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納得した命の削り方で、自分だから出来ることで貢献したい。|『オナイドシ』 おゆき

夏の暑い日差しが照りつける中、花柄のスカートがとても似合う一人の女性がやってくる。2023年5月にフリーランスになりたての27歳、おゆきが今回の主人公だ。

おゆき
1995年、大阪府生まれ。大阪大学外国語学部卒。大手メーカーの人事として5年間勤務。国家資格キャリアコンサルタント取得をきっかけに、自分のキャリアと向き合い会社を退職。2023年から主にHR・キャリア分野でライター、コピーライターとして活動中。書道師範でもあり、Podcastアートワークなどを手がける。

書くことが癒しであり、書いたことが伝わると喜びになる

優しい笑顔とほどよい関西弁、緊張しながらも自分の言葉で伝えようというまっすぐな姿勢。初対面の人でも、知らぬ間に安心感たっぷりの “おゆきワールド” に包みこんでしまう。ただ本人は、話すことが苦手だそう。

「相手に言葉で伝えることが難しいんですよね。でも、文章に書いてみたら、スラスラ言語化できる感覚があって。書くことを通じて、自分の思っていることが相手に伝わっている感覚を得られるのがわたしの喜び。考えていることを言葉に書くサイクルが、わたしのなかで心地良かったんです」


生まれも育ちも大阪。小学生の頃から大学生まで続けたバトミントン、3歳からはじめた書道をはじめ、ひとつのことをコツコツやることが多かったという。そして、小さい頃から大の読書好き。そこが興じ、読書感想文も好きだったそう。


「高校・大学当時は、日記を毎日つけてましたし、会社員時代は、適応障害や軽度のうつ、ストレスで入院したこともありましたが、そういった辛いときこそ、書いて自分を癒していました。最近だと、モーニングノートをつけてるかな。自分の考えがまとまっていなくても、紙に書いたら案外悩むほどでもなかった、と気付けたりする。形を変えながらも、書くことはずっと続けましたね。コツコツ続けられたものが多いのは、楽しかったからっていうのが大きかったですかね。人それぞれ楽しいことがある中で、わたしは書くことが心地よかった。だから、細く長く出来たんです。占いでも、前世は”文筆家のたまご”と言われていて(笑)。ライターになった今も、書ける喜びを噛み締めながら毎日を過ごしています」


読書という文脈でいくと、大学でデンマーク語を専攻していたことも関係しそうだ。

「文学が好きで、特に人魚姫などのアンデルセン童話が好き。なので、その国の言語で読みたいという思いがあったんです。完全に趣味の世界で、理系の頭があれば理系に進みたかったですけど(笑)。人魚姫が実は男性だった、みたいなテーマで卒論も書きました」


わたし、この道じゃない。180度方針転換。

文学、書くことが好き。そうすると、出版業界や、文学に携わる仕事、言葉で伝える広報の仕事に就職しそうなイメージだが、実際は違った。


「同じ学部生の中には、デンマークへ留学に行く子もいましたが、わたしはストレートで大学を卒業して安定して働きたいという気持ちが強く、ずっと公務員試験のための予備校に通っていました。1年間学んで、いざ試験1週間前ってなったとき、わたし公務員じゃないって、ふと思ったんです。勉強がしたかっただけで、公務員になりたかったわけではないことに気づいて。そこから方針転換して、就活解禁の3月から民間企業の就活をはじめました。たまたま祖母の家をLIXILでリフォームしていたこともあり、空間を変えることが人の心を豊かにするのかという気持ちが芽生え、LIXILの選考に参加することにしました」


選考に参加したLIXILで内定を獲得し、就職。人事としてキャリアをスタートさせる。人事の仕事は、自身の性格的に向いていると思っていたそう。

「営業はキラキラして喋りが上手い人がなるもの。自分はしゃべるのが得意ではないから、陰でサポートしたいなって。それに会社って、人でできているじゃないですか。人に関わることができる人事という仕事は魅力的で、自分の性に向いていると思ったんです」

人事の仕事を5年続けられたことが、自身に合っていると語った証拠だろう。酸いも甘いも経験した人事の仕事、印象に残っている経験とは。

「人材開発部として社内向けに研修をしていた中で、キャリア研修というものがあって。社員の皆さんにキャリア自立のきっかけを与えたり、キャリアを自分ごとにするための企画・運営をしていました。そこで、 “自分のキャリアを見つめ直すきっかけになった” というコメントを社員さんから何度もいただきました。誰かの人生のターニングポイントに自分が関われていることがやりがいで、面白い仕事でした」


ひとつの仕事を一生懸命しているだけでもすごいことだが、LIXIL在職中にキャリアコンサルタントの資格を取得したことも、おゆきを語る上で欠かせない。

「きっかけは、もっと人の話を聞いて引き出して、人の力になりたいという思いでした。キャリアコンサルタントを取得するにあたり、自分自身のキャリアを棚卸しする課題を通して、自分のやりたいことは他にあって、ここじゃないという発見がありました」

