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コロナ禍、オンライン上で展覧会をつくる試み「宝船展 2021@アート長屋」成果と課題

「SMFアート長屋」は、「文化庁 平成26年度 地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業」を機に設立され、アートに関わる誰もが展示・表現できる「アートプラットフォーム」をオンライン上で展開する試みです。

この長屋を展示会場とする「宝船展2021@アート長屋」は、「宝船展 2020 年 10 月より「埼玉県文化振興課オール埼玉で彩る文化プログラム公募事業」の助成を受け、ウィズコロナ時代のアートを考える実践的な取り組みの1つとして実施しました。

この試みの主な動機は、COVID-19の影響で縮小してしまっている文化芸術活動を絶やさず、繋げ、その可能性を広げたいというものです。


「宝船展2021@アート長屋」

展覧会会場:http://artnagaya.jp/index.html?page=takarabune2021

展覧会期間:

2021年3/17-3/31
(2021年3/31以降は、アーカイブとして閲覧可能な状態でサイト上に格納)


●1:「宝船展2021@アート長屋」の構成

(1)「宝船展 2021@アート長屋」作品

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「宝船展2021@アート長屋」はオンライン上の展覧会として、広くインターネット上で作品出展を呼びかけ集まった作品に加え、SMFが毎年、埼玉県立近代美術館で開催する展覧会「SMF宝船展2021@MOMAS」(2021.3/24-3/28に開催)と連携し、美術館空間で見られる作品の関連映像を含め、54の作品をオンライン上で展示しました。

作品の募集は、2021年2/15-3/7の期間にホームページ、TwitterやFacebookで行われ、随時集まる作品を編集・アップロードし、オンラインの展示空間に展示しました。中にはオンラインでの出品に慣れていない作家の参加もあり、手紙でのやりとりを通して作品の出品を実現しました。


(2)「宝船展 2021@アート長屋」関連企画

展覧会会期中に、ZOOMアプリを用いてオンライン上でトークイベントを2回開催し、その様子を展示しました。

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今回の取り組みの意図を参加者と共有し、作品出品者が作品制作の意図やコンセプトなどを伝え、参加者との意見交換を行いました。全てオンライン上でのやり取りとなりましたが、映像を通して作家との交流が出来、企画や作品について意見交換をすることが出来たことは意義深い時間となりました。オンライン上での作品共有のやり取りは、1つの画面を皆で共有することになり、その点で単眼的に集中して鑑賞を行うことが出来る一方、空間全体の作品の位置関係や間、作品のサイズ感といった感覚を得ながら作品を観ることはできないので、その良さと欠点を意識的に持つことが重要だと感じました。意見の交換に関しては、1つひとつの意見を全員が聞くことで、その意見と次の意見の連関を共有しやすいという利点がある一方、広がりのある意見交換をするには、時系列の把握が必要で、チャット機能などを工夫して用いることでオンラインでも豊かな交流は可能であると実感しました。


・「宝船展2021@アート長屋」関連企画①
 ZOOMでのオンライントークイベント
vol.1

「コロナ禍にオンラインで展覧会をつくることを考える」

 

開催日時:2021.3/20 14:00-16:00


参加者:10名

内容:

①:自己紹介

②:SMFのこれまでの取り組みについて共有する
SMFウィズコロナのコンセプト・これまでの取り組みについて :柴山拓郎
SMFの活動について、SMF宝船展@MOMASの開催について:中村誠

③:オンライン作品鑑賞・意見交換

④:意見交換や感想共有など

⑤:取り組み総括:浅見俊哉


・「宝船展2021@アート長屋」関連企画②
 ZOOMでのオンライントークイベントvol.2


「コロナ禍にオンラインで作品を鑑賞すること、それをアーカイブすることを考える」

 

開催日時:2021.3/31 19:30-21:30

参加者:20名

●内容:
①:自己紹介・趣旨説明

②:ウィズコロナのSMFの取組について:柴山拓郎

③:リアル空間とオンライン空間の展示について:石上城行

④:「宝船展2021@MOMAS」作品鑑賞とアーカイブについてのプレゼンテーション:山本未知(ソーシャルデザイナー)・大原由(アーティスト)

