shunyodo2021

『言葉で人を照らす』フリーランスのライター。屋号は春陽堂。 言葉に関わる水先案内人を目…

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『言葉で人を照らす』フリーランスのライター。屋号は春陽堂。 言葉に関わる水先案内人を目指しています。 40年余り、朝日新聞社で新聞記者や雑誌編集者を経験。 インタビューや記事作成でたくさんの人に会い、大切な話をたくさん聴いて記事や物語に著してきました。

最近の記事

北京で会った音楽教師

 その人の名は書けない。北京で会った元音楽教師の男性としか言えない。その理由を追って書き記す。 戒厳令は準戦争状態 「まことに言いにくいのですが、戒厳令下、つまり準戦争状態の所に行かれる訳ですから、保険の対象にはなりません」  目の前に積まれた百万円の現金と香港に向かう航空券。夜になって雑誌編集部に呼び出された会社の系列旅行会社の男性は事務的に説明を続けている。雑誌記者のぼくは明日の朝には成田からとりあえず香港に出発することになっているが、まだ現実感がない。最終目的地は、

    • 一期一会

      金子兜太。2018年2月20日、98歳で生涯を終えた。私が会ったのは2010年6月2日、梅雨の合間のある晴れた日に、埼玉県熊谷市にある金子さんの自宅を訪ねた。俳人小林一茶の句の解題をしてもらうためだった。当時在籍していた朝日新聞土曜週末版別刷りbeに「サザエさんをさがして」という欄があった。長谷川町子さんが載せた4コマ漫画の中にあるキーワードから深堀りして記事にするという企画だ。下調べで、私は「汚れ猫 それでも妻は 抱きにけり」という小林一茶の句を見つけた。これで金子さんに会

      • ロケンロール

        2019年4月3日。桜が舞い散るころ、青山葬儀所に出向いた。内田裕也さんのロックンロール葬に、縁あって私も招かれた。ミュージシャンや俳優と、参列する面々のかぶくさまを予想し、それなりに対抗しようと、衣装に気張った。20年前に買ったエルメスの古着で、黒いロング丈の革コートを羽織って参列した。 ミスターロックンロールと異名をとった内田裕也さんは、2019年3月17日、79歳で死去した。さかのぼること、その約10年前に一度だけ「ロングインタビュー」をしたことがある。朝日新聞の土曜

        • 永遠の不良少年

          作家瀬戸内寂聴さんの訃報が飛び込んできた。人物エッセイとして俳優だった故萩原健一さん(2019年3月死去)との思い出を書こうと思っていたので、巡りあわせの妙に少々驚いた。というのは、ショーケンこと萩原さんが寂聴さんのことを「おふくろ」と呼ぶような交友があったことを知っていたからだ。寂聴さんは「永遠の不良少年」のようなショーケンについて「かわいいの。何かほっとけないのよね、才能を信じているから」と私のインタビューで答えていた。  私は2021年3月まで、朝日新聞社で記者、編集

        北京で会った音楽教師