す。
全身が浮腫んで、起き上がるのにとても労力が要る。
頭が痛い。
さっきの女は誰かに似ていた気がする。
しかしどうしても思い出すことができなかった。

この家のトイレはこんな形だっただろうか。
こんな古臭いかたちのトイレではなかったはずだ。
しかしそんなことはどうだって良い。
またもや休日を睡眠で無駄にしてしまった。
そのことのほうが重要だ。
ベッドに戻ると、近所の黒猫が私の部屋に居た。
玄関は閉まっていたはずだが、どのようにくぐり抜けたのだろうか。
しかしそんなことはどうでも良かった。
明日は仕事なのだ。
再び眠りにつこうとする私に、黒猫が乗っかってきた。

ざあざあ、という音が聞こえる。
雨だろうか。
足元がとても寒い。
黒猫は次第に岩のように重くなり、私は息ができなくなってきた。
気がつけば体がベッドに張り付き、猫を振り払うこともできない。
このままでは死んでしまう。
誰かが私の横に立っている。
あの女か、いや、男だ。
暗くて顔がよく見えない。
苦しむ私を無表情で見下ろしている。
誰か分からないが、とにかく助けて欲しい。
もはや恥などない。
助けてくれ、と私は男に目で訴えかけた。
ざぶん。
男は消えた。
ざあざあ。
部屋の床は海だった。

夢を見た。

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