⑤:オンライン作品鑑賞・意見交換

⑥:取り組み総括:浅見俊哉



3:「宝船展 2021@MOMAS」展覧会風景


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2021.3/24-3/28に埼玉県立近代美術館で開催された展覧会「SMF宝船展2021@MOMAS」の展覧会会場を、山本未知と大原由が記録した映像作品を展示。コロナ禍で展覧会に来られない人たちにも展覧会そのものを伝えられないかと考え制作しました。



4:「宝船展 2021@MOMAS」アーカイブ映像

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「SMF宝船展2021@MOMAS」の出品作家にインタビューを行い記録した映像作品。山本未知と大原由が制作。作家の作品と合わせて、作家の肉声を記録することで、コロナ禍の環境の中で何を考え、感じ、制作を行い、展覧会に参加したのかを伝える貴重な作品となりました。


●2:成果と課題

「宝船展2021@アート長屋」を終えて感じることは、「宝船展2021@アート長屋」をつくっている時(2020年7月頃〜2021年3月頃)と、このテキストを書いている今(2021年7月)では、COVID-19を取り巻く状況や環境に大きな変化があり、その頃の感覚や考えを詳細に思い出すことが難しいです。そのような状況の中、「SMF with コロナ:ソーシャル・ディスタンス時代のアートを考える」の一連の取り組みとその記録をつくることは、今後重要になると改めて感じます。この取り組みに関わっていただいた全ての方に深く御礼申し上げます。

「宝船展2021@アート長屋」の成果は、SMFがこれまで培ってきた人とのつながり、また取り組みをCOVID-19の影響下でも生かし、形にした点にあると思います。展覧会をつくる中で重要なコミュニケーションは、オンラインで全て行わなくてはならず、詳細の共有は難しく、小さな齟齬が重なることで、企画の空中分解に繋がりかねません。しかし、コロナ前から、毎月定期的に集まり、コロナ禍でのミーティングも早い段階でオンライン実施し、企画の発案、実施に至るまでの経験がメンバーにはあり、それによる連帯の共有がありました。その土台の上で、新たなオンライン上の試みが実現し、まだリアルで会ったことのない作家との新たな関係も生まれました。さらに、オンラインでの作品の共有や、トークセッション時の利点と欠点の獲得も今後の活動に生かせる成果です。

課題は、様々な状況に左右され、企画自体を1から構築しなくてはならない場面が多々あり、それに対応する時間と労力が膨大になることです。

今回は、「宝船展 2021@MOMAS」との連携も行い、展覧会を構成していたので、公立美術館の開館の状況に合わせ、再構成する場面が多数ありました。当初「宝船展 2021@MOMAS」は2021年2/24~28開催の予定で、「宝船展 2021@アート長屋」の前に先行して開催される予定でしたが、埼玉県立近代美術館の休館(緊急事態宣言の発出で休館期間を2021.2/8まで再延長、さらに緊急事態措置の延長に伴い、休館期間を2021.3/21まで)を受け、「宝船展 2021@アート長屋」が、先に開催され、「宝船展 2021@MOMAS」がその後開催される流れとなり、想定していた展覧会の設定が逆になってしまいました。その状況の収集、展覧会の企画の再設定はもちろん、各担当、出品作家への連絡調整等とのコミュニケーションは想像以上の労力が必要になりました。今後は、さらに様々な状況に対応できるような企画、各種プランの複数パターンの想定、臨機応変に対応できる組織、メンバーの構成などが重要になると考えます。



●3:関連リンク

この取り組みの詳細は以下のサイトでご覧になれます。

SMF with コロナ-ソーシャルディスタンス時代のアートを考える
活動記録集

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http://www.artplatform.jp/images/top/SMF_with_corona.pdf





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⚫︎写真作家・造形ワークショップデザイナー ・キュレーター・「時間」と「記憶」をテーマに制作。2012年〜ヒロシマの被爆樹木をフォトグラムで作品制作 ●中之条ビエンナーレ2019参加アーティスト ●さいたま国際芸術祭2020 市民プロジェクトコーディネーター