葛藤、直感、決断

本業の仕事に活かしたいと思って取得したキャリアコンサルタントがきっかけで、やりたいことはここじゃないと気づく。自身の中で葛藤があったのだろうか。

「5年という時間が、自分の中でのなんとなくひとつの区切りでした。激務だったこともあり、残業時間も多く、自分の命を削って仕事をしている感があって。すごく素晴らしいことで、喜びに感じることなんですが、自分の中でずっとやりたいと思っていた “書くこと”にもっと集中したいという気持ちと、違う業務がどんどん降りかかってくる現実。自分の思いと現実のギャップが大きくなっていって、今だ!と直感で思いました。周りからの反対もありましたが、LIXILを退社することにしました」


民間企業への就職にシフトしたときも、LIXILを退社したのも、自身の直感に従っての選択。今じゃないとできないことを、常に大事にしているのが印象的だ。

「結婚して2年が経過しまして。まだ子どもはいませんが、今後のライフプランを考えたときに、LIXILにいて産休・育休を取得した方が金銭面・周囲の目からしても良かったのかもしれません。でも、今じゃないと、このままずるずるいっちゃうという気持ちもあって。今だっていう気持ちが勝ちましたね。命削ってみんな生きてるじゃないですか。その命の削り方を、中途半端な削り方ではなく、自分自身が納得する命の削り方をしたくて


自分自身が納得した命の削り方。

「わたしたちは命がずっとあるように日々錯覚してしまいますが、いつ地震が来るか分からないし、自分の身に何が起こるか分からない。だからこそ、一日一日を大切にしたいですよね」


納得した命の削り方をしたいと思い、この春にLIXILを退社し、フリーランスのライターとしての活動をスタートさせた。

「キャリアコンサルタントの資格を活かして、キャリアに関するコラムや人事に関する記事を執筆しています。例えば、ライフプランに悩んでいる方へ役立つキャリア理論を紹介したり、国の資料や情報を踏まえてより生きやすくなるような提案をしたり、自己分析ツールの紹介を書いたりしています」


フリーライターとなって2ヶ月。生活や心境の変化があるのか聞いてみた。

「お金をもらっていいのかと思うくらい、毎日遊んでいるみたいに楽しくて。ライフスタイルとしては、平日も土日も働くことがあったりで、働く時間自体は変わっていないのですが、自分で選んだ仕事を自分でできて、自分の価値を納得して提供できることがこんなにも素晴らしいことなんだと、実感しています。その一方で、怖くて眠れない夜もあります。わたしがもし倒れたら、仕事がなくなるというのを実感して。そんなときに支えになるのが夫です。面白くて、毎日笑わせてくれる。昨日は踊ってくれました(笑)」

当たり前にありがとうを。

今この瞬間を楽しむという意識を持ちながら自分のマインドを保っている彼女が、日々を生きる中で大切にしていることとは。

全部にありがとうって思うようにしてます。今こうやって話せていることも感謝するべきことだし、体が動いていることも当たり前じゃない。全部にありがとうって思えたら、一瞬一瞬がすごい愛おしく感じてきて。なので、日々ありがとうって思うことですね。

あと、3つの軸 ①貢献できているかどうか、②自分が楽しめているか、③成長しているかどうかを意識しています。貢献できているかは、どんなことでも生きていれば何かしらに貢献していると思うけれど、得意なことで最大限に貢献したいです。楽しめているかというのは、今まで通り直感力を信じて、楽しいと思ったところにチャンスがあると思うので、突き進んでいきたい。成長しているかどうかは、自分にとって成長はモチベーションになるので、自分が成長しているな、楽しいなと思えることをどんどんやっていきたいですね」


最後に、同じ時代を生きる20代後半の世代に向けて、20代の残りでやってみたいこと・チャレンジしたいことを聞いてみた。

「2つあって、1つは自分の本を出したい。エッセイを書くのが好きなので、どんな形であれ世間に出して、少しでもこういう生き方があるんだよって伝えて、誰かの心が軽くなるきっかけになれたらと思います。あとは、20代ではないかもしれないけど、いつか子育てを経験してみたい。子どもに胸を張っていられるような生き方、自分自身の軸を持って生きていければと思います」

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オリジナルインタビュー「オナイドシ」
「オナイドシ(同い年)」と聞いた瞬間、その人との距離が一気に縮まるのってなんでだろう。同じ時代を生きている仲間感なのか、見ていたテレビや流行りのものをきっかけに共感できる場面が多いからなのか。はたしてなんだろう?ということで、自由きままに同い年の知り合いに話を聞きながら、オナイドシについて考えていくオリジナルインタビューです。